蔦屋書店コンシェルジュが勧める「読書」をめぐる本(1/4)

三砂慶明 「読書室」主宰

『読書について』光文社古典新訳文庫
Arthur Schopenhauer/原著 鈴木 芳子/訳

 

大阪の梅田 蔦屋書店で主に人文科学書を担当しています。
私は、本に人生を何度も助けてもらいました。本欄ではいくつかのテーマで、私の人生を助けてくれた本や夢中になって読んだ本、おすすめしたい本をご紹介して参ります。

 

コラムニストの山本夏彦は、「健康な人は本を読まない」と本を読む人をばっさりと斬り捨てていますが、私が山本夏彦の創業したインテリア雑誌に就職先を決めたのは、夏彦さんが小学4年生のときに書いた「人の一生」という文章でした。10歳かそこらで人間の生涯を見通した人が、一体その後、人間をどう見て、どう考えたのか。知りたくてたまりませんでした。

 

どこに住むかを決めた理由は、作家、中島らもの本です。らもさんが文学やエッセイで踏みつぶした街を毎日歩いてみたい程度の理由で、果たして住む場所を決めてもいいものかどうかは、いまだによくわかりませんが後悔はしていません。

 

どれだけ苦手な人であったとしても、自分が夢中になって読んだ本を好きだといわれると、どうしたって好きになってしまいます。本には何か、私の欠落している何かを埋めるというよりかは、開くきっかけを与えてくれます。本はそのときその場所でしか味わうことのできない体験を与えてくれる、私にとってはかけがえのない友人ですが、果たして本を読むことは良いことなのでしょうか?

 

■究極の読書論『読書について』

 

若き日のニーチェを鷲掴みにし、トルストイやトーマス・マン、カフカなどの文豪や精神分析の開祖フロイトに多大な影響を与えた哲学者ショーペンハウアーは、『読書について』で、はっきりとこう書いています。

 

「本を読むとは、自分の頭ではなく、他人の頭で考えることだ。(中略)自分の頭で考える人にとって、マイナスにしかならない」。そして、さらに、「自分の考えを持ちたくなければ、その絶対確実な方法は、一分でも空き時間ができたら、すぐさま本を手に取ることだ」とまで書いています。

 

特に、「人生を読書についやし、本から知識をくみとった人は、たくさんの旅行案内書をながめて、その土地に詳しくなった人のようなものだ。こうした人は雑多な情報を提供できるが、結局のところ、土地の実情についての知識はバラバラで、明確でも綿密でもない」という言葉は、まさしく私のことを言っているような気がして耳が痛いのですが、ショーペンハウアーは本を読むこと自体を否定しているのではなく、自分の頭で考えることがいかに大切かを述べるために「悪書」の多読を戒めています。ショーペンハウアーの思想は辛辣ですが、一文一文が宝石のように美しいだけでなく、皮肉やユーモアも抜群で、永遠に罵倒され続けたいとすら思います。古典ですが、この本ほど読書について考えを深めてくれる本はありません。

 

『読書について』光文社古典新訳文庫
Arthur Schopenhauer/原著 鈴木 芳子/訳

この記事を書いた人

三砂慶明

-misago-yoshiaki-

「読書室」主宰

「読書室」主宰 1982年、兵庫県生まれ。大学卒業後、工作社などを経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ入社。梅田 蔦屋書店の立ち上げから参加。著書に『千年の読書──人生を変える本との出会い』(誠文堂新光社)、編著書に『本屋という仕事』(世界思想社)がある。写真:濱崎崇

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