2018/06/25
大岩 ヴィレッジヴァンガードららぽーと立川立飛店店長・百合部部長
『昼下がりに、また。』『明日の君に花束を』一迅社
片倉アコ/著
今回のテーマは「人妻百合」。
最近社会人百合が人気ですが、こちらのテーマもなかなか奥深いかと思います。
今回はこちらの2冊を紹介させていただきます。
昼下がりに、また。/片倉アコ先生
明日の君に花束を/片倉アコ先生
人妻百合といっても、人妻×人妻だったり、人妻×女の子だったりするのですが
5月の新刊、片倉アコ先生の「昼下がりに、また。」は人妻×人妻パターン。
結婚3年目。ふとしたことから旦那の浮気を疑った主人公、澄香(すみか)は思わず家を飛び出し、話を聞いてくれた隣人のデザイナーに言い寄られ、彼と不倫をしてしまう。
その翌日、澄香は自宅のドアの前でとてつもない美人に声をかけられた。
「どうでした?うちの人は―――」と。
声をかけてきたのはもちろん、隣人の妻である。
この吸い込まれそうな美人は、怒っているわけでもなく、ふいに澄香のくちびるを奪う。
そして家に招かれた澄香は彼女とも体の関係も持ってしまうのであった。
泥沼の昼ドラのように始まるこの物語。
今後隣人の人妻との関係はどうなってしまうのか。そもそも隣人の夫婦関係も謎である。先の読めないストーリーでとにかく続きが気になる作品。
主人公の澄香は、旦那の靴下に長い髪の毛が入っていても聞けないタイプで、帰りが遅いこともあり、一人でモヤモヤを募らせてしまう。結果的にはそれは宴会用のカツラの毛だったのだが、そこで聞けない性格が、「(略)私のような石ころだってキラキラに輝くことができるって分かってスッキリしました」「私なんてなんの取り柄もないただの平凡な主婦だし…」「昔から何か意見を言ったり決めたりって苦手で…」という発言に表れている。自分に自信がなくて、旦那にモヤモヤしている主婦。ついでにときめきもない。そんな時に「自分にもっと価値を見出してください」なんて、綺麗な女の人に言い寄られたら。何か起こっちゃうのかもしれない。それが何という感情かわからないけど。事が終わった翌日の澄香は、どこかスッキリした顔で元気そうだったのも印象的である。
この主人公を見ていて、以前の片倉アコ先生の短編集「明日の君に花束を」に出てくる主婦を思い出した。
主婦とその娘の同級生との百合的関係を描いた作品だが、その作中のモノローグで「結婚して 名字を失い 子どもを産んで名前まで失くした私に また名前を思い出させてくれた」とある。相手が男の人だったらここで自分が「女であること」を思い出してしまうのかもしれない。この関係では女であることより、もっと根本的な「私そのもの」の存在感を思い出させてくれるのかなと。私が私であることを思い出させてくれる関係。と言ってしまうとなんだかすごくいい関係に聞こえてしまうけれど。そのために必要な存在なのだろうと思う。
今回、人妻百合について考えてみて、人妻百合は「私」を思い出す方法の一つなのかもしれないなあなんて思った。生活に、自分に、夫に疲れた主婦が、ふっと陥ってしまうあやうい関係。学生百合とも社会人百合とも違った、大人でディープな世界がそこにはあるのです。
ー今月のつぶやきー
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『昼下がりに、また。』一迅社
片倉アコ/著