一冊の本からはじまったドラマ『ストーリで語る』の奇跡

三砂慶明 「読書室」主宰

『ストーリーで語る』が書店の店頭に入荷したとき、ビジネス書の担当者としてまず考えたのは、ゆうこす著『共感SNS』の隣に置いて一緒に拡販したら売上が伸びそうだな、でした。表紙やタイトルにSNSといった言葉は使われていなかったのですが、著者紹介を読むと、「ごく普通のOL」がたった100日間で、Twitterのフォロワー数2万人を達成し、起業したとありました。

 

本書ではTwitterでのセルフブランディングする方法を、具体的な書き方や考え方だけではなく、なぜそうするのかといった背景まで言語化しています。想定されている読者層も私が勤めている梅田 蔦屋書店の客層と近く、何より著者の実践が同世代の読者を励ましてくれそうな本だと感じました。
平台で大きく紹介するためにPOPを書こうと中身をめくっているとたまたま開いた198頁に目がとまりました。そこには、こう書いてありました。

 

好きな本を好きと発信して起きた奇跡

 

2020年12月にツイッターを始めてから間もなく、1冊の本と出会いました。文章について書かれた本を探すため、いつも通っていた大阪の梅田 蔦屋書店へ足を運んだときのことです。美しく平積みにされているその本に、目が留まってしまいました。
『三行で撃つ』–清廉な白いカバーに、ペンを握った力強い右手の線画がホログラムで輝く表紙でした。

 

え? 梅田 蔦屋書店で、『三行で撃つ』と出会ってくださった? 
はずかしながら、この三行で読み方がかわり、あわてて最初から読み直しました。単純にSNSの本として売るために読みはじめたはずが、気がつけば著者のストーリーの中に引き込まれていました。
思春期に経験した両親の離婚。家計を助けるために高校に通いながら三つのアルバイトをかけもちし、専門学校への学費を稼ぎ、自分の未来を自分の力で切り開こうとする毎日。日々の出会いを大切にし、上司や取引先からかけられた言葉を真剣に聞き、実際に自分の人生を通して行動する。
なぜやるのか。誰のために、何を、どのように、を愚直に問い続ける。ステレオタイプな誰かの言葉に引きずられず、自分だけの「揺らぎ」や心の「さざ波」、「小さく動く感情」を大切にし、自分だけの言葉を綴っていく。そして、書店の店頭で偶然出会った『三行で撃つ』を熟読し、ツイッターに置き替えて、自分の文章術へと昇華させたのです。

 

「文章力磨きたい方。書籍『三行で撃つ』は必読です。最初の一文、長くても三行。そこで読者の心を撃つ。読者は浮気者。書き出し外すと逃げていく。「書く」だけではなく、書くために「生きる」ことが面白くなる。どんなに仕事で疲れた日も、必ず目を通したくなる本です。そんな私はこの頃毎日、残業で鬱 午後8:13 ・ 2021年3月18日・Twitter for iPhone」

 

好きな本を好きだとTwitterで発信したら、著者の想像をはるかにこえる反響がうまれたと著者はいいます。『三行で撃つ』の編集担当のLilyさんが、このツイートに目をとめて、著者との交流がはじまったと本書には紹介されていました。

 

「いましがたあっきゃんさんのツイート技術についてのツイートを読みまして、『三行』が言ってることも活用できそうなことがわかったのは発見でした。SNSを特に意識せずにつくった文章術の本だったので、面白い発見で嬉しいです?✨ 午後9:34 ・ 2021年3月18日・Twitter for iPhone」

 

のちにお話をうかがうとLilyさんは、SNSを想定して書かれていなかった『三行で撃つ』の新しい読み方にTwitter界から波紋が広がり、アマゾンのランキングも急上昇したと教えていただきました。
何より驚き、かつ嬉しかったのは、著者のこのツイートがきっかけになって、本書が誕生したことです。一冊の本からドラマがはじまって、また次の本につながっていく。こんなシンデレラストーリーみたいなことが本当にあることにも驚きましたが、それが自分の勤務店からはじまっていたことにも感動でした。

 

何気ない日常は、見ようとしない者には何も面白くありません。
でも、見ようとする者にはどこまでも面白く、豊かです。

 

自分だけの言葉で書くこと。そして、発信し続けること。そうすれば人生は豊かになる。
本書は、SNSの本でありながら、何気ない日常を生き直す冒険の書です。

 

▶︎編集部よりお知らせ
本記事を執筆された三砂慶明さんが編者を務める書籍、『本屋という仕事』(世界思想社)が6月20日に発売となります。
三砂さんをはじめ、本と人がつながる場所、本屋で働く18人の書店員が、「書店員は仕事に何を求め、自分の個性をどう生かし、どんな仕事をつくっているのか」といったことを問い直しながら、本屋という仕事から見える、新しい働き方の形を考える本となっています。
執筆者の方や詳しい内容など、ぜひこちらのサイトでチェックしてみてください。
https://sekaishisosha.jp/book/b604753.html

 

『ストーリーで語る』
秋山楓果/著

この記事を書いた人

三砂慶明

-misago-yoshiaki-

「読書室」主宰

「読書室」主宰 1982年、兵庫県生まれ。大学卒業後、工作社などを経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ入社。梅田 蔦屋書店の立ち上げから参加。著書に『千年の読書──人生を変える本との出会い』(誠文堂新光社)、編著書に『本屋という仕事』(世界思想社)がある。写真:濱崎崇

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