性差のステレオタイプを乗り越える子育てとは?|リーズ・エリオット『女の子脳 男の子脳』

馬場紀衣 文筆家・ライター

『女の子脳 男の子脳 神経科学から見る子どもの育て方』NHK出版
リーズ・エリオット/著

 

 

スポーツの参加率に大学院への進学率。学業面でも社会的にも、性差という現象はどこにでも現れる。女の子のイメージは未だ「おしゃべり」「友好的」「優しい」のままだし、男の子は「攻撃的」「冒険好き」と思われがちだ。とはいえ、本当のところ、私たちはこうした類の話が好きなのだろう。

 

実際に、男の子と女の子の違いは、政治的傾向を帯びるよりずっと前から議論の的だった。興味の対象、読解力や共感能力、数学の点数などから男女差を測定することは可能だが、性差のパターンは、私たちが考えている以上に複雑らしい。

 

著者のリーズ・エリオットは神経学者である。子どもの脳と発達についての講演も行っている。彼女自身、三人の子どもを育てる母親でもある。子育てに奮闘する一人の母親として、神経学者として書かれた本書は、だから少し変わっている。

 

たとえば空間認知能力について。女性は地図が読めない、なんていわれることがあるが、事実、研究結果は男女でナヴィゲーション能力に大きな隔たりがあることを示している。しかし、この説明だけでは誤解を招きかねない。なぜなら、この研究結果は、けっして男女間に明らかな性差の断絶があるとは語っていないからだ。真実は、もう少し踏み込んだ場所にある。

 

男性と女性には、空間認知において、それぞれ得意な分野がある。「地図を読んで進む」「西に対して北がどちらか知る」「コンピューターの仮想迷路を上手く通りぬける」などの課題を的確に、素早く解決する男性に対して、女性は「目印や物の空間的位置」に優れた特性を備えている。つまり、ものを探したり、目印を使って道を探したりする場合には、女性の能力のほうが高いということになる。

 

しかも、能力は鍛えることができる。空間認知能力を向上させるには運動神経が大きくものをいう。テニスやバスケットボールといった視覚と手を協調させる運動、視覚と脚を協調させたサッカー、水泳や体操など全身を協調させる運動が効果的らしい。

 

興味深いのは、こうした空間認知能力が「学習可能」であると考えられるようになったのが最近だということ。研究者たちは1996年にようやく、この課題が学習によって乗り越えられると、練習さえすれば、誰もが性差を克服できると証明できたのだ。

 

空間認知能力だけではない。言語能力や手先の器用さだって学習と経験によって克服できる。これで男女の性差は生まれつき固定されている、なんて言い訳はできなくなった。本書を読めば、ステレオタイプ化された性差が子どもの教育に影響を与え、個々の特性を妨げていることが理解できるはずだ。「性差は、不安定な標的のようなもの」にすぎないのである。

 

「人間の脳は素晴らしい。だが、その素晴らしい能力のどれ一つとして、男性もしくは女性だけにしか備わっていないものはない。男の子も女の子も、すべての子どもが、性、人種、そのほかの社会的条件に妨げられることなく、自分たちの可能性をあますところなく高めるべきだ。」

 

思い込みは子育ての目的を台無しにする。もし大人が性差を正しく理解し、ステレオタイプのいい加減さを認識し、必要とされるスキルを子どもにきちんと提供できれば、自己評価に苦しんだり、自信喪失に陥ったり、自分を批判するような子どもを成功へと導けるようになるかもしれない。本書には、そのための具体的なアドバイスまでしっかり書かれている。

 

『女の子脳 男の子脳 神経科学から見る子どもの育て方』NHK出版
リーズ・エリオット/著

この記事を書いた人

馬場紀衣

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文筆家・ライター

東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。

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