2022/08/31
竹内敦 さわや書店フェザン店 店長
『物理学者、SF映画にハマる』光文社新書
高水裕一/著
物理学者である著者が好きなSF映画についてあれこれ語る本。さすがの学術的な考察が興味をひきまくりです。ネットでは厳しいレビューも見ましたが、映画評論家ではないのだ、宇宙の専門家とSFで映画談義できたら楽しいだろうなと思って買っておきました。ただ、購入時は本書で触れている映画でまだ観ていないものがいくつかあったので、ネタバレされたくはないなとそれらを観てから読もうと思っていました。そしてようやく観たので読んでみたら、なんと予想以上に面白いではありませんか。新しいSF作品を題材に続編を書いて欲しいくらいです。
タイムトラベルひとつをとっても、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のようにタイムマシンで自由な特定の時刻に行けるものかどうか、動力は何なのか、過去を改変できるのかどうか、改変できたとしたら未来はどうなるのか、などの疑問に相対性理論や量子力学などから学術的に(そしてかなり好意的に)解説してくれます。フィクションだから細かいことは言わないで、と言いたい人もいるかもしれません。でも大丈夫。そんなの科学的に絶対無理、なんて切り捨てはしません。これさえ発見されれば可能かも、なんて夢のあることも言います。むしろ完全にファンタジーだと思っていた事柄が、実は物理学的には筋が通っているとわかることもあり、驚き、楽しめます。
考えてもいなかった新しい視点を与えられたりもします。例えば、過去を改変して現在が変わったとしたら、その変化を認識できるのは誰か。変わる前の世界と変わった後の世界、両方わかる人は存在しないかもしれない。『TENET』の逆再生のように時間を逆行してタイムトラベルする場合、1週間前に行くには1週間分遡らなければいけない。もっともリアルなタイムトラベルと評する『デジャブ』に至っては、気づけなかった伏線に言及されていて、またレンタルして観ないとという気にさせられています。
わたしの個人的ベストな映画『インターステラー』についても、地球からの通信には無理があるとしながらも、ブラックホールについては最新の知見が反映されているそうで、ブラックホールに行ってみたくなりました。積極的に行きたくはないけれど、いざブラックホールにのまれるぞという際には、どんなやつかこの目で見てやるぜくらいには腹を括れそうです。
SF映画をさかなにした物理学の入門書でもあると思います。もっとこのへん知りたいな、と思ってしまいましたから。
『物理学者、SF映画にハマる』光文社新書
高水裕一/著