コロナ禍が突きつけたローカル線の経営問題|『鉄道会社はどう生き残るか』佐藤信之

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『鉄道会社はどう生き残るか』PHP研究所
佐藤信之/著

 

コロナ禍を機に日本の鉄道が岐路に立っている。乗客減少が鉄道経営を直撃し、特にローカル線は厳しい状況に陥った。会社でテレワークが広がり、学校が休校になったこともあって輸送需要は激減し、訪日観光客がほぼ消滅したことで、国際空港へのアクセス路線も利用が低迷した。本書は苦しい状況に陥った鉄道の現状と将来の考え方について示した。

 

鉄道会社は乗客が減ると、運賃収入であるキャッシュフローが激減する。手元資金を厚くするため、JR東日本や西日本は社債やコマーシャルペーパーを発行して資金調達を行った。ホテルや旅行業をグループ内に持つ鉄道会社も大きな打撃を受けた。更に東京五輪で期待していた訪日外国人による「インバウンド特需」も幻に終わった。

 

乗客が減ったことで、JR各社では、新幹線で生鮮品の輸送に乗り出したり、運賃や特急料金を値上げしたりする動きも起きた。これまで大都市圏や新幹線を持つ会社は、その運賃収入をローカル線の維持にあてる経営手法をとってきたが、乗客減少を受けて従来のビジネスモデルが立ち行かなくなっているのである。今春以降、JR西とJR東が相次いで不採算路線を公表するなど、経営危機に対する意識は高まっており、早期の課題解決が待ったなしの状況になっている。

 
国土交通省は今年、赤字ローカル線のあり方を考える有識者会議を開き、輸送密度が「1日平均1000人未満」など著しく利用が低迷するJR路線については、将来のあり方について沿線自治体との協議の機会を設けるなどの基本原則が示された。今後検討の場が設けられ、交通体系が見直される動きが始まるとみられる。

 
本書では、鉄道、特にローカル線の状況が厳しいのは日本だけの問題ではないことも紹介される。欧州ではスウェーデンが鉄道インフラの所有と運行を分けるいわゆる「上下分離方式」をいち早く採用するなど、交通政策の先駆けとなった。またイギリスでは民間参入と競争メカニズムが導入された。日本ではこれらを参考にして 「上下分離方式」を採用した地方の民間鉄道がある一方、官民共同出資の第三セクターを活用することで、公共資金をより多く投入しやすくしたところがあるなど、地域ごとに様々な取り組みがある。

 

こうした動きの一方で、そもそもコロナ以前から日本は少子高齢化によって特に地方路線の経営環境が厳しくなっていたのも事実である。今後は赤字路線を廃止して、バスなどの交通手段に転換するなど、地域の実情に応じた新たな交通体系が選択する動きにつながっていくことが予想される。

 

今年は日本に鉄道が導入されて150年の節目にあたる。不採算路線がある一方で、都市部を中心に、空港アクセスの改善を図るため、今後新たな路線の建設を予定しているところもある。同時にバリアフリー化や、モーダルシフトと呼ばれる環境負荷の小さい輸送方式への転換など、鉄道をめぐる今日的な課題も多く待ち受ける。

 
地方路線をどのように維持管理して地域に役立てて行くのかは、本書で紹介される英国の草の根的な支援が参考になるだろう。日本でも地域によってはそうした動きが既にあるが、より広範囲に機運を盛り上がることができるか、今後の議論が期待される。多くのヒントが詰まった本書はその一助になるだろう。

 

『鉄道会社はどう生き残るか』PHP研究所
佐藤信之/著

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ビジネス・経済分野を中心にジャーナリスト活動を続けるかたわら、ライフワークとして書評執筆に取り組んでいる。英国の駐在経験で人生と視野が大きく広がった。政治・経済・国際分野のほか、メディア、音楽などにも関心があり、英書翻訳も手がける。

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