2018/08/20
宮坂裕二 放送局プロデューサー
『56歳でフルマラソン、62歳で100キロマラソン』扶桑社文庫
江上剛/著
走って汗をかくくらいなら遅刻を選ぶタイプだった駄目駄目メタボのこの私が、今や皇居の周りをヒョイヒョイ走り、東京マラソンを完走する人間となれたのは、今回ご紹介する本の著者・江上剛氏のおかげかもしれない。
数年前、番組関係者と軽いノリで東京マラソンに応募したことがあった。
応募したことすら忘れていた2か月後、突然、当選通知のメールが届いた。
通知を受けて初めて、事の重大さに気づかされ、背筋が凍った。
そう、私はこれまでの人生の中で3キロを超える距離を走った経験がなかったのだ。
ましてや、走るには大きな障害となる脂肪の腹巻きがしっかり張り付いていた。
「これでは、メタボ腹をさらしての江戸市中引きまわしの刑になる!」
そこで担当のトーク番組に、元メタボ銀行員で今では走る作家へと変貌した小説家・江上剛氏を番組ゲストに招ねき、メタボからのマラソン完走の秘訣を話題にお話しいただいた。
その内容のほとんどがこの著書に盛り込まれていた。
著者・江上剛氏は、1954年兵庫県生まれの早大卒。みずほ銀行員時代の2002年、小説「非情銀行」で作家デビューを果たした。退行後は、経済小説を中心に執筆活動を続け、ワイドショーのコメンテーター等も務めていたのでご存知の方もおられるかと思う。
2004年には、時代の寵児・木村剛氏に乞われ、木村氏が創設した日本振興銀行の社外取締役に就任した。
「軽い気持ちで引き受けてしまった」という江上氏は、その後大事件に巻き込まれてしまう。
2010年、木村氏や日本振興銀行の経営陣が相次ぎ逮捕され、自殺者も出たあの事件だ。
「事態収拾のため、やむを得ず社長を引き受けることになった」という江上氏が、マスコミの矢面に立たされることになってしまう。
「自殺も頭をよぎった」とふり返る江上氏を救ったのは、ご近所の方々に誘われた“早朝ジョギング”だった。
「走っていると、いろいろな雑念、想念がわいてくるが、無心となり走ると、やがて、そうしたことが気にならなくなり、心を整えることができた」という。
「走ることには禅的効果があった」とも綴っている。
只ひたすら、息を吸い吐く。只ひたすら、足を動かしゴールまで続ける。
只ひたすら坐禅する様に、只ひたすら走る禅、これを“走禅”と江上氏は命名する。
世間の冷たいバッシングにも、「走り続けることで、心を落ち着かせることができたし、結果、サブフォーをも達成することもできた。」という。
ちなみにサブフォーとは、フルマラソンを4時間以内に走り切ることで、市民ランナーが抱く目標の一つでもある。
江上氏は、55歳でランニングをはじめ、書名にあるように「56歳でフルマラソン、62歳で100キロマラソン」を完走している。
この書籍は、我々中高年メタボランナーにとって、大変有意義な参考書となろう。
事細かな練習メニューの記載は、ランニングを始めたばかりの者には参考になる。
「散々だった」という初マラソンの失敗談も、我々に安堵感を与える。
何よりも心強いのは、ランニング開始前の江上氏は、メタボ体型で、これといったスポーツ経験もなく、にもかかわらずそんな人がサブフォーを達成できてしまったことである。
「マラソンに年齢は関係ない」との記述も頼もしい。
70歳から始めたランナーで97歳までフルマラソンの完走をされた方の事例等、年齢に関係のないマラソン完走者の事例が紹介されている。加えて、62歳になる江上氏が、闘病中の小林麻央さんとの約束「100キロマラソンの完走」を達成した時のエピソードも綴られている。
マラソンを巡る逸話がふんだんに盛り込まれたこのマラソン・エッセー集は、少し走り始めてみようかと思っている方には読み応えのある一冊となるのではないかとおもう。
参考文献 『55歳からのフルマラソン』(新潮新書)、『非情銀行』(新潮社)、『ラストチャンス 再生請負人』(講談社文庫)、『蕎麦。食べていけ!』(光文社)等
『56歳でフルマラソン、62歳で100キロマラソン』扶桑社文庫
江上剛/著