2018/08/22
内田 剛 ブックジャーナリスト
『神に守られた島』講談社
中脇初枝/著
本当に素晴らしい本に出合った時はその感想を問われてもまったく言葉にならない。いかなる想いを綴っても読後の印象を言い当てるどころか核心から遠ざかってしまうのだ。我が語彙力の乏しさを呪い、自己嫌悪に陥ってしまう。そんな風に強烈に打ちのめされてしまったのが中脇初枝『神に守られた島』(講談社)である。
本屋大賞三位の評価を得た『世界の果てのこどもたち』から三年。新作を最も待ち望んだ作家の最新作。舞台は遥か南国・沖永良部島。時代は太平洋戦争の真っ只中。よくぞこうした稀有な題材を見つけ出したものだ。
風光明媚な美しい島に忍び寄る戦争の影。日に日に状況は苛酷になれども人びとは日常を謳歌し直向きに生き続ける。
穢れなき子どもたちの視線で描かれた活き活きとした日常と、爆音鳴り響く非日常の対比が余りにも切実で見事!平和と戦争、生と死、ハレとケ……相反しながら実は極めて近しい存在であり地続きであることに気づかされる。お国のためにたった一つの命をなげうつことは本当に望んだことなのか。「神」になることで誰が救われるのか。世の中の空気が戦争に向かおうとしている今こそ読んでおくべき物語であると切に思う。
ここではこれまで殆ど世に出ることのなかった特攻兵たちの真の姿が登場する。人の住む島の上空を避け海へと機体を傾け「神」と崇められた兵士は、人命優先よりも技量が満たなかったからの苦肉の航行だった。図らずも墜落し落ちのびた兵士に島民はいかに接したか。著者は伝聞そのまま記述せず生存者たちに改めて取材を重ねて、これまで語られなかった真実にたどり着く。こうした真摯な姿勢が作品中の随所に感じられ天から降り注ぎ地から湧きあがるような豊穣で深淵な文学世界に昇華されている。
写真家・葛西亜理沙とのコラボで同時発売となった写真集『神の島のうた』は本書のサブテキスト。島の風景、人情が余すところなく伝わる。“時代の語り部”である著者の姿も景色に馴染み、あわせて読めばより鮮明に物語の世界に近づける。
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