限定された反復する様式の行動、興味、活動―自閉症とは(4)
岡嶋裕史『大学教授、発達障害の子を育てる』

 

「2.限定された反復する様式の行動、興味、活動」は、これまでにも結構触れてきた。定型発達の子は、特に年少期には様々なものに興味を持つと思うが、興味が極めて限定されているのである。

 

それはたとえば、魚が好きとか、恐竜が好きとかいった水準ではなく、恐竜の中でも鳥盤類の角竜下目にしか興味がないといった極端さである。他のものには見向きもしないが、角竜下目のことであれば、24時間でも独り言を続けられるだろう。

 

それだけ好きなものがあるのは羨ましいといえば羨ましいが、社会生活を送る上では確かに障害である。だって、算数や国語にも興味を示してもらわないと、学校生活が成立しないのだ。

 

定型発達の子は、放っておいても色々なものを勝手に吸収して育っていくが、自閉症の子はあたまの周りにタングステン鋼の装甲板が張り巡らされているイメージなのだ。彼らの興味のないものは、戦車砲でも持ってきてこれをぶち破らないと、意識に届かない。

 

よくお医者さんが「自閉症の子は教えてあげれば、何でもできますよ」と言う。実感としても確かにそうだ。前にも書いたように、ぼくは知的障害はCPUのトラブル、自閉症はインタフェースのトラブルと考えている。CPUはふつうに機能していそうだから、そこに情報が届けばちゃんと処理されることだろう。

 

でも、インタフェースがトラブっているシステムは本当に使いにくいぞ。

 

定型発達の子が機械学習によってどんどん賢くなる今時のAIだとしたら、自閉症の子は一つ一つ手作業で教えてあげないといけない前世代システムだぞ。これとつきあっていくのは本当に大変だし、同じポテンシャルのCPUを備えていたとしても、どうしてもできることは少なくなってしまう。

 

だから、自閉症の子を育てるに際しては、なるべく色々なものに興味を持ってもらうように療育していくことはもちろんなのだが、早く本人の好きなことを見つけて、そのスペシャリストに育てることも大切なのだろうと思う。対人能力とか、生活能力などをある程度切り捨てても。

 

また、この項目には、興味の限局だけでなく、常同についても記載がある。これはたとえば、郵便ポストに投函した郵便物がちゃんとポストの中に落ちたか、10回確認しないと安心できないなどの行動で、それはぼくの話である。儀式行動に例えられることもある。

 

時間のかかる儀式のある子は大変だ。バスを5回やり過ごさないと乗車できない儀式を持つ子のお母さんはとても疲れていたし、ぼくの子の場合だと食べ物を分解する儀式がある。海苔巻きせんべいは、のり部分とせんべい部分を完全に分割しないと食べ始められないし、にぎり寿司もネタ部分としゃり部分をきちんと分割しないと食さない。ふだん、はさみの使い方の授業でひどい点を取ってくるほど不器用なくせに、それはそれは綺麗に分割するのである。

 

「それ、面倒じゃないの?」
「すごく面倒」
「速くできないの?」
「無理」
「にぎりじゃなくて、丼にしない?」
「にぎり」

 

こんな会話を何度繰り返したかしれない。ロールキャベツなどは見せないようにしているし、お赤飯もすべての豆を分離するのに時間がかかる。ああ、そういえば赤飯の豆は、子どものころぼくもやっていた。

 

端で見ているといらいらするのは請け合いなのだが、精神安定効果もあるので、あまり邪魔をするのもかわいそうである。自分の経験も含めて書けば、自閉症の子はやはり色々不安を抱えて生きている。どうも自分の考える「正しいやり方」が、社会が期待し実装する「正しいやり方」と違うのである。そのズレはストレスになるし、不安の源泉にもなる。

 

自閉症の子が空恐ろしいほどぴったりとおもちゃを整理整頓することがあるが、あれも不安な世界を秩序化して安心を得る行為なのだと思う。また、自閉症の子は一度決めたルールを信じられないほど忠実に実行するので、早い段階で社会に適合する習慣や行動を儀式化してあげると(それが難しいのだが)、就学や就業にも役立つと思う。絶対に不正ができない事務担当者とかいいと思うけどなあ。まあ、融通がきかないということだけど。

大学の先生、発達障害の子を育てる

岡嶋裕史(おかじまゆうし)

1972年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。富士総合研究所勤務、関東学院大学准教授・情報科学センター所長を経て、現在、中央大学国際情報学部教授、学部長補佐。『ジオン軍の失敗』(アフタヌーン新書)、『ポスト・モバイル』(新潮新書)、『ハッカーの手口』(PHP新書)、『数式を使わないデータマイニング入門』『アップル、グーグル、マイクロソフト』『個人情報ダダ漏れです!』(以上、光文社新書)など著書多数。
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