普通級と特別支援学級と特別支援学校のどこに行くか?
岡嶋裕史『大学教授、発達障害の子を育てる』

 

発達障害のある子が、小学校にあがるとき、普通級と特別支援学級と特別支援学校のどこに通わせたらよいのかは、かなり迷うと思う。

 

まあ、迷えるというのは、かなり幸せな状態ではある。

 

ぼくが子どものころの教育システムでは(そのころはまだ「特殊学級」と呼ばれていた)、あまり家庭がそういう意思決定に口を出せる雰囲気ではなかったように思うからだ。

 

いまは行政の人も、教学の人も、かなり両親や子どもの意見を聞いてくれる。だからこそ、どんな意見を述べるかはとても重要だ。だって、「どうしても普通級がいいです」と言えば、あまり普通級に行くことが向いていなさそうな子でも、なんとか普通級に入れてしまったりするからだ。

 

本来、通うことが想定されている種別は、障害の程度が軽い順に、普通級→特別支援学級→特別支援学校である。さすがに二段階種別が異なる学校に行くケースはなかなかないが、本当だったら特別支援学級が向いていそうかなという子が普通級に通っていたり、普通級のほうがいいのでは?と思う子が特別支援学級に通っていることはままある。

 

一般的には、「普通級に行きたいんでしょ?」と思われたり、言われたりするし、実際にそういう方針のご家庭も多いが、障害のある本人やご両親が慎重だと、明らかに普通級相当だろうと思う子が特別支援学級を望むこともある。

 

それぞれのご家庭の方針や、医療機関、教育機関の方針があるので、あくまでも個人的な意見だが、迷ったらより手厚いサポートがある学校に行く方がいいのではないかと思う。ポイントはクラスサイズとカスタマイズだ。

 

普通級であれば、1人の先生が30人、40人といった児童を相手にクラス運営を行う。近年では副担任がついたり、もっと少人数のクラス編成を行うこともあるが、基本ラインはそこだ。

 

これが特別支援学級になると、クラス編成は数人のオーダーになる。特別支援学校では、児童と生徒の関係はほぼ1対1だ。

 

S/T比(教員1人あたり学生数)は、教育にとって決定的に重要だ。先生の立場に立てば、たくさんの児童を受け持つのであれば、1人に対して割く時間的、工数的、資金的リソースは当然小さくなる。端的に言って、そんなに相手にしてもらえないのだ。どの子も先生を1人占めはできない。

 

それに耐えうる能力があるから、普通級に行くのであるし、長じてもっと能力が伸長すれば、たとえば大学の階段教室における1クラスあたり500人(最近はさすがにないか)といった講義でも学習効果が出たりする。

 

言葉を換えれば、能力的に少し不安がある子は、できるだけ少人数のクラス編成の中に入り、可能な限り先生に時間を割いてもらった方がいい。

 

先生にかけてもらえる時間の多さは、他の要素の欠乏を補って余りあると思う。

 

私は大学の時に、その学部の1期の学生だった。教員としても、学部開設時の1期の学生を迎え入れる経験をしている。

 

どちらも、「1期生は成績も就職も良好」などと言われ、数値もそれを裏付けていて、先生や職員さんが学生のモチベーションの高さなどを要因としてあげていたが、ぼくは単に先生が学生にかけた時間の多寡だと思う。

 

学部開設時には、4年分の学生を教えられるスタッフが揃っていることが多いが、最初は1年分の学生しか入ってこないのだから、どうやっても教育の密度は高くなる。トラブルの芽でもあれば、すぐにそれを発見することができるし、用意されたカリキュラムでは飽き足らない子にも、学業不振に陥ってしまっている子にも、たっぷりと時間をかけて対応することができる。

 

個々に固有の問題を抱え(誰だって固有の問題を抱えてはいるが)、それへの対応を必要とし、標準化された教育に馴染みにくい発達障害の子には、少人数で編成され、発達障害に関する知見があり、授業運営と授業内容をカスタマイズできる余地の大きい特別支援教育が、やはり向いていると思うのである。

 

この話はもう少し続けよう。次回は普通級に入るメリットにも触れていきたい。

 

発達障害に関する読者の皆さんのご質問に岡嶋先生がお答えします
下記よりお送りください。

 

大学の先生、発達障害の子を育てる

岡嶋裕史(おかじまゆうし)

1972年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。富士総合研究所勤務、関東学院大学准教授・情報科学センター所長を経て、現在、中央大学国際情報学部教授、学部長補佐。『ジオン軍の失敗』(アフタヌーン新書)、『ポスト・モバイル』(新潮新書)、『ハッカーの手口』(PHP新書)、『数式を使わないデータマイニング入門』『アップル、グーグル、マイクロソフト』『個人情報ダダ漏れです!』(以上、光文社新書)など著書多数。
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