ニューヨーク近代美術館にも展示されているデザイン力あるイタリアのビスコッティ缶
中田ぷう「素晴らしきお菓子の缶の世界」

ryomiyagi

2020/07/13

お菓子の缶。それは私たちの暮らしのいちばん身近にある“芸術品”。ただお菓子を入れて売っているのではなく、中には思わぬ名画が使われていたり、著名なデザイナーが手がけていたりするのです。お菓子の缶を集めて40年以上。フードジャーナリストのわたくしこと中田ぷうが、知れば知るほど奥深い“お菓子の缶”の世界へご案内します。

 

 

1858年イタリアで創業した「アントニオ・マッティ」。今年創業162年を迎えたイタリアの伝統菓子「カントチーニ」(日本ではビスコッティと言った方が馴染みがあるかもしれません)を作り続ける老舗ブランドです。

 

「アントニオ・マッティ」 カントチーニ ボッテーガ缶2500円(税別)/山本商店

 

日本での取り扱いが始まったのは2010年から。ただしその当時は、“青い袋”に入った商品のみでした。そして2018年。「アントニオ・マッティ」創業160周年を迎えたこの年、本国ではトスカーナ州の州都であるフィレンツェに「アントニオ・マッティミュージアム」がオープン。いかにトスカーナで“マッティのカントチーニ”が愛されているかわかるエピソードですよね。
そしてこのアニバーサリーイヤーに登場したのが、フィレンツェ出身のイラストレーターSimone・Massoni氏のイラストが使われた「ボッテーガ缶」(上の写真・青い円筒形の缶)と「ビスコッテリア缶」でした。

 

MoMAにも展示されている“ビスコッテリア缶”

 

「アントニオ・マッティ」カントチーニ ビスコッテリア缶3500円(税別)/山本商店

 

「アントニオ・マッティ」のビスコッテリア缶を初めて見たのは、「ディーン&デルーカ」でした。ふたの部分にカントチーニのイラストと青い文字のエンボス加工が施された缶……あまりにかわいらしく、洒落たデザインにひとめ惚れ。
それもそのはず。このビスコッテリア缶、ニューヨークの近代美術館(通称MoMA)に展示されているのです。つまりそれだけ強いデザイン力を持っているということ。だから私が「ディーン&デルーカ」で吸い寄せられるようにしてこの缶を手にとったのも無理はありません。

 

「アントニオ・マッティ」で使われる缶は、どの缶にも美しいブルーが使われていますが、これは創業時より、青い袋にカントチーニを入れ、青い細ひもで口を結んで売っていたことを継承しているから。そのため、地元では“マッティのカントチーニ”のことを「サッケット・ブルー(青い袋)」と呼んでいるほど。だから新たに誕生した缶にも必ず“ブルー”が用いられているんですね。

 

10月には日本限定「スクエア缶」が登場

 

「アントニオ・マッティ」カントチーニ スクエア缶1600円(税別・10月に発売予定)/山本商店

 

今までは、大袋にごっそりとカントチーニが入ったものが缶の中に収められていました。それが2019年、個包装のカントチーニを開発。それに合わせて作られたのが、この日本限定発売の「スクエア缶」です。
イタリアと違って湿度が高く、1度にたくさんの量が食べられない日本人の食と生活習慣に合わせたサイズ。小さいサイズにはなりましたが、きちんと缶のフタの部分にはエンボス加工が施されています。

 

創業以来160年以上守り、作り続けてきたレシピ

 

 

先にも述べましたが、カントチーニとはイタリアの伝統菓子で、日本では「ビスコッティ」と呼ばれることの方が多いお菓子です。「アントニオ・マッティ」のカントチーニは創業以来160年以上、伝統的なレシピを守り続けています。小麦粉、砂糖、卵、アーモンド、松の実、材料はこれだけ。余計なものは一切入れていません。
そのためとてもシンプルな味わい。ですから食べていて飽きないのです。結局、長きにわたって愛され続ける食べ物って、シンプルな材料から作られたものですよね。

 

イタリアでは、コーヒーやエスプレッソに浸して食べることはもちろん、ワインやグラッパに浸していただくこともあるそうです。

 

今回、このコロナウイルスによるロックダウンで「アントニオ・マッティ」も工場や路面店を休業せざると得ない状況だったといいます。ただ幸いなことにスタッフにも感染者が1人も出ず、規制が緩和された5月下旬から序々に営業を再開。イタリア人にとって“カントチーニ”は嗜好品ではなく“必需品”だといいます。そのため規制が緩和された今、大勢の地元ファンたちが“マッティ”の味を求めて訪れているとのこと。とはいえ観光大国・イタリア。観光客が戻るまでは厳しい状況が続くと予想されています。はるか離れた日本からも応援できればと思っています。

「素晴らしきお菓子の缶の世界」

中田ぷう

ライター・編集者。缶収集家であり、3歳のころからお菓子の缶を集め始める。現在6畳一間が新旧の缶で埋め尽くされ、家族に迷惑がられている。一方でカルディ歴26年、コストコ歴19年のキャリアを持ち、業務スーパーマニアとしても雑誌やTVでも活動する。インスタグラム:@pu_nakata
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