くらしを紡ぐ素敵な人の素朴で嬉しい、おいしい食卓
小澤典代『日用美の暮らしづくり、家づくり』

食べることは命を育むこと。誰にとっても、食は、一番大切なことだと言っていいでしょう。コンビニでも手軽にお総菜が買える昨今。スーパーには冷凍食品がバラエティー豊かに並んでいて、外食も、ほぼ24時間可能です。便利だけれど、料理をまったくしないでも、食事をまかなえるようになっている状況に、不安感や違和感を少なからず覚えます。

 

もちろん、そうした便利な食品やサービスをすべて否定するわけではありません。忙しい日々をやり繰りするためには、賢く利用できるものは利用する方が無理がないのもわかります。けれど、誰が、何を素材に使って、どのようにつくっているのかよくわからない製品を、毎日のように口にすることに、全然疑問を感じないのは危険なのではないでしょうか。ただでさえ、身のまわりには有害とされている化学物質などが存在する時代です。子どもたちにとっては、特に危惧されるべきこと。

 

そんな話を、あやさんとしていたのです。

 

「出来合いの食品で品数を増やすより、具だくさんの味噌汁と塩むすびだってOKなんですよね。我が家は昔ながらの地味目な和食が定番なので、忙しくても出汁をとって、ご飯を炊くことは必ずしています。息子が生まれてからは家での手づくりが基本です」

 

都内に仕事に出ていた頃は、外食も多かったと言うあやさんですが、楽君が生まれたことで仕事と暮らしのバランスを考慮し、食も含めた子育ての環境を最優先することにしました。けれど、無理はしない主義。あやさん流の時短術を使い、時間のないときは簡単な調理法で済ませることもあります。

 

「知人がつくり販売しているソースなどは、混ぜるだけ、のっけるだけだからとても便利。安心して食べられるファストフードとして利用しています」

 

ことさらに丁寧というのとも違う、頑張りすぎない自分に合ったリズムを獲得しているのです。

 

手作りの紫蘇ジュースは大人も子供も大好きな味

 

「知っている人がつくっている食材や、人が管理し過ぎていない山にある素材には安心感がありますよね。もちろん必要なものは店で買いますが、できればなるべく物々交換したり、知っている人から買いたい。それは安心安全ということだけでなく、食をより大切に感じたり、嬉しさに直結していることなんです。そう言えば、田舎の実家では採れすぎた野菜を使って料理をつくり、ご近所さんと交換することは極普通のことだったと思います。」

 

以前、あやさんから頂戴した手づくり味噌の、その素朴な美味しさは格別でした。つくることの楽しみが、ちゃんと味となっていることを感じました。味噌汁をつくるたびに、あやさんの顔が浮かぶ。それは、彼女の伝えようとしていることの中心を理解できた瞬間でもありました。あたたかな考えのルーツになっているのは、どんなことだったのでしょう。

 

「私は、おばあちゃん子だったので、祖母のやっていることのお手伝いは楽しんでしていたんです。胡麻を擦ったり、インゲンの筋を取ったり、そうした手で出来ることを遊び感覚でやっていましたね」

 

その、子どもの頃に培った感覚が、楽君の通ったパーマカルチャーを実践する保育園で蘇りました。祖母と親しんだ料理の素材の味です。

 

「素材の新鮮さが、やっぱり大事なんだと再認識しました。そして、農薬を多く使った綺麗な野菜より、虫が食べている穴の空いた葉っぱの方が美味しいことも実感したんです。子どもたちと一緒に畑で間引いたニンジンやキュウリなど、その場でパクッと食べるのはとっても美味しいです。実は、野菜だけでなくて、その花も美味しいことを知りました。大根やルッコラとか、花が野菜と同じ味がするんですよね、ちょっとした感動体験でした」

 

自然にかなった素材の持つ美味しさを大切にするため、浅川家の料理は素材重視のメニュー。お祖母ちゃん直伝の筑前煮や、アジの南蛮漬け、伽羅蕗など昔ながらの家庭料理を毎日つくることを楽しんでいます。楽君もマイ包丁を持っていて、一緒に料理をつくることもあるそう。

 

「楽は左利きなので、専用の包丁を持たせることにしました。何でもトライさせて、つくることの楽しさを体験させたいと思っています。遊び感覚だから、南蛮漬けを “ぐっちゃぐちゃ” とネーミングしたりしちゃいますが(笑)」

 

今回は、あやさんの定番レシピを教えていただくことにしました。主菜だけでなく、あと一品欲しいなというときの簡単な一皿も。ぜひご参考に!!

 

ヨモギの収穫

《伽羅蕗》
1ー葉の部分は切り落とし、茎をアク抜きする
(塩をかけて板摺りし、熱湯に塩がついたままの蕗を入れて5分程度ゆでる)
2ー冷たい水でしめる。
3ー皮をむく。
4ー食べやすい大きさに切る。
4ー鍋に出汁、酒、味醂、醤油、甜菜糖を入れて、甘辛く炊く。

 

二宮の住まいの敷地内には蕗がいっぱい

 

《レンコンの梅煮》
1ーレンコンの皮をむいて一口大に切る。
(切ったレンコンを酢水につけてアク抜きする。)
3ー30分ほど置いたあとよく水を切る。
4ーごま油で少し透き通ってくるまで炒める。
5ーだし汁をひたひたちょっと少なめぐらいに入れる。
6ー梅の果肉を手で千切って入れる。梅の種も一緒に。
7ー出汁がトロトロっとなってきたら火を止める。
(煮すぎるとレンコンの歯ごたえがなくなってしまうので注意)
8ー白ごまを振って出来上がり。

 

歯ごたえもごちそう

 

《おばあちゃんの筑前煮》
1ー鶏もも、人参、ごぼう、こんにゃく、椎茸、レンコン、里芋、絹さや
2ー鶏は一口サイズに切る(我が家はこの時、鶏を塩麹でもんで1時間ぐらいは置く)
他の材料も一口サイズに切る。
3ーこんにゃくは塩でもんでアク抜き。ごぼうとレンコンは酢水でアク抜き。
4ー鍋に油をひき、鶏を皮面からこんがりと両面炒める。
里芋と絹さやは別の鍋で茹でる。
5ー鶏がジュワッとしてきたら、そこに人参、ごぼう、こんにゃく、椎茸、レンコンを入れて炒める。
6ーお酒を振る。
7ー里芋も投入。
8ー甜菜糖(砂糖)を大さじ2ぐらい入れゆっくり炒める。
9ーみりんを大さじ2ぐらい入れてゆっくり煮る。
(混ぜすぎないこと)
10ー醤油を大さじ1入れてゆっくり煮る。
(この時水分が少なすぎるようならだし汁かお酒を少し入れる。水は入れない)
11ー味を見て醤油を少し足す。
12ー最後に絹さやを入れて完成。

 

《鯵の南蛮漬け》
1ーお酢ちょっと多め、醤油とみりん同量、甜菜糖(砂糖)少し
をボールに混ぜる。
2ー人参、玉ねぎを薄切りにしておく
3ー鯵はゼイゴと内臓、アゴをとる。(小さな豆鯵だったらそのままで)
4ー油を180度程度に熱する。
5ー鯵に片栗粉をつけて(余分な粉はふるって)油に投入。
6ーパチパチという音がなくなりいい色になってきたら、油から出してそのまま1に入れる。
(ここで鯵をペーパーにとって油をとったりせずに、必ず油からそのまま入れる)
7ー鯵を全て調味料の中に漬け終わったら、人参と玉ねぎを入れて混ぜる。
8ーそのまま常温で冷めるのを待つ。
(半日ぐらい置いた方が美味しい)

 

あやさんが利用している食品メーカー「FARM CANNING」
http://www.farmcanning.com/about/

日用美の家作り

文/小澤典代

手仕事まわりの取材・執筆とスタイリングを中心に仕事をする。ものと人の関係を通し、普通の当たり前の日々に喜びを見いだせるような企画を提案。著書に「韓国の美しいもの」「日本のかご」(共に新潮社)、「金継ぎのすすめ」(誠文堂新光社)「手仕事と工芸をめぐる 大人の沖縄」(技術評論社)などがある。
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