ryomiyagi
2020/06/17
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2020/06/17
「守備固め」。自軍優位な試合展開で、守備力の低い打撃型の選手を下げて守備の良い選手を入れる作戦のことである。この守備固めという采配は、実は非常に難しい。
今回はあえてこの「守備固め」を取り上げようと思う。この采配を深く知れば、試合が決まった後半でも野球を楽しめる。本コラムがそのきっかけになれば幸いである。
守備固めと言えば聞こえは良いが、当然その分攻撃力を下げることにもなる。試合から下げる選手に打席はもう回らないのか、チームが追いつかれる可能性はないのかなどを十分に考えて交代を命じなければならない。
守備固めの判断が早いタイプの監督として、前ヤクルト監督・小川淳司氏を挙げたい。印象的な試合があったので紹介する。
昨年8月28日のDeNA対ヤクルト(横浜スタジアム)。ヤクルトは6-5の1点リードで終盤を迎え、7回裏にはベテランの青木を、8回裏には守備に難があるバレンティンをそれぞれ交代させ守備固め。しかしDeNAが8回裏に追いつき、ヤクルトは青木もバレンティンもいない延長戦を戦うことになってしまった。スコアボードに0を並べたヤクルトは、勝ちパターンのリリーフも使い切り、12回裏にサヨナラタイムリーを打たれて敗れてしまった。
一発のあるDeNA相手に1点はセーフティリードとはとても言えない。ましてや狭い横浜スタジアム。バレンティンを下げることすら迷うようなケースだ。年を重ねて守備範囲こそ狭まったものの守備自体が下手なわけでもない青木までもベンチに下げてしまったのは、大きな失敗だったと言っていいだろう。
これは推測の域を出ないが、青木もバレンティンもいなくなってこの1点を守るしかないという状況を作ったのが、かえってリリーフ投手へのプレッシャーになった可能性もある。
逆のパターンもある。2016年の広島対日本ハムの日本シリーズ第3戦では、広い札幌ドームで8回裏までレフトに守備の悪い松山を残した結果、中田翔の打球を捕れず逆転2点タイムリーを生んでしまった。広島は本拠地で2連勝して札幌に乗り込んだものの、この1戦で流れが変わり日本一を逃してしまった。
替えるべきタイミング、残すべき人の選択など、守備固めはこれだけ難しい采配なのである。
小川監督と逆、とまで言っていいか分からないが、DeNA・ラミレス監督の守備固めも紹介したい。DeNAは攻撃力アップのために本来外野+一塁型のソトを二塁で起用しているが、リードして試合後半を迎えると二塁に守備の良い柴田を入れ、ソトをライトに回す采配が多かった。
昨年二冠王のソトは間違いなく、DeNAで1番怖い打者である。ホームランの出やすい横浜スタジアム、神宮球場、東京ドームだと特にそうだが、多少のリードでは自軍が追いつかれる危険性があり、ソトの攻撃力は捨てられない。
ソトは一塁守備は意外に上手い。だが、そこに回そうにも守備を考えた場合、競ってる展開では捕球の良い一塁手のロペスこそ下げられない。かといってソトが内野のままだと試合後半に盗塁、エンドランなど細かい仕掛けをされて穴になりかねない怖さがあるため、外野に回していた。仮に上で挙げた3球場での試合なら守るべきエリアもそこまで広くなく、ソトの守備でも許容範囲内ということもある。
欲を言えば三塁打にしてしまうリスクが少ないレフトに回ってくれると最高なのだが、ラミレス監督の守備固めは攻撃力を落としすぎないようにしつつ必要な守備力を補填する、ちょうどいい塩梅ではないだろうか。
接戦での過度な守備固めは追いつかれた時のリスクが大きく、また味方のリリーフや守備へのプレッシャーになってしまう。
攻撃力の残し方や、状況・点差で勝つ確率を考えるバランス感覚。監督のセンスが詰まっている采配だと言える「守備固め」にも、今季は注目してもらいたい。
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