ryomiyagi
2020/06/16
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2020/06/16
近年では源田壮亮、近本光司などプロ1年目から上位の打順で打てるような完成度の高い選手を除き、ほとんどの野手がまずは代打で一軍の試合に出る。そこで活躍したり、能力が認められると徐々に序列が上がっていきスタメンを勝ち取ったりするわけだ。
しかしこの代打という仕事は、キャリアのファーストステップにするにはかなり難度の高い仕事と言える。
今回は代打という役割で活躍する選手にはどういった特徴があるか、またその采配について語っていきたい。
かつては走攻守揃った一流選手だった前田智徳も、度重なる怪我に加えて年齢も重ねフル出場が難しくなった晩年は、代打専門の選手としてベンチに入っていた。そんな前田は、2012年には代打だけで打率.327(46-19)という好成績を残していた。長打を打つパワーはもう残っていなかったが、そのコンタクト能力でなんとかバットに当て、どんな打球でもとにかく外野の前に落とす。形よりも結果を求められる代打という仕事の性質を理解し、自らの能力とマッチさせていった前田は代打職人として晩年まで輝いた。
巨人・大道典嘉も代打のモデルケースとして是非紹介したい選手だ。バットをとにかく短く持ち、前田同様なんとか食らいついて外野の前に落とす。彼が前田と違うのは、ツボに入るとホームランも打てるところ。まさに代打のスペシャリストと呼べるだけの活躍をしていた。
コンタクト型の選手は、代打ではとにかく当て、外野の前に落ちればそれでいいという感覚があると良い。とはいえたとえば、コンタクトの才能がある阪神・原口は若手ながらこの代打に最適化されすぎてしまい、本来備えていた飛距離を失ってしまいがちな時期もあった。代打に役割を特化させればよいベテランはまだしも、若手の場合は今後のキャリア形成に悪影響を及ぼす恐れもある。選手、ベンチ共にこのあたりは微妙なバランス感覚が求められる。
コンタクト型はなんとか当てて落とすという一方で、パワー型のピンチヒッターはとにかく積極性を全面に出したい。
このタイプは意外に多くいるのだが、せっかくなので私の贔屓球団であるDeNAから選手を紹介させてもらいたい。後藤 武敏である。
西武からトレードで加入し、DeNAでは主に右の代打要員として一軍に帯同した。後藤の特徴はとにかく真っ直ぐを捕まえようとファーストストライクからフルスイングするスタイルだ。150キロを超える速球に対応するため、常にスイングルームでバットを振って気持ちを高めている。
真っ直ぐを仕留めるのが武器だったが、変化球攻めが増えるとそれも少し読んで対応していくようになり、2014年には代打打率.379、得点圏打率.383と驚異の成績を残した。
相手投手陣の勝ちパターンと対峙することの多いパワー型ピンチヒッターは、とにかく速い真っ直ぐを潰せる積極性が大事だ。これができるだけで相手の脅威となり、勝負で優位に立てる。このように、一言で代打といってもそれぞれのスタイルや起用法があるのだ。
最後に、これから注目のピンチヒッターとしてロッテに移籍した鳥谷敬を紹介したい。
かつて阪神の絶対的レギュラーとして君臨した鳥谷も徐々に代打起用が増え、昨年は矢野監督の厚い信頼から多くの代打打席を与えられた。
鳥谷の代打は失敗が多いという報じられ方もしていたが、昨年の鳥谷は代打打率.250、出塁率.364とかなり塁には出ている。代打での得点圏打率だけが低いのにも関わらず、大チャンスで送り出していた起用方法に問題があったのだろう。先頭打者として使うなどすれば、全く違う評価になっていたのではないだろうか。
鳥谷の代打での出塁率の高さには、元から選球眼が良いのもあるが、その名前だけで相手にすんなりストライクを取るには何か怖いと思わせる、彼の実績が背景にあるだろう。相手投手に警戒心を抱かせるレジェンド級の選手であることは論を待たない。
同じレジェンド級の選手として昨年代打で出場が多かった巨人・阿部慎之助がいるが、彼も代打打率は鳥谷より低い.239ながら、出塁率は.383と非常に高い。
こういった選手が控えているのは、チームにとって大きい。代打は成功すれば「代打の神様」などとメディアが煽ってくれることも多く、名前でビビらせるというのも比較的容易である。
今シーズンからプレイするロッテでも、レギュラー候補というよりはサブ、代打起用などが中心になるだろう。卓越した選球眼とコンタクト能力、相手を怯ませる雰囲気を持って代打の切り札と呼ばれるような選手になってくれたら本当に嬉しい。晩年の前田でも山口俊の真っ直ぐを弾き返したりしていたし、鳥谷もスイングの強さをもう少し戻せたら…というところか。
『セイバーメトリクスの落とし穴』(光文社新書)に、リリーフ投手をその試合・その局面の重要度、難易度などによって起用法を決める考え方である「継投レバレッジ」という言葉が紹介されていたが、代打起用も同じように考えるべきだと私は思っている。長打が欲しいのか、ヒット1本でいい場面なのか、右左の相性、投手との相性がどうか。様々な変数を勘案して、レバレッジの高い選択が求められる。
近年では、2017年の広島東洋カープの布陣が非常に素晴らしかった。日によってスタメンも違うが、ベンチには常に1発博打用のバティスタかエルドレッド、クラッチヒッター新井、コンタクト能力の高い左の西川が台頭するなどバリエーション豊富な控えメンバーが揃っていた。これだけ数がいれば状況による使い分けも容易で、この頃の広島の快進撃も納得だ。代打の怖さも、シーズンを制するための野手力のひとつだろう。
リリーフの「継投レバレッジ」同様に、代打も結局は層が厚くないと状況に応じた使い分けはできない。
2016年のCSファーストステージの巨人対DeNAでは、6回裏2アウト1塁の場面で代打に俊足巧打の立岡が送られた際、当時解説の原辰徳氏が「ここは長打力のある代打を送るべきでしょう、(ベンチメンバーの表が出て)…いませんね」という解説をして話題になった。パワー型、コンタクト型、右左などある程度バランス良く揃っていないと、そもそも使い分けなどしようがないのである。
代打レバレッジなるものを成立させるには、監督のセンスと編成のバランス、どちらも求められる。代打専門の選手は守備や足は特別良くないなんてことも多く、トレードや戦力外から獲得できるケースもよくある。先に挙げた選手で言えば巨人大道、DeNA後藤などはみなトレードである。こういった選手の価値を見極め、獲得することでチームの攻撃に厚みが生まれるのだ。
代打という職業は儚いものだ。3時間の試合で出番はたった5分ほど。僅か3ストライクの命の中に、自らの技術の全てを詰め込まなければならない。だからこそ、代打を送り出す監督の厚い信頼と、代打に送られる選手の気概を存分に感じて歓声を送ろうではないか。
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