「速い速球が打てない」から「速い変化球が打てない」になった阪神打線
お股ニキ(@omatacom)の野球批評「今週この一戦」

9月3日現在、借金3でセリーグ4位の阪神タイガース。
クライマックスシリーズ(以下CS)へ進出することはできるのか、そのためには何をするべきなのか?「お股クラスタ」の1人で、阪神タイガースファンでもあるunknown氏(@DaiM0609)が前回に続いて、阪神の上位進出へのカギを本連載に”出張寄稿”してくれました。

 

 

長らく阪神の課題として言われ続け、金本前監督も最大の問題点と認識していた、こんな言葉がある。

 

「阪神の選手たちは速いまっすぐが打てない」

 

阪神の若手選手の非力さや技術のなさを嘆いた解説者たちが口にしていた言葉であった。

 

ただ、キナチカコンビや糸原など入団時点で既に高い技術を備えていた選手が多く打席に立っていたり、大山、梅野、北條らがパワーをつけながらフォームの無駄な動作をなくしていったりしたことで、主力選手たちは生え抜き外様を問わず、以前に比べてストレートへの弱さを露呈することはなくなった。

 

実際、上記で名前をあげた面々はストレートに対して3割前後の打率を残している。8月10日の広島戦でフランスアから大山が放ったサヨナラHRなどは象徴的なシーンと言えるだろう。

 

◆2番手、3番手を攻略できない阪神打線

 

一方、前回のコラムでも挙げたが、相手の先発投手、特に技巧派の2、3番手の投手を打てていないシーンが見受けられる。

 

下記のデータをご覧になってほしい。

 

巨人桜井(先発時)3戦 20 1/3回 4自責点 3勝0敗 1.77
広島床田 6戦 33 1/3回 7自責点 1勝2敗 1.89
中日柳 4戦 29回 3自責点 2勝0敗 0.93
ヤクルトブキャナン 4戦 25 2/3回 4自責点 2勝0敗 1.40

 

彼ら4投手に共通することは、決して速球が速いわけではないが、カウント球で「速い変化球」を投げる点である。桜井、床田、柳は縦変化の大きいカットボール、いわゆる「スラッター」「スラット」と呼ばれるボールを武器としていて、ブキャナンはカッターを多投している。これらのボールについての詳細は「#お股本」(『セイバーメトリクスの落とし穴』)を見ていただきたいが、ストレートに近い軌道、速度から鋭く落ちるボールであり、空振りや内野ゴロを狙いやすいのが特徴だ。さらにそれぞれカーブ、スライダー、チェンジアップ、ツーシームなど多様な球種を投げわけるため、打者からすると非常に狙いが絞りにくいタイプである。

 

こういった投手に対しては、ストレートを前で捌けるタイミングで待ち、変化球は少し泳ぎながらタイミングを合わせて打つことが定石とされている。一般的に言われる「対応力」とは、しっかりとした打球を打つことができるポイントの幅の広さで決まるように感じる。

 

プロ野球選手とアマチュア選手、1軍選手と2軍選手の違いは「崩されても打てる」か「点でしか打てないか」ということなのだろう。やや難しい話になっているが、巨人の坂本勇人のHR映像を見ていただくとわかりやすい。

 

このように、崩されても打てる形を作らないと、現代のプロ野球では当たり前の存在となってきている「速いのに大きく曲がる変化球」にはなかなか対応できない。

 

この点で阪神野手陣は苦しんでおり、事実としてカットボールやスライダー、スプリットに分類される変化球への打撃成績も軒並み悪いようだ。

 

また、こちらも昔から阪神についてよく言われる「初顔の相手に弱い」という言葉も、おおよそこの「対応力」の低さが原因ではないだろうか。今年も中日の清水、山本、梅津、DeNAの大貫などにプロ初勝利を献上している。エース級はともかく、こういった投手を打っていかないと、やはり白星は伸びていかないだろう。

 

◆大山悠輔は現状を打破できるか?3番打者としての可能性

 

そして、多くの阪神ファンは現状の打開を大山悠輔に求めているのではないだろうか。昨年9月16日の横浜戦では1イニング2HRを含む6打数6安打3HRを記録したように、いわゆるゾーンに入ったら止まらない選手だ。間違いなく、阪神の中で最も主砲となる能力を持っている選手と言える。

 

しかし、今季の成績は(フルシーズンをレギュラーで出るのは初めてと考えると、全試合出場を果たしていることは素晴らしいが)、ファンの期待からするとやや物足りない。

 

大山は調子の波が非常に激しく、特に開幕から105試合続けた4番を外れるなど不調に陥っている8月以降は、今季の中でも最も苦しんでいる。

 

8月に入ってからは右方向への打撃が目立ち、速球やインコースへのボールにはかなり振り遅れて、詰まっている印象がある。右方向への安打自体が悪いわけではないが、大山は基本的に、右方向への安打が目立つとスイングがドアスイング気味となり、成績を大きく落とす傾向がある。

 

「#お股本」にもあった通り、大山は昨年の開幕戦で菅野智之から打った一発を含め、開幕から2本続けて右方向へのHRを放ったが、その後は成績を残せず、2軍落ちを経験した。

 

先日のフランスアから放ったHRも、素人目ではあるものの、菅野から昨年放ったHRとよく似たスイング軌道、フォロースルーのように感じる。

 

大山が右方向へ全く打てない選手かと言われれば、決してそんなことはないが、本質的にはインサイドのまっすぐを綺麗に引っ張ることのできるプルヒッターという印象の打者だ。そのため、追い込まれてから極端に打撃スタイルを変える点も個人的には疑問である。

 

確かに、あまりにまっすぐ狙いが強すぎて変化球にからっきし合わない場面や力みすぎてミスショットする場面もあるが、そのあたりの粗さは経験とともに洗練されていく部分でもあり、大きく育てたいならばある程度は許容していくべきではないだろうか。

 

大山が昨年9月に見せたような理想的な形を今年1度も出せていないかというと、そうではなく、4月後半から5月にかけての時期やオールスター明けの豊橋でのゲームなどでは良い形で打てていたと感じる。要するに再現性、持続性が低いわけだが、これはチーム全体の共通点でもあるので、もう少しどしっと同じ形で続けさせてほしい。

 

そういう意味でも、2アウトでのチャンスなどが多く回ってくる5、6番で調整させるよりは、比較的自由に打つことが可能な3番に大山を、そして4番に糸井やマルテを置く形の方が良いかもしれない。
最後に、5月30日に放った9号HRをご覧いただきたい。こういった形でもHRは打てるのである。

 

お股ニキ(@omatacom)の野球批評「今週この一戦」

お股ニキ(@omatacom)(おまたにき)

野球経験は中学の部活動(しかも途中で退部)までだが、様々なデータ分析と膨大な量の試合を観る中で磨き上げた感性を基に、選手のプレーや監督の采配に関してTwitterでコメントし続けたところ、25,000人以上のスポーツ好きにフォローされる人気アカウントとなる。 プロ選手にアドバイスすることもあり、中でもTwitterで知り合ったダルビッシュ有選手に教えた魔球「お股ツーシーム」は多くのスポーツ紙やヤフーニュースなどで取り上げられ、大きな話題となった。初の著書『セイバーメトリクスの落とし穴』がバカ売れ中。大のサッカー好きでもある。
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