akane
2019/08/30
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2019/08/30
阪神タイガースは昨年末の金本監督の電撃解任に伴って、当時の矢野燿大2軍監督が第34代監督に就任した。その勢いでオフには多くの補強も進め、オリックスからFAで西勇輝、中日から昨季13勝を挙げたオネルキ・ガルシア、新外国人としてピアース・ジョンソンとジェフリー・マルテを獲得。さらに春季キャンプやオープン戦ではともにルーキーであるドラフト1位近本光司、ドラフト3位の木浪聖也が大活躍を見せ、開幕戦では球団史上初の新人1、2番として出場。矢野新監督や「キナチカコンビ」をはじめとする新たな風に、シーズンでの躍動が大きく期待された。
開幕後は、序盤こそやや苦しんだが、マルテの合流や、大腸癌から感動的な復活を遂げた原口文仁の復帰もあり、6月12日時点では貯金6。4連覇を目指す広島、大型補強に加えて原監督の復帰で復活を遂げた巨人と緊迫した首位争いを繰り広げていた。
しかし、8月22日の執筆時点で借金は4、残り28試合で3位DeNAとのゲーム差も4.5とCS進出も厳しい状況となっている。ここで改めて今季の阪神を振り返るとともに、逆転でのCS進出の可能性について考えてみるとする。
現在得点数、エラー数でリーグ最下位と、阪神ファンのみならずセリーグの試合を見ている方なら誰しも阪神の守備力、打撃力の低さを感じると思う。守備面についていえば、17年オフにDeNAへFA移籍をした大和の穴が未だに埋めきれていない。二遊間、センターの3ポジションのすべてでプロ野球界5本の指に入る守備職人であった大和の存在は大きすぎた。
現状、二遊間での出場が予想されるソラーテ、糸原、上本、北條、木浪は軒並み守備範囲に不安がある上に、エラーの多さも目立つ。こうした現状に、多くの阪神ファンは幾度となく「大和がいれば……」と嘆いただろう。二遊間を中心とする守備の問題は、今後の阪神が優勝する上では最も欠けている点といっても過言ではない。しかし守備面の改善は厳しいので、ともかく今季3位以内に滑り込むためには、得点力を重視した起用をすべきだろう。
阪神の得点力不足で大きな課題としてあげられることは、先発投手を打てない試合があまりにも多いことである。5回裏終了時に場合は31勝1敗4分という圧倒的数字を残しているが、裏を返せば115試合中36試合しか5回裏の段階でリードできていないということであり、これは12球団でワーストの数字である。
各チームのエース級投手を打てないのはある程度全チームに共通するところであり、やむを得ない点もあるが、阪神の場合は巨人の桜井、広島の床田、中日の柳、ヤクルトのブキャナンといった技巧派を打てていないことが目立つ。考えられる要因については後編に譲るが、これが明らかに先発投手陣の負担になっている。
期待したいのが、20日に1軍昇格した中谷将大だ。
中谷は2017年は規定打席に到達し20HRを放ちブレイクしたが、ここ2年は壁にぶつかっている。多くのファンの方はご存知かもしれないが、ブレイクした頃には金本監督(当時)がよく「中谷は変化球をHRにすることはできるが、まっすぐをなかなか打てない」という旨のコメントを残していた。ドアスイング気味で腕が長いため、速球やインコースの距離が取れないボールを苦とするが、右投手のカット、スライダー系、左投手のチェンジアップ系の失投を捉えることには非常に長けた選手なのである。実際、20HRのうち、速球系(ストレート、ツーシーム)のボールを打ったものは6本だけだった。
一方、昨季は5本中4本が速球系のボールを打ったものであった。下の表を見てもわかるように、ストレートに対する打撃は優秀とまでは言えないものの、及第点の成績であり、一見すると課題を解決したかのように思える。
出所:aozoraさん(@aozora__nico2)作成のデータ
しかし中谷はストレートへの意識を高めた結果、得意であった変化球の打ち損じが増加し、長打が減少。結局は成績の向上に繋がらなかったのである。今季も5本放ったうちの4HRが速球系に対してのものであり、以前と比べたら速球にも一定の対応ができるようになったと言えるだろう。しかし本質的には速球、インコースが苦手なタイプの選手であることに違いなく、苦手なものばかり意識してしまっていてはなかなか自分の長所を出すことも難しい。
チームメイトの高山俊も同様にインコースの速球を苦手とするが、無理に狙わないことで今季は復調の気配も見せている。今のチーム状況からすると、技巧派投手から長打を打てる人材が求められており、本来の中谷ならばうってつけの役割である。外野守備もチームトップクラスのレベルである中谷が、低打率や三振を恐れすぎず、本来の打撃を取り戻し良い流れに乗ることができれば、阪神がCS進出を果たすためのキープレーヤーとなるのではないかと感じる。
先発投手陣に話を移すと、西、高橋、青柳は安定してローテーションを守っているが、ガルシアが不安定なほか、岩田も久々の1軍でのローテ定着による疲労からか打ち込まれて脱落したことで、4番手以降がなかなか不安定である。
しかし、間も無く38歳になりスピードは衰えが隠せないものの老獪なピッチングで試合は作れるエースのメッセンジャー、昨季7勝の岩貞の復帰が近いとの報道もあるほか、一昨年12勝を挙げた秋山も徐々に状態は上がってきたように見受けられる。望月も変化球という大きな課題を少しずつクリアしていくとともに、武器であるストレートで、先発のマウンドでも空振りが取れるようになってきた。シーズン終盤に向けて、なんとかローテを再整備できる希望は見えてきているようにも感じる。
阪神はセリーグ屈指のリリーフ陣によって接戦を1つでも多くものにしたい状況であり、彼らへの負担を考えると、ローテ下位の先発が登板するときは「オープナー」の戦略を取っても面白いように感じる。経験豊富かつ勝ちパターンの投手ではなく、奪三振力も高いという点でも、能見篤史が適任ではないだろうか。
最後に矢野監督についてであるが、打順やリリーフの運用といった監督としての大枠、マクロな部分の采配に関しては比較的上手くこなせているように感じる。前者に関して言えば近本の1番定着により、各選手が適任の打順にハマりやすくなったこと、後者については金本前監督時代に築き上げたリリーフ王国という遺産と、当時のコーチ陣が残留して素晴らしい運用スタイル、ブルペンでの準備方法などを継続させられたことに加え、矢野監督自身が2軍監督時代に1軍の戦力になると感じた島本、守屋の抜擢などが理由としてあげられる。
また、圧倒的なセットアッパーとして君臨しているジョンソンの起用に関しても見事だろう。ビハインドの状況での登板は4月25日を最後に、8月19日まで1試合もなかったという。さらに、8回ジョンソン固定という形ではなく、相手の打順を見極め、相手打線が主軸に回る場合は7回に起用する柔軟さも良い。
しかし、細かい指摘にはなるが8月17日の巨人戦では7回2アウトランナーなしという得点が見込みにくい場面で糸原を代打で送り、そのまま交代させてしまい、その後9回の相手クローザー、デラロサが登板している場面で使うことができず木浪が打席に立った。些細なことであり、試合結果にはおそらく影響はなかっただろうが、チームの中でも速球派リリーファーへの対応力の高さはトップクラスである糸原を使いたい場面であった。大量点が望めないチームである以上、そういった1点を左右するミクロな部分の采配が重要になってくる。中谷や髙山といった癖のある打者も多い以上、終盤では相手投手を見極め適切な代打を送る判断力も求められるだろう。展開を読み切る、いわゆる「勝負師」の能力であるが、その点においてはまだまだ監督経験の浅さなども目立つ場面があるように感じられる。
厳しい状況ではあるが、メッセンジャーや糸井といった主力の復帰も近く、流れを変えられる福留や原口といった選手もいる。新外国人ソラーテも大きな穴が目立っているわけではないので、コンディションが上がれば活躍するのではないかと感じている。
今季も苦しんでいる生え抜きスターの鳥谷も7月以降は打率.412と調子を上げてきており、藤浪も苦しみながら必死に調整している。なんとか10月のプレーオフシーズンにもファン球団の試合を見られることを期待したい。
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