akane
2019/11/17
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2019/11/17
いよいよ、勝負の第7戦がやってきた。アストロズの先発は今年のトレード期限ギリギリに獲得し、第3戦でも粘投を見せたベテラン、ザック・グリンキー。
そして、ナショナルズの先発は第5戦で登板回避したものの、懸命の治療の末に志願の先発となったエース、マックス・シャーザー。
方や、どこか冷酷にすら感じさせるクールさを持ち、ワールドシリーズを制するために3ヶ月前に加入した投手。方や、満身創痍の体に鞭を打って凄まじい気合いに満ちた熱い目つきをしている、チームを長年エースとして支え続けてきた投手。対照的な両先発の投げ合いは非常にドラマ的な展開である。
そして、試合が始まると両投手の投球内容も対照的なものとなった。
経験豊富なグリンキーはこの大舞台でも、いつもと同じく飄々としたピッチングを見せる。気合い十分のナショナルズ打線をあざ笑うかのような64マイル(約103km)のスローカーブも見せながら、6回まで1安打1与四球。3塁すら踏ませないパーフェクトな投球であった。
一方のシャーザーは、立ち上がりからとにかく苦しんだ。武器であるスライダーが決まらず、制球も定まらない。2回裏、グリエルに甘く入ったスライダーを運ばれ先制弾を食らう。
その後も苦しい投球が続き、毎回ヒットにフォアボールで得点圏にランナーを許すものの、なんとか凌ぐ。この繰り返しである。マウンドから聞こえる雄叫びも、いつもの圧倒的な気迫というより、思い通りにいかないもどかしさが伝わってくる本当に苦しいものだった。
5回にコレアにタイムリーを打たれたものの、後続を抑えたシャーザー。ベンチに帰ると本当に疲れきった表情を見せていた。
ピンチの中、最後の打者に対しては武器のスライダーが83マイル(約133km)しか出ていなかった。日頃は80マイル台後半(140km前後)を計測するにもかかわらず。
だが、それでも抑えた。まさに魂の投球だった。今季最多の4与四球、今季最低の3奪三振。1920年以降、史上最長となる257先発連続で、奪三振数以下の与四球数を続けてきた記録がついにストップするほど苦しんだが、なんとか2,5回の1点ずつの2点で凌いだ。
数々の個人タイトルを受賞してきた男が手にしていない唯一のものとも言えるワールドチャンピオンの栄冠。シャーザーの魂の投球に、チームメイトたちも黙って終わるわけにはいかなかった。
6回からはポストシーズンの戦法の象徴とも言える、コービンのリリーフ起用によって3人で片づけた。続く7回表1アウトから、誰も捉えられていなかったグリンキーの決め球高速チェンジアップをレンドーンがレフトスタンドに放り込む。次の打者のソトも、フォアボールで続く。
アストロズはここでグリンキーに代え、リリーフの要であるハリスを投入した。ナショナルズは5番打者、ディビジョンステージMVPのケンドリック。初球はカーブでストライク、続く2球目はアウトローいっぱいに投げ込まれたカットボールだった。ケンドリックが腕を伸ばして振り抜いた打球はライトに舞い上がる。そして甲高い音がなり、ミニッツメイド・パークは悲鳴で包まれた。ライトポール直撃の逆転ツーラン。眠っていた打線がついに目覚めた。
↓ケンドリックの逆転・決勝HR
HOWIE FEELING, NATS FANS?! pic.twitter.com/TTO7sHHd5j
— MLB (@MLB) 2019年10月31日
ナショナルズは8回表にも攻め立てる。7回途中から登場したアストロズの守護神ロベルト・オスーナに対して、イートンがフォアボールで出塁すると、隙をつき盗塁を決め、4番ソトが甘く入ったストレートをはじき返し追加点となるタイムリー。ホームランでも点を取り、足も使ったタイムリーでも点を取る、まさにナショナルズ野球の象徴、トータルベースボールが発揮された。
コービンが7、8回も無失点に抑えると、9回表にはスミスからチャンスを作り、アストロズが代わりに起用したのは、第4戦に先発としてナショナルズを抑え込んだホセ・アーキーディ。だが、この投手からイートンが2点タイムリーを放ち、試合を決めた。
9回裏のマウンドには守護神ハドソンがたち、このシリーズ苦しめられ続けた上位打線、1番ジョージ・スプリンガー、2番ホセ・アルトゥーベ、3番マイケル・ブラントリーに立ち向かい、見事に3者凡退。
最後は空振り三振で締め、ワシントン・ナショナルズはついに悲願のワールドシリーズ制覇を成し遂げた。
↓ワールドチャンピオンの瞬間
FOR THE FIRST TIME EVER, THE @NATIONALS ARE #CHAMPS. pic.twitter.com/a45onBXNqy
— MLB (@MLB) 2019年10月31日
コンタクト率(バットを振った時にボールに当たる割合)MLB全体の1位、2位。打率もそれぞれ両リーグ1位。昨今のホームラン数増加(とそれに伴う三振数増加)時代の中で、バランスのとれた野球の重要性を見せた両チームによる、まさに世界一決定戦に値するシリーズであった。
最終戦では、勝ちパターンであったハリス、スミス、オスーナの全員に自責点がついたアストロズリリーフ陣に対し、ナショナルズはコービンをうまく起用することで、不安なリリーフをなんとか持ちこたえさせることができた。
6戦、7戦ではチャンスの場面で相手中軸のアルトゥーベ、ブラントリー、ブレグマンをバッテリーが必死に抑え、逆にナショナルズ中軸のレンドーン、ソトはとても大きな仕事をいくつもした。イートンやケンドリックなどの経験豊富な選手が渋い活躍も見せつつ、軽視されがちな外野守備ではロブレスがいくつもファインプレーを見せた。
アスレチックスの前GMビリー・ビーンの名著『マネー・ボール』に書かれている“三振を恐れるな、しかし三振はするな”という言葉をまさに体現し、三振をあまりせず、それでありながら各選手しっかりスイングし、的確に点を取った。このような最も隙のない野球を最後までやりきることができたからこそのチャンピオンだったのだろう。
100マイルを超える球を平気で投げる投手やおそるべきパワーを持った打者たちが次々に出てくる昨今のMLB。だが、ワールドチャンピオンにたどり着くためには原点である丁寧な、緻密さのある野球が間違いなく必要であることを改めて思い知らされた。だからこそ野球は面白いとも感じさせてくれた、素晴らしいワールドシリーズであった。
こうしてナショナルズの世界一によって2019年のMLBは幕を閉じ、オフシーズンが始まった。
NPBとは仕組みが違うため、多くの選手がFA(フリーエージェント)となるのだが、11月5日現在、ワールドシリーズにベンチ入りしていた野手の中で、正式にナショナルズに所属しているのはなんと6人しかいない。
投手も含め半数以上の選手がFAとなり、来季すべての球団と新たな契約を結ぶ権利を持つ。その中にはワールドシリーズでMVPを取ったストラスバーグやレンドーンも含まれている。
彼らが来季もナショナルズでプレーするかはわからないが、いずれにしても今年は長年戦ってきた多くの選手たちでワールドシリーズを取れる“最後のチャンス”だったと言えるだろう。その年にこうして巡り会えたことを嬉しく思う。
最後に、ナショナルズの公式ツイッターのあるツイートを紹介したい。エース、シャーザーについてである。
今年は怪我に悩まされ、彼にとっては厳しい年でもあっただろう。怪我明けも苦しい投球が続いていたが、ポストシーズンの中で、シュート方向への変化が多くなっていたストレートを、元の良かった時の伸び上がる軌道に微調整し、圧巻の投球を見せてくれた。
土壇場で流石の修正力を見せていた中で、再び訪れた登板回避せざるを得ないほどの首痛。それを乗り越え見せた最終戦での姿、そして自身初のワールドチャンピオンの栄冠。そんな彼が見せた涙である。誰よりも男らしい、深い涙なのではないだろうか。
If "Mad" Max can cry…
…YOU can cry. WE can cry. WE ALL can cry.#CHAMPS // #STAYINTHEFIGHT pic.twitter.com/XjoBx6HrwG
— Washington Nationals (@Nationals) November 1, 2019
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