akane
2019/11/16
akane
2019/11/16
(1回目はこちら)
初のリーグ優勝決定シリーズ進出を果たしたナショナルズはそのまま勢いに乗り、中地区王者セントルイス・カージナルス相手に4連勝。ワールドシリーズ進出を決めた。
このシリーズでも「コンタクト優先の打線」「コービンの先発登板間でのリリーフ起用」という戦い方を崩さず、それに先発陣、野手陣が大いに応えた。第1戦はサンチェスと元巨人のマイルズ・マイコラス、第2戦はシャーザーとアダム・ウェインライトの重苦しい投手戦が続いたが、サンチェスは8回2アウト、シャーザーは6回まで共にノーヒットピッチングをするなどベテランの勝負強さを存分に見せて接戦をものにした。
ワシントンに帰った第3戦はオールスター後の防御率が0.91とMLB全体で1位のジャック・フラハティ、第4戦は同じくオールスター後の9勝がナ・リーグ1位のダコタ・ハドソンという、ノリに乗っていたカージナルスの若手2人を打線が序盤にKOし、完勝した。
↓ナ・リーグチャンピオンに輝いた瞬間
NL Champs. pic.twitter.com/2Em9NYD0M0
— MLB (@MLB) 2019年10月16日
得点数がMLB全体で19位とやや得点力不足な面のあったカージナルスに対し、投打が躍動してスイープを決めたことで、ナショナルズはワールドシリーズまで6日間の休養を得ることができた。これは、シリーズの戦いにも大きく影響することとなる。
初のワールドシリーズの舞台。相手はワールドチャンピオンの大本命であり、2017年王者のヒューストン・アストロズ。先発、リリーフ、野手全てにおいて層が厚く、ナショナルズの上位互換的チームとも言える。さらには、リーグ優勝決定シリーズでスイープしたチームは1985年以降、8チーム中1チームしかワールドチャンピオンになっていないというデータもあり、ナショナルズの圧倒的不利が予想されていた。
迎えた初戦。ナショナルズはシャーザー、アストロズは5月27日から負けなしの19連勝中で、ア・リーグのサイ・ヤング賞にもノミネートされた(結果的には同僚のバーランダーが受賞)ゲリット・コールが先発。
投手戦が予想されたが、初回にアストロズが元DeNAユリエスキ・グリエルのタイムリーで2点を先制すると、続く2回にナショナルズはジマーマンのソロで1点を返す。その後は両者、ランナーこそ出せど得点は許さずアストロズが2対1と1点リードで3回が終了した。
実はこの時、この試合の結果につながる、ある傾向が出ていた。
コールは相変わらず自慢の豪速球を投げ込んでいて、その勢いは凄まじく、私が「4シームエグすぎる」とツイートしたところ、カブスのダルビッシュ有選手から「なんか勢いが違います、クローザーでもここまで勢いが落ちない球は見たことないかもしれません」とリプライをいただいた。
ナショナルズ打線も速球をなんとかバットに当てるのが精一杯で、ど真ん中への失投を見逃さなかったジマーマンのホームラン以外、捉えた打球はほとんどなかった。
しかし、直球が良すぎたこともあってか、コールは3回までに投げた43球のうち、その2/3を超える29球が直球だった。一方、武器のスライダーに関しては3回までわずか3、4球しか決まっていなかったのである。
すると4回、ナショナルズ先頭打者の4番ソトがアウトハイの速球を狙いすまし、ホームラン。アストロズの本拠地ミニッツメイド・パーク名物の、レフトスタンド上段にある蒸気機関車の近くまで飛ばす驚愕の一撃を見せた。
ここから、コールは大きく投球を変える。結果的にコールは4回以降、63球中32球が変化球となった。ソトに同点弾を浴びた後、アストロズバッテリーは急激に、その日決まっていなかった変化球を多投し、調整を試みたのだ。4回はホームランの後、13球中10球が変化球だった。
しかし、今シーズン絶対的な投球を見せていたコールでも、急ピッチの調整では対応しきれない。5回1アウト1、2塁イートンがスライダーを捉え勝ち越しタイムリーを放つと、2アウト1、3塁からソトも同じくスライダーを打ち2点タイムリーツーベースで5対2。アストロズから3点のリードを奪った。
コールはオールスター以降タイムリーを1本しか打たれていなかったそうだが(!)、1イニングで2本のタイムリーが出た。
↓ソトのタイムリー
This is Juan Soto’s first #WorldSeries game.
But you wouldn’t know it based on these at-bats. pic.twitter.com/XTjcwHbl3a
— MLB (@MLB) 2019年10月23日
大舞台では1つの隙が致命的な事態につながることを思い知らされると共に、その隙をついたナショナルズ打線の勝負強さを象徴するシーンだった。
ナショナルズはその後、リリーフでコービンを起用。終盤は迫られたものの5対4で逃げ切った。
勢いは止まらない。第2戦では、アストロズのエース、ジャスティン・バーランダーとストラスバーグの投手戦が続いたが、7回にスズキのホームランで勝ち越すと、打線が爆発し12対3で勝利した。
リーグ優勝決定シリーズの勢いそのままに、ワールドシリーズも2連勝。ポストシーズン7連勝の勢いを持ったまま、86年ぶりにワシントンD.C.の地にワールドシリーズの舞台がやってきた。
しかし、希望に満ち溢れたワシントンのファンの期待とは裏腹に、現実を見せられる結果となってしまう。3試合とも1点ずつしか取れず、3連敗。3試合での合計得失点「-14」は歴代ワーストタイの記録だそうだ。
3戦、4戦はアストロズの先発投手の粘り、リリーフ力の差も出て完敗。2勝2敗のイーブンになった第5戦ではコールが立ち上がりから変化球をうまく織り交ぜた投球をし、ソトのソロホームランの1点に抑え、第1戦の雪辱を晴らされた。ナショナルズはシャーザーが首痛で投げられないという衝撃のニュースの中、代役のジョー・ロスが5回4失点となんとか最低限の投球はしたものの、ホームのワシントンで屈辱の3連敗を喫した。
失意の中、再び敵地ヒューストンに乗り込んだ第6戦。第2戦と同じストラスバーグとバーランダーの投げ合いで、これまた第2戦同様初回に両チーム得点するものの、その後は粘り合いが続くという展開となった。
しかし5回にイートン、ソトの2HRで逆転したナショナルズが、アストロズのリリーフ陣も捉え、ストラスバーグの9回途中2失点の素晴らしい投球もあり、7対2で勝利。逆王手で勝負は第7戦へともつれ込んだ。
第6戦まできた上で、アストロズには2つの誤算があった。
1つ目は、投手陣の想像以上の疲弊である。エースのバーランダーはアストロズ加入後、チームに栄光を与える数々の奮闘をしてきたが、36歳という年齢もあり、ポストシーズンに入ってからは球速もあまり出ず、出力を保つのに必死で、もがき苦しむ姿がよく見られた(もちろんその状態でも全試合でゲームを作ったのがエースたるゆえんであり、絶対に責められるべきではない)。
また、シーズンでは先発の一角として活躍したウェイド・マイリーが9月以降絶不調のため、ロスターから外れた。セットアッパーのライアン・プレスリーも8月に負った膝の怪我から、シーズン最終盤に復帰したもののポストシーズンでは絶不調。同じくリリーフの中心格であるヘクター・ロンドンも調子が上がらず、結果的にウィル・ハリスとジョー・スミスのという2人のリリーファーに負担が集中する形となった。
ナショナルズもシャーザーの怪我があったものの、ディビジョンステージからワールドシリーズまで6日間の休養があった。対して、2日間しか休めなかったアストロズは、多くの投手たちの疲労が限界を超えていた。
そして、もう1つの誤算がDHでの戦いである。アストロズは、こちらも怪我でシーズン最終盤に復帰したカルロス・コレアが絶不調。三振があまりに多く、やや穴の多いDHのヨーダン・アルバレスと下位打線で2人並んでいることにより、チャンスをモノにできないケースが目立った。4番アレックス・ブレグマンの不調もあり、DHのあるヒューストンでの戦いは4,6,7番にやや安定しない打者が続いた。それを救う役割も求められるバランサー型打者、ジョシュ・レディックの不調も結果的には痛かった。
一方、ナショナルズはDHが加わると、相手投手の左右次第で併用の形がとられていたカブレラとジマーマンがともにスタメンで出場できる。これにより、勝負強い選手が1人加わるため、打線によりいやらしさが増した。
DHのないワシントンでは、投手が打席に入る分だけ繋がりを出しにくくなったナショナルズ打線に対して、(3,4戦では)“0,100”気味なアルバレスがオーダーから外れたこともあり下位打線に繋がりが出たアストロズがパワー面での差で上回る形になった。
逆に、DHのあるヒューストンでは穴が少なくなって繋がりが出るナショナルズが、勝負所に下位打線で得点が取れないアストロズを上回る構図であった。
これが「逆弁慶シリーズ」の重要な要素となっていたと考える。
株式会社光文社Copyright (C) Kobunsha Co., Ltd. All Rights Reserved.