akane
2019/10/04
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2019/10/04
セ・パ両リーグともにリーグ戦の全日程が終了し、明日からいよいよプレーオフシーズンに突入する。
私の応援している阪神タイガースは負ければBクラス確定の崖っぷちから驚異的な巻き返しを見せて6連勝。広島カープを最後の最後にかわして3位となり、CS進出を決めた。
勢いそのままに「下剋上」を果たしてほしいところだが、個人的にキーマンとして見ているのが高橋遥人投手だ。
プロ入り後2年間で規定投球回に到達したこともなく、今季も3勝(9敗)、プロ通算でも5勝しかしていない。特にパリーグファンの方などからすればあまりピンとこず、不思議に思われるだろう。
今回は、高橋遥人という選手の魅力を、何とかしてお伝えしたいと思う。
そもそも私が高橋を初めて注目したのは、彼が亜細亜大学にいた2017年のことだった。私はアマチュア野球にはあまり精通していないのだが、その年は清宮幸太郎や安田尚憲など高校生に注目選手が多いこともあり、ドラフト候補選手に全体的な興味を持っていた。そして、その中で偶然目に入ったのが高橋だった。
大学時代は制球難もあって成績は芳しくなく、アマチュア野球好きの方々の評価はあまり高いものではなかったが、個人的に彼の投球に大きな魅力を感じ、その後はTwitterで度々“1位清宮、2位高橋のドラフトを希望する”といったようなツイートをしてきた。清宮は抽選に外れてしまったものの、実際に私の願ったような指名が行われたことは非常に嬉しく、入団後も注目し続けている。
まず、私が初めて見た時にすごいと思ったのは「ストレートの速さ」である。先発左腕で今季最速152km、平均145km程度という数字自体もかなり良いものである上に、表示よりも速くミットに収まるような球であるように感じたことを覚えている。
もう少し細かく言えば、ストレートのタイプとしてはノビてくるというよりは、ややカット気味に変化し、リリースされてからあまり減速せず捕手のミットに「ズドン」と収まるようなイメージである。
昨年のソフトバンク戦で柳田選手が、ストレートがカット気味に変化したことに対して驚きのリアクションを見せたシーンもある。
#髙橋遥人 が同点のピンチを三振でしのぐ!
カットボールのキレに #柳田悠岐 も驚きのリアクション。
⚾プロ野球セ・パ交流戦
?#阪神タイガース×#福岡ソフトバンクホークス
?https://t.co/u4BaoHbwDg でLIVE中 #プロ野球 も #MLB も #DAZN で ‼#交流戦もDAZN#高橋遥人@TigersDreamlink pic.twitter.com/GhvnUWXWol— DAZN Japan (@DAZN_JPN) May 30, 2018
高橋のようなタイプの速球はホップしてくるような伸びるタイプの速球と比べると、空振りの割合は下がり、やや被打率は上がりやすい。だが一方、長打にはなりにくく、大谷翔平や昨年のナ・リーグ サイヤング右腕であるニューヨーク・メッツのジェイコブ・デグロムも同様の質を持ったストレートを投げている(もっとも、その2人は球速が160kmを超えることもあって空振りも多く取れるが)。
先発投手はリリーフピッチャーと異なり、常に0点に抑えることよりも、安定してゲームを作ることが求められる。
ホップ型の速球を投げる投手は安定して高出力を出し続けることができれば、確かに素晴らしい成績を残すことができる。長らくMLBでトップクラスの成績を残し続けているクレイトン・カーショウ、マックス・シャーザー、ジャスティン・バーランダーあるいはNPB最高峰である菅野智之、千賀滉大などの投手はそうしたストレートを投げている。
しかし実際のところ、ホップ型の速球を投げる先発投手はそれほど多くない。ホップ型投手はフライ系の打球を打たれる割合も高く、上述したような常に高い強度で投げられるエース級を除けば、やや球威が落ちてきた相手打線の3回り目、つまり5回前後に長打を打たれるリスクが極めて高くなるためである。
よって、そういった投手は短いイニングを投げて相手のバットにすら当てさせない「支配的投球」を期待され、リリーフに回されることが多い。阪神だと岩崎優がまさにそうであり、藤川球児も阪神復帰後の2016年前半は先発を務めていたがわずか5試合でリリーフに回されている。
一方、高橋のようなカット気味の速球は減速しにくく、やや変化することもあって長打を打たれにくい。ツーシームなどシュート回転量の多い速球は近年の「フライボール革命」によって打たれやすいボールになってしまっている点を踏まえても、逆側へ回転する速球を投げる高橋はもっとも先発向きだと言える。実際、被弾数は9月17日現在7本であり、この数字は100イニング以上投げた投手の中ではセリーグで最も少ない。空振りがそれほど多く取れるわけではないが、実に合理的なピッチングができているのだ。
彼の魅力はそれだけではない。
今はやりの、カットボールとスライダーの両方の良さを持つ球「スラット」「スラッター」の性質を持つ球を大学時代から鋭く投げこんでいた。プロ入り1年目にはこのボールをあまり投げることなく、曲がりの大きいスライダーを多用していたが、今季は「スラット」の投球割合を一気に高め、カウント球と決め球の両方でうまく使えている。
さらに、スプリットに近いツーシーム、通称「亜大ツーシーム」も重要なボールとなっている。このボールは亜細亜大学出身であるソフトバンクの東浜巨が大学時代、後輩である山崎康晃にツーシームとして伝授した変化球だ。その後、DeNAで守護神となった山崎が決め球として使っていることで注目を浴びたが、その実態は限りなくスプリットに近い。東浜や山崎をはじめ、広島の九里亜蓮や薮田和樹、ロッテの中村稔弥などほとんどの亜大出身投手が操る、伝統のボールである。
高橋もその例に漏れずこの球を多用しており、これにより現代野球の最も支配的なスタイルの一つである「スラット・スプリット型」の投球を可能にしている。
「スラット・スプリット型」はシカゴ・カブスのダルビッシュ有投手が今季後半に復調するカギとなったピッチングの法則であり、詳しくはお股ニキさんのコラムをご覧いただきたい。
2019年7月7日 阪神×広島
阪神 高橋遥人 9K's上質なストレートとスラットスプリットの組み合わせでスコアボードに0を並べ続けた。 pic.twitter.com/qe6ey7kFFk
— マーカス・鷺ヌーマン@MLB動画垢 (@L_1_5_6) July 7, 2019
※2,3,5個目がストレート、1,6,7個目がカットボール(スラット)、4,8,9個目がツーシーム(亜大ツーシーム)
高橋はスラットと亜大ツーシームに加えて、曲がりの大きいスライダーや遅いチェンジアップも使いこなす器用さを持つ。昨季は前述のようにスラットをほぼ投げておらず、右打者へのカウント球に苦しみ、ツーシームに依存。結果、甘くなったところを打たれるシーンが目立っていた。
しかし今季は、スラットを右打者に対しては小さく食い込ませるカットボール寄りの使い方、左打者に対してはやや変化を大きく、打者から遠ざかるスライダー寄りの使い方というように細かく使い分けることで躍進した。実に器用な投手だ。これに135~140km前後でストレートと球速が近いスラットとツーシーム、125km前後とやや遅いスライダーを混ぜることで緩急もうまく使えるようになった。3つの変化球でバランスの良い投球が可能となり、先発投手として一気に完成されてきた。
そんな高橋にも課題はある。1つはやや、投球が低めに固まりすぎてしまうことである。特に巨人はこの点を上手くつくことで、なかなか攻略はできなくても粘って球数を稼ぎ、早いイニングでマウンドからおろすことに成功していた。しっかりとストレートを高めに狙って投げることができれば、相手打線はより的を絞りきれなくなり、攻略が非常に難しくなると考えられる。
そして、もう1つがインタビューである。本人も認める苦手っぷりであり、焦った心境が声にも出てしまい、ヒーローインタビューで、「ヤベェ」と小声で呟いているところがよく見受けられる。しかしこのたどたどしさはなかなか狙ってできるものではなく、高橋の何よりもの個性であり、魅力であるようと感じる(笑)これからは是非。インタビューのシーンは注目して見ていただきたい。
シーズンを通して個人的に印象深かったのは6月13日のソフトバンク戦、同級生の大竹耕太郎との投げ合いである。
大竹もややカット気味のストレートと、チェンジアップを武器にする素晴らしい技巧派サウスポーであり、試合は6回までともに1安打ピッチングと素晴らしい投手戦を見せた。その後、7回裏にジュリスベル・グラシアルが3ランを放ち阪神、そして高橋は0対3で敗れた。しかし、今季もっとも緊張感のある阪神の試合の一つであり、打たれたボールもインコースの素晴らしいカットボールだった。グラシアルの美しい、まさに神のようなさばきをほめたたえるしかない。
ついに先制!グラシアル選手の3ランホームラン!#sbhawks pic.twitter.com/egr2YpFVVG
— 福岡ソフトバンクホークス(公式) (@HAWKS_official) June 13, 2019
阪神ファンである私にとってはとても悔しい敗戦となったが、共に24歳である両投手の未来が非常に楽しみになる一戦でもあった。今後も数多くのしびれる試合を見せてくれることを願っている。
先日、長らく阪神のエースを務め続けてきたランディー・メッセンジャーの引退が発表された。彼の素晴らしい投球やエースとしての誇りを見ることができたこと、そしてタイガースへの熱い愛を持ち続けてくれたことへ改めて感謝すると共に、高橋をはじめとする若手投手たちにはメッセンジャーのような頼もしい存在になってくれることを期待したい。
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