ryomiyagi
2020/06/26
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2020/06/26
近年はWARやOPSなどの数値が重視されて、打点などの打撃成績は旧来的な指標としてもみられがちだ。しかし、どのような形であろうと結局は得点を稼がないとチームは当然勝てないため、「打点を生み出す力」は極めて重要である。そして、この能力に長けた選手はチームのキーマンとなる。
得点圏打率以上に打点を生み出している打者の代表例が、中田翔である。2014年〜2016年、2018年の4度において100打点を達成した。
下記は、100打点以上を記録したシーズンの得点圏打率である。
2014年.295
2015年.281
2016年.264
2018年.300
上記の通り、4度のシーズンで得点圏打率が3割超えた年は、2018年の一度だけである。走者がいる機会の多い4番打者とはいえ、中田は得点圏打率の数値以上に打点を生み出す能力が高いのは確かだ。
これはシーズンだけではなく、国際大会にも結果として現れている。2015年のプレミア12では15打点、2017年のWBCでは8打点を記録したが、共にチームトップの成績である。さらに、国際大会に関しては4番打者ではなく筒香嘉智の次を打つ5番打者としてチームトップの打点を生み出した。
シーズンや国際大会において、打点を生み出す能力が突出している中田に、チームメイトが打撃成績以上の頼もしさを感じるのは間違いない。
ちなみに中田のこの力には、彼が大阪桐蔭出身ということも関係しているだろう。高校時代から短期決戦の戦い方や勝ち方に慣れている印象が非常に強く、国際大会や短期決戦で苦労せず活躍している場面が多いように思う。
日本代表への選出に関しては、2年連続40本塁打を記録した西武の山川穂高やプレミア12で活躍した楽天の浅村栄斗が対抗馬であり、ライバルである。シーズンを通してこの2選手を圧倒する成績を残し、以前のように日本代表の勝利に貢献してほしい。
現横浜DeNAベイスターズ監督のアレックス・ラミレスも打点を生み出す能力が高い選手の1人だ。近年、強打者の証とされている「OPS1.000」はキャリアで一度も超えたことはない。その一方で「3割30本100打点」は5度達成している。
ラミレスのOPSが高いレベルの打者と比較して低い、主な原因は出塁率である。
4番打者として勝負を避けられることやチームプレーの意識により、出塁率が高くなる打者は多い。しかし、ラミレスは出塁率よりも自らの打撃でチームを勝利に導くことに重点を置いた打撃スタイルであった。そのため、出塁率が従来の4番打者として見ると低い傾向にはあるが、早打ちで打点を量産していき、キャリアでは史上最多期間となる8年連続100打点を達成している。
この打撃スタイルから落合博満氏からも「4番らしい4番」と評価され、ヤクルト、巨人、横浜DeNAでチームの勝利に大きく貢献した。
現役外国人選手では、ウラディミール・バレンティンも素晴らしい。豪快な本塁打のイメージが強いと思うが、チャンスでなおかつ自身の集中力が高い場面では、非常に高い「クラッチ力」を発揮する。
特にその場面が多く見られたのは2018年だ。得点圏では、普段の打撃スタイルのように一発を狙いにいくのではなく、軽打でランナーを返していく打撃スタイルが確立されたシーズンだった。これまでに100打点以上を記録したシーズンは、2013年と2018年の2シーズンだが、いずれも131打点と驚異的な数字を残している。
バレンティンは調子のムラっ気が激しいタイプではあるが、2017年のWBCのように短期的に集中力が高まると、非常に高いパフォーマンスを残す選手でもある。
もちろん、かつて阪神にいた今岡誠の2005年シーズンのように、得点圏打率がそのまま打点に反映される選手もいる。ただ一方、チームを勝利に導く打点を生み出す力や「クラッチ力」は、得点圏打率だけではわからない能力もあるのではないか。
今回とりあげた中田・ラミレス・バレンティンの3選手を見ると、要所で打撃スタイルを変えて軽打に切り替える器用さも兼ね備えている。そうやって勝利に導く殊勲打が増えていくため、成績や数字以上にチームから頼られる選手になったのだろう。
上記の3選手以外で見ると、西武の山川が昨シーズン終盤に下位打線で起用されてからは、チャンスで軽打する場面が多く見られた。この切り替えを4番打者としてもできると、ワンランク上の選手になれる。さらに、巨人の岡本和真も、今シーズンの開幕カードでは、状況に応じ、軽打で打点を生み出す場面が見受けられた。
全ての選手に共通するのはチームを勝利に導くために、自ら打点を生み出す力があることだ。チャンスの時に得点圏打率と言った成績や数字だけではなく、切り替えられる適応力や集中力と言ったところを見ていくことも野球の面白さだろう。
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