BW_machida
2020/08/20
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2020/08/20
スラットを活かした優勝投手・作新学院今井達也
2010年代後半に入ったこの年の甲子園は、長い高校野球の歴史で時代がまた一つ変わった瞬間であった。
これまでは注目度も低かった一人の投手が、この夏で一気に成長した。作新学院の今井達也だ。春までは制球難で球速もそこまで出ておらず、県大会で決勝にも進めないほどであった。ただ夏の県予選では、相手を圧倒的な力で抑えるほどではなかったものの、21回1/3を投げて33奪三振と驚異的な奪三振率を記録し、チームを甲子園に導く。
そして、今井は甲子園に入ってから急速に進化した。
大会の前評判で作新学院は「打撃のチーム」と評価されており、今井自身も履正社・寺島成輝、東邦・藤嶋健人、広島新庄・堀瑞輝、横浜・藤平尚真と言った他の好投手と比較すると、知名度はまだない状態だった。
しかし初戦の尽誠学園、今井は別人かのような姿で9回13奪三振の完投。圧巻の投球を見せた。おそらく尽誠学園の打者も戦前の予想とはうって変わり、驚愕のボールを見せつけられたのだろう。
今井は3回戦の高橋昂也、千丸剛、西川愛也を擁する花咲徳栄戦でも、さらに進化を遂げる。戦前の予想では、今井対高橋の投げ合いであったが、花咲徳栄の先発は綱脇慧だった。作新学院は綱脇を2回に攻略し、一挙5点を挙げて今井を援護する展開に。
その後は今井の奪三振ショーで試合が進み、9回を投げて10奪三振、2失点で勝利した。花咲徳栄からすると、高橋を温存したことが裏目に出た結果となった。
準々決勝は、早川隆久を擁する木更津総合との対戦となった。作新学院は序盤、2試合連続完封している早川から入江の3試合連続弾を含む2本のホームランで3点をリードする。
今井は7回に1点を失うものの、ピンチでは牽制でランナーを刺すなどして切り抜ける。また、8回も味方の守備にも助けられてピンチを凌ぐ。最終回には152km/hを記録するなど9奪三振。好投手同士の投手戦を制してベスト4入りを決めた。
準決勝は馬淵史郎監督が率いる明徳義塾戦だったが、序盤から大量リードの展開になり、今井は決勝に備えて初めてマウンドを譲りつつ10対2で勝利して決勝進出を決めた。
ついに決勝を迎え、炎天下で投げ続けた疲れからか、今井は初めての先制点を与える。しかし、一切動じる様子はなかった。試合序盤こそ調子が出なかったものの、中盤から球速をあげていき、本来の調子を取り戻す。最終的は9奪三振を記録して作新学院を54年ぶりの優勝に導いた。
この大会の今井は球速が一気に上がったことで成長を遂げたが、それだけでなくゲームメイク力や相手を圧倒する力が一気に開花したと言っても過言ではない。
さらに、この時代には珍しく「スラット」を活かして空振りを取る場面が随所に見られた。
ちなみに2010年代後半の夏の甲子園において、ほとんど1人で最後まで投げ抜いた投手は今井だけである。この点を見ても、今後は「スラット」を活かしつつ、甲子園で勝ち進む投手特有の外角へのゾーンを活用できるかが、2020年代の甲子園で勝ち上がるための投手面の鍵になっていくに違いない。
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