ryomiyagi
2020/10/30
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2020/10/30
10月24日、横浜DeNAベイスターズ監督アレックス・ラミレスの退任が正式に決定した。本稿ではラミレス監督がどんな監督だったかを振り返ると共に、未来への展望も書いていく。
DeNAはラミレス監督就任1年目の2016年に球団初のCS進出、更に2017年には初の日本シリーズ進出を果たした。この結果は当然ながらラミレス監督の采配力がもたらしたと言って良いだろう。
ラミレス監督の運用能力には目を見張るものがあった。長期戦となるペナントレースでは選手のコンディションに気を配って進め、後半に向けてギアを上げていく巧みなペース配分がされていたように思う。
例えば2016年には、開幕から56試合連続で先発投手に5イニングを投げ切らせた。中6日空く先発投手には最低でも5イニングは投げてもらい、シーズン後半に向けて中継ぎ投手の負担を軽減するための策だ。
就任2年目となり経験も積んでブラッシュアップされた2017年シーズンは、短期決戦での采配も冴えまくった。先発の見切りが早くなる一発勝負で今永や濵口をリリーフに回した采配がハマりCSを突破。日本シリーズでもスラット系のスライダーとシンカーが武器の東浜に対して、このような「半速球」を飛ばすことには長けていた白崎をシーズン0HRながらいきなりスタメンDH起用。実際、白崎はなんとホームランを放った。
ペナントレースは選手のコンディションなどを考えて丁寧に運用しながら、ここぞの試合、短期決戦になれば勝負手を積極的に打って優位に進める。長期的視点と短期的視点、どちらも併せ持った素晴らしいバランスで戦っていた2年間だった。
また、常識に囚われない策を打てるのもラミレス監督の大きな長所だ。
2017年には4番打者としてのイメージが定着していた筒香嘉智を3番で起用。なんとなくの「筒香は4番だろう」という空気も気にせず、出塁率の高い筒香を3番に置く合理的かつ斬新な采配を振るった。
逆に今年は、実績のない佐野恵太を4番に固定すると開幕前から宣言。佐野の才能を人一倍買っていたラミレス監督のこの起用は解説者などから大批判されていたが、蓋を開けて見れば佐野は筒香の穴を埋めるどころかそれ以上の成績を叩き出し、文句なしの4番打者に成長している。
また俊足・小技の効く選手の少ないチーム状況を見てクリーンアップ級の打者を2番に繰り上げたのもラミレス采配の特徴だろう。筒香、ソト、宮崎、オースティンなど本来3-5番に座るような選手たちも2番を打った。2番まで繰り上がった核の部分にランナーを溜めるため、同時に「9番野手」という戦略も採用。
どれも奇抜な作戦に見えるが、中身を見れば合理的というものが多かった。賛否両論あったものの、ラミレス監督にしかできない発想でAクラス争いには最低でも毎年食い込めるチームを作ってきた。
ここまではラミレス監督の長所、素晴らしい経歴などを語ってきたが、今年限りで退任となったのにもそれなりの理由がある。ラミレス監督は2017年以降、少しずつマネジメント能力が落ちてきてしまっている。それが特に色濃く出てしまったのが今シーズンである。
2-5番にランナーを溜めるための苦肉の策だったはずの「9番野手」を、チーム打率が1位の今年も多用。打力がそこまで高くない割に走力がなく置き場に困った戸柱を9番に置くなど、本来の意図から外れた策が目立った。
また、長期的視点で丁寧に行っていた投手運用も年々と雑になり、勝ちに行く試合と捨てていい試合の境目があやふやに。今年はリリーフの国吉が1週間で110球近く投げるなんてこともあった。勝負勘も年々薄れ、特に意識していたであろう巨人との戦いでは幾度となく奇妙な策に出ては失敗を繰り返した。好調先発を早降ろしして逆転される、同点の場面で抑えに代わりイニング途中での登板に慣れていない国吉を投入し勝ち越しツーランを被弾、パットンをオープナーで行かせて、調子が悪いと分かりきっている中で続投させ2回で13失点……。怪我人も増え、9月頃には優勝戦線から完全に脱落してしまった。
長期的視点と短期的視点、運用と采配の区切りがごちゃごちゃになり、自ら生み出した策も、目的の前に手段がきてしまっているような状態だった。
前述した通り就任後2年間は素晴らしいシーズンを送っていたし、他の人間にない発想と若い才能を見抜く力を持っている。今後も野球界に貢献する人材になるだろう。
フロント入りするのではないか、とも噂になっているが、ラミレス監督は元から監督業を夢と語っていたほどの現場志向。数年の時間を空けて監督業に戻り再び優勝監督となった原辰徳監督のように、ラミレス監督もまた現場に戻って指導をしたり、采配を振るうことも十分ありえるのではないだろうか。
ラミレス監督はまだ若く、経験も十分備わった。時間を空けてリフレッシュし、もう一度どこかでユニフォームを着るべきだろうと個人的には考えている。
ネットで特に度を超えたような言い回しも含めた多くの批判を浴びていたが、それでも退任会見では横浜ファンを日本一のファンと評した。どんなに酷い負けでも試合後のインタビューに応じ、相手を賞賛した。この素晴らしい人間性がある限り、また仕事は来るだろう。野球人アレックス・ラミレスの更なる飛躍を願っている。
ラミレス監督が去るDeNAは、新たな指揮官を迎え2021年シーズンを戦うことになる。新監督には、今年できなかった長期的視点による正しい運用(特に投手)を強く求めたい。またこれは編成の問題にもなるが、ここ数年DeNAの課題となっている機動力・守備力の向上にも着手することになるだろう。
新監督候補には三浦大輔二軍監督の名前が挙がっている。三浦監督が率いるDeNAファームは盗塁企図数・盗塁数・犠打数がリーグトップで、機動力を使ったスモールベースボールをやりたいという意図は見える。DeNAの長打力は大きな武器であり今年はチーム打率も向上しているので、その良さは消さず、ここぞで1点を取れる細かさと機動力を“プラスする“イメージでできれば良いと思う。
ラミレス監督の野球からも上位の打順構成など良いものは取り入れつつ、長期的視点で選手を管理しながらここぞの勝負で思い切って手を打てるか。今までの野球を180度変えるというよりは更なるブラッシュアップ、洗練が求められる。
先日のドラフト会議では才能溢れる即戦力投手・入江、大学No.1打者・牧など有望な選手も獲得できている。来シーズンの横浜DeNAベイスターズには大いに期待したい。
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