フライパンで簡単にできる、絶品焼き牡蠣【親ごはん第12 回】
枝元なほみの親ごはん

「なんでこんなぐにゃっとしたものを大人は好きなんだろう?」って、子どもの頃は思っていました。牡蠣なんて、全く意味わかんないよって。なんとか食べられるのは唯一貝柱の部分だけだったし、当時母がよく作ったのが酢牡蠣だったから、子どもには余計ムリムリでした。だって苦手な酢と牡蠣ですよ、掛け算のできない子供にだって苦手×2は大人七不思議の一つくらい、謎の食べ物でした。

 

それが今ではすっかり好き、好きを通り越してちょっと特別な食べ物といってもいいくらい。今日も久々の外食でカキフライ、食べました、うふふ。大人になるって捨てたもんじゃない。

 

介護付きの病院にいた父の車いすを小さな車に押し込んで時々、ドライブに出かけました。公園を散歩したり、ぐるりただ車を走らせた帰りにはよく、荻窪にある本村庵という蕎麦屋に行きました。おいしい大好きな蕎麦屋でしたけれど、何よりありがたかったのはお店の隣に駐車場、入り口にはスロープもあって店内もちょうどいい広さ、椅子を一つよければ車いすのままテーブルにつけるところでした。蕎麦好き酒好きの父に、升酒と小さなつまみを何品か注文してからそばを食べるのが、季節ごとの楽しみになりました。冬の始まりのある日、そばの前に焼き牡蠣を注文しました。私が父の隣に座り、妹が向かいの席。ふっくらと焼けた牡蠣を食べた瞬間、父の顔に浮かんだ感嘆符「!」を私と妹、しっかりと見たのでした。ああ、人って「おいしい!」と思った時にはこんな顔をするのだなあ、とびっくりして、つられてなんだか嬉しくなりました。

 

穏やかでしたけど認知症の症状もあった父、顔に驚きの表情を浮かべたまま無言で、すぐさま二つ目の牡蠣に箸を伸ばしました。言葉で味を言う何倍もよくわかる父の感動に伝染して私と妹、幸福で笑いだしたこと、牡蠣を料理するたびに思い出しています。

 

「牡蠣の松前焼き」

 

■2人分
牡蠣            6粒
だし昆布          7×12cm 2枚
塩、酒          各適量
刻み柚子、しょうゆ    各適宜

 

【1】
牡蠣をボウルに入れて塩小さじ1~2をふり、水少々(ともに分量外)を加え、水分が黒っぽくなるまで指先でくるくると回しながら汚れと滑りを落とし、水を加えてすすぐ。牡蠣を引き上げて、もう一度水ですすいで、ざるにあげて軽く水けをきる。

 

 

【2】
昆布の表面に酒を塗り、牡蠣を3粒ずつのせる。そのままフライパンに並べ入れて水大さじ2~3(分量外)加えてふたをし、弱めの中火で5~6分、牡蠣がふっくらとするまで蒸し焼きにする。

 

 

【3】
火を止めてそのまま2~3分置いて皿に盛る。好みで刻み柚子を散らしてしょうゆをほんのひとたらし、熱々のうちにいただく。

 

 

枝元なほみの親ごはん

料理家 枝元なほみ

撮影/キッチンミノル
取材・文/高田真莉絵
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