2004年と2005年のSWA【第22回】著:広瀬和生
広瀬和生『21世紀落語史』

21世紀早々、落語界を大激震が襲う。
当代随一の人気を誇る、古今亭志ん朝の早すぎる死だ(2001年10月)。
志ん朝の死は、落語界の先行きに暗い影を落としたはずだった。しかし、落語界はそこから奇跡的に巻き返す。様々な人々の尽力により「落語ブーム」という言葉がたびたびメディアに躍るようになった。本連載は、平成が終わりを告げようとする今、激動の21世紀の落語界を振り返る試みである。

 

SWAは2004年6月5日の「SWAクリエイティブツアーVOL.1」(新宿・明治安田生命ホール)で始動、同年12月15日にVOL.2が同会場で行なわれた。演目は以下のとおり。

 

【VOL.1】昇太『夫婦に乾杯』/山陽『男前日本史』/白鳥『江戸前カーナビ』/彦いち『青畳の女』/喬太郎『駅前そだち』

 

【VOL.2】白鳥『好きやねん、三郎』(後に『山奥寿司』と改題)/山陽『最期のリクエスト』/昇太『群青色』/喬太郎『思い出芝居』/彦いち『臼親父』

 

VOL.1とVOL.2はプログラム全体に統一するテーマはない。ちなみにVOL.1の延長線上として2004年10月には山梨・大阪・名古屋でも公演が行なわれ、昇太は『パパは黒人』、白鳥は『マキシム・ド・呑兵衛』、彦いちは『熱血怪談部』、山陽は『バブー』を演じ、喬太郎は山梨と名古屋で『夫婦に乾杯』、大阪のみ『鍼医堀田と健ちゃんの石』(後に『結石移動症』と改題)だった。

 

初めて公演にパッケージとしてのテーマを持たせたのが2005年4月3日の「SWAクリエイティブツアーVOL.3」(新宿・明治安田生命ホール)。掲げられたテーマは「同窓会」だ。

 

【VOL.3】彦いち『真夜中の襲名』/山陽『はだかの王様』/喬太郎『路地裏の伝説』/昇太『遠い記憶』/白鳥『奇跡の上手投げ』 これ以降『路地裏の伝説』は喬太郎にとって重要な持ちネタの1つとなっていく。

 

昇太・山陽不在で2005年7月19日に半蔵門・国立演芸場で行なわれた「SWA shuffle」は、これまでSWAで発表された作品を別のメンバーが演じるというものだった。

 

【SWA shuffle】喬太郎『臼親父』(彦いち作)/白鳥『駅前そだち』(喬太郎作)/彦いち『奇跡の上手投げ』(白鳥作)/喬太郎『はだかの王様』(山陽作)/彦いち『群青色』(昇太作)/白鳥『真夜中の襲名』(彦いち作)

 

九代目正蔵襲名が話題となった時期に彦いちが作った『真夜中の襲名』は、このシャッフル以降、白鳥が誰かの「名跡襲名」のタイミングで演じる危ないネタとして定着することになる。

 

2005年8月13日の「SWAクリエイティブツアーVOL.4」(明治安田生命ホール)は、文化庁交流使節でイタリアに行く山陽の壮行会を兼ねたもの。

 

【演目】喬太郎『不在証明』/彦いち『拝啓、南の島より』/白鳥『幸せの黄色い干し芋』/昇太『レモン外伝』/山陽『花咲く旅路』

 

同じく2005年の12月には「SWAゲリラ」と称する4日間連続の公演が下北沢の「劇」小劇場で行なわれた。

 

【26日・SWAシャッフル】白鳥『愛犬チャッピー』(昇太作)/彦いち『宴会の花道』(昇太作)/昇太『保母さんの逆襲』(彦いち作)/喬太郎『横隔膜万歳』(彦いち作)

 

【27日・辺境の旅~崖っぷちトーク】白鳥・彦いち(トーク)/白鳥『砂漠のバー止まり木』/彦いち『キングサーモン愛宕山』

 

【28日・SWAも粋だね!古典落語】喬太郎『反対車』/昇太『つる』/彦いち『厩火事・北の国から』/白鳥『実録・お見立て』

 

【29日・ネタおろし】昇太『東海道のらくだ』/白鳥『へび女』/彦いち『長島の満月』/喬太郎『ハンバーグができるまで』

 

SWAらしい趣向に満ちた4日間。特筆すべきは29日のネタおろしで『長島の満月』『ハンバーグができるまで』という2つの名作が生まれたことだろう。

 

2006年5月16日・17日には中野・なかのZERO小ホールで「SWAクリエイティブツアー」が、“VOL”のカウント抜きで2日間興行として行なわれた。

 

【演目】喬太郎『軒下のプロローグ』/昇太『空に願いを』/彦いち『水たまりのピン』/白鳥『雨のベルサイユ』

 

運動会が雨で中止になってほしい小学生が主人公の『空に願いを』は昇太にとって「SWAで作って最も気に入っている噺」の1つだという。『雨のベルサイユ』は後に全10話で完結する「流れの豚次」シリーズの第4話となる噺で、この時点ではシリーズの原点『任侠流山動物園』の続編という位置づけだった。

 

同年8月20日に明治安田生命ホールで開かれた「SWAクリエイティブツアー」のテーマは「夏休み」。

 

【演目】昇太『罪な夏』/白鳥『明日に向かって開け』/彦いち『掛け声指南』/喬太郎『八月下旬』

 

今や彦いちの鉄板ネタとして定着している『掛け声指南』はこの公演で登場した。「新作なのに古典落語」「変な動きなのに江戸前」「くだらないのに人情噺」という3つのテーマを掲げた白鳥の『明日に向かって開け』も、その後しばしば高座に掛けられることになる。

21世紀落語史

広瀬和生(ひろせかずお)

1960年生まれ。東京大学工学部卒。ハードロック/ヘヴィメタル月刊音楽誌「BURRN! 」編集長。落語評論家。1970年代からの落語ファンで、年間350回以上の落語会、1500席以上の高座に生で接している。また、数々の落語会をプロデュース。著書に『この落語家を聴け! 』(集英社文庫)、『落語評論はなぜ役に立たないのか』(光文社新書)、『談志は「これ」を聴け!』(光文社知恵の森文庫)、『噺は生きている』(毎日新聞出版)などがある。
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