この1枚が、「アルバム」と「名盤」の意味を根底から変えた―ザ・ビートルズの1枚【第79回】
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

23位 『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』ザ・ビートルズ(1967年/Parlophone/英)

 

Genre: Rock, Psychedelic Rock, Baroque Pop
Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band – The Beatles (1967) Parlophone, UK
(RS 1 / NME 87) 500 + 414 = 914

 

 

Tracks:
M1: Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band, M2: With a Little Help from My Friends, M3: Lucy in the Sky with Diamonds, M4: Getting Better, M5: Fixing a Hole, M6: She’s Leaving Home, M7: Being for the Benefit of Mr. Kite!, M8: Within You Without You, M9: When I’m Sixty-Four, M10: Lovely Rita, M11: Good Morning Good Morning, M12: Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band (Reprise), M13: A Day in the Life

 

前書きにも記したが〈ローリング・ストーン〉の1位はこれだ。しかし〈NME〉の評価(87位)が順位を下げて、この位置となった。さすがに僕も、それは低すぎるんじゃないかと思うのだが……ともあれ本作は、ザ・ビートルズ8枚目のイギリス盤オリジナル・アルバムだ。現時点で、彼らの最も売れたアルバムでもある。

 

発表当時、イギリスではトータル27週、アメリカでは15週、1位に君臨。米グラミー賞では68年にアルバム・オブ・ザ・イヤーを獲得するのだが、なんとこれは「ロック・アルバムが同賞を受賞した初の例」でもあった。そして、今日までの全世界売り上げの累計で3200万枚を突破した、と言われている。

 

さらに本作は、批評家からも絶賛された。「世界最初のコンセプト・アルバム」と呼ばれることもある。アルバム・タイトルとなった「架空のバンド」を創造し、そのバンドのショウをそのまま収録したかのようなイメージで、全曲は配置された。バンドのテーマ曲がM1であり、アンコールに応えてふたたび演奏されるのがM12という趣向だ。M2、M3、M4、M7、M9、M10など、名曲もてんこ盛りだ。そしてイギリス盤のLPでは、このアルバムは「終わらなかった」。

 

最後のM13が終わったあと、針がレーベルのところまで動いていく過程で、なにやら怪しいノイズが流れる。レーベルに針が触れるとそこで針とびして戻るので、またそのパートが繰り返される。これが延々続く……という趣向だった。まあ、これ自体はとくに面白いものではなかったのだが、しかしとにかく「あらゆるところに凝っていた」ことの証明ではあった。スリーヴ・アートのいわくありげな感じ、そしてメンバー4人のファッションも含めて、「いろいろ考えた」結果が見てとれた。

 

本作がこうなったのは、ザ・ビーチ・ボーイズが前年に発表したアルバム『ペット・サウンズ』に影響を受けたため、と言われている。「作り込み」への傾倒が、突如ロック界の最前線で巻き起こっていた。「サマー・オブ・ラヴ」の時代だ。

 

スタジオのなかで「やれることのかぎり」をつくしたい。「だれも聴いたことのない」芸術的な音楽を生み出したい――「気のいいロックあんちゃんたち」だった4人は急速に大人になって、そんな情熱をたぎらせていた。本作の成功により、彼らはカウンターカルチャーの大波の先頭へと、立ち位置を移していくことになる。

 

次回は22位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

関連記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を