負けてられるかよ!と若者たちはシタール(など)を手に取った―ザ・ビートルズの1枚(後編)
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

9位
『ラバー・ソウル』ザ・ビートルズ(1965年/Parlophone/英)

 

Genre: Rock, Folk Rock, Pop
Rubber Soul – The Beatles (1965) Parlophone, UK
(RS 5 / NME 43) 496 + 458 = 954
※10位、9位の2枚が同スコア

 

Tracks:
M1: Drive My Car, M2: Norwegian Wood (This Bird Has Flown), M3: You Won’t See Me, M4: Nowhere Man, M5: Think for Yourself, M6: The Word, M7: Michelle, M8: What Goes On, M9: Girl, M10: I’m Looking Through You, M11: In My Life, M12: Wait, M13: If I Needed Someone, M14: Run for Your Life

 

(前編はこちら)

 

 収録曲で「パワー・ポップのネタ」系なのは、まずM5、M6、M12、そしてアルバム最後の2連発である「イフ・アイ・ニーデッド・サムワン」(M13)と「ラン・フォー・ユア・ライフ」(M14)だろう。「ノルウェージャン・ウッド」系列のメランコリアなら、「ミッシェル」(M7)、「ガール」(M9)で決まりだ。

 

 そして、この両者に分類し切れない楽曲にこそ、本作の真の妙味がある。「この世でビートルズしかなし得なかった」マジックを宿した一群こそが、それらだからだ。「ノーウェア・マン」(M4)がその筆頭だ。「ユー・ウォント・シー・ミー」(M3)も、じつはちょっとすごい。「アイム・ルッキング・スルー・ユー」(M10)と合わせて、レコーディング技術の進歩と「いろいろな楽器や音をアレンジに織り込んでみる」彼らの実験が、(ここが重要なのだが)「じつにさりげなく、しかしきわめて」高い効果を発揮しているのが、この群だ。なかでも突出しているのが、「イン・マイ・ライフ」(M11)で、これはもう、いつなんどき聴いても泣くしかない。「ホワット・ゴーズ・オン」(M8)だけは、いまいちどこに入れるか、謎なのだが……(「パワー・ポップ」系ではなく……カントリー?)。

 

 前作が『ヘルプ!(邦題「4人はアイドル」)』(65年)だったのだから、本作において彼らが果たした跳躍の距離たるや、目がくらみそうになるものがある。この時期のビートルズは、アイドルとしての自分たちから「次の段階へ」進むための計画を着々と練っている最中だった。コンサート活動をやめることをメンバー内で話し合い始めたのも、このころだったという。

 

 そんな彼らに、いや、とくにジョン・レノンに決定的な影響を与えたのが、ボブ・ディランとの邂逅(64年8月)だった、と言われる。ディランもビートルズから影響を受けた。その一部の反映から、僕が「奇跡の季節」と呼ぶ、彼の名作群が生まれた。とくにその1、2枚目は本作と同じ65年に発表されている。『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』(27位)が3月、『ハイウェイ61リヴィジッテッド』(16位)が8月だ。そして本作が、12月――ディランやザ・バーズなど、アメリカ勢の「最新の音楽」から刺激を受けたからこそ、ビートルズの4人のなかに「俺らだって、負けてられるかよ!」と、まるで対抗し合うライバル・チームのような競争心が芽生え、それがこの飛躍劇の原動力となったのではないか、と考えることは自然だ。そして彼らのそんな「向こう意気の強さ」が、ロック音楽の全体を「次の段階」へと押し上げていくほどの、4人の才能の開花へとつながっていく。

 

次回は8位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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