グーグル検索では見つからない「あこがれの家族像」【仮面女子・ニッポン幸福戦略 第三回】
仮面女子・桜雪の「ニッポン幸福戦略」

東大出身の地下アイドル、桜 雪(仮面女子)が、起業家や研究者、企業の社長たちに「10年後幸せになるヒント」を聞いてみた!

 

対談集『ニッポン幸福戦略』発売を記念して、対談の一部を紹介します。2人目のゲストはmanma代表取締役社長 新居日南恵(におり・ひなえ)さん。学生や未婚の社会人が子どものいる家庭を訪問する「家族留学」というサービスを提供する新居さん。その詳しい内容や、大学生で起業したきっかけなどをお尋ねしました。

 

 

先輩ママをロールモデルに“未来の自分”をイメージ

 

 新居さんはmanmaの社長を務めながら、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科にも在学中とのこと。どのように両立されているのですか。

 

新居 平日の日中はmanmaが主力で取り組む「家族留学」のほか、トヨタ自動車やソフトバンクなどの企業と若手女性のキャリア支援プログラムやプロモーションを行ったり、自治体との連携が始まるのでその準備を進めたりしています。大学院での勉強や研究は平日の夜と週末に行っています。

 

 「家族留学」についてまずは教えてください。

 

新居 家族留学とは若者のための “家庭版OBOG訪問” で、大学生を中心とする若手世代が将来のロールモデルに出会える企画として始まりました。平日の夜や週末、0~6歳のお子さんがいるご家庭に赴いて、密着体験訪問をさせていただいています。

 

具体的にいうと、例えば平日、官僚をされているママさんと霞ヶ関駅で18時に待ち合わせ、電車で保育園へと子どもを迎えに行き、帰宅してお子さんの食事をつくって食べさせて、夜ちょっと遊ぶ、というところまでを一緒に行います。その中で、「どうして省庁に就職しようと思ったんですか?」「毎日のお迎えは大変じゃないですか?」など、キャリアについて、あるいは実際の生活に関して生まれる疑問を率直に聞いていくんです。

 

働きながら子育てをしているリアルなモデルから将来のヒントをもらい、自分自身がどう生きていくのか、キャリアと家庭をどう両立するのかを考えるプログラムとなっています。

 

 受け入れ登録されているご家庭はどのくらい?

 

新居 現在は230家庭くらいです。

 

 すごいですね!知らない人を自宅に呼ぶというのはなかなか抵抗があるかと思うのですが、どのように増やしていったのですか。

 

新居 私がmanmaを立ち上げたのは大学1年生のときで、家族留学を始めたのは1年後でしたが、その1年間の蓄積があったんです。

 

例えばカフェなどにママさんに来てもらい、学生と話す場を設けたりしていた。それで参加してくれたママさんから「私も学生時代にそういう話を聞けていたらよかったなと思うから、応援したい」「託児所を紹介するから、そういうところに体験に行ってみなよ」と言ってもらえたり、インタビューを依頼してお会いした方に「一緒にワークショップしよう」と誘っていただいたりして。

 

最初はそのママさんたちに「家族留学を始めようと思っているので、受け入れてください」とお願いし、引き受けてくれたママさんたちの口コミでジワジワと広がっていった感じです。

 

子さんがいる家庭へ「家族留学」

 

社会人や、男性の参加も増えてきた

 

 家族留学には主に学生が参加するわけですよね?

 

新居 最近は社会人も増えました。いまは学生が6~7割、社会人が3~4割というところでしょうか。30歳前後の社会人のほうが、よりシビアで真剣な質問が出ますね。

 

 これまで何人くらいが利用されているんですか。

 

新居 約460人(2018年7月現在)です。

 

 地域的には関東メインですか。

 

新居 受け入れ登録してくださっているご家庭は北海道から沖縄まで23都道府県にあるんです。集中しているのは関東と関西エリアで、次に多いのが北海道と岡山です。

 

 北海道と岡山? それは何か理由が?

 

新居 北海道は、すごく熱心なお母さんがいて、お友達に広げてくださいました。岡山では岡山大学と連携して、家族留学を単位取得の一部に組み込んだ授業を行うことになったので、岡山に何回か通って受け入れ登録してくださるご家庭を増やしました。

 

 大学の単位になったなんて面白い展開ですね。アプローチはどのようにされたんですか。

 

新居 2017年度に「大学の授業を積極的にやろう」と思い立ったんです。それで知り合いの大学教授に相談し、早稲田大学、法政大学、横浜市立大学、東京女子大学などで1~数コマもらって授業をさせてもらいました。

 

そんな中、岡山大学で「専門知と職業」という授業を教えていらっしゃる先生から連絡があり、家族留学の実施の仕方を一緒に考え、最終的には単位になりました。

 

 「キャリアと子育ての両立」というと、女性のほうが絶対に関心がありますよね。でも、男性にも興味を持ってもらわないと両立なんてうまくいきっこない。家族留学に参加する男性ってどれくらいいるのですか。

 

新居 男性はもともと女性9割に対して1割ぐらいだったのが、最近2~3割まで増えてきているんですよ。ポイントはやっぱりカップル(笑)。最初は彼女が彼氏を連れてきて、次に彼氏が彼女を連れてくるようになりました。男性ひとりで参加される方は、以前はあまりいませんでしたが、うれしいことに最近は結構増えてきました。

 

 面白いですね。昔の日本だと近所づきあいがあって、よその家の子どもの面倒を見ることで子育ての一端を知れたり、何かわからないことがあれば隣家や近所のおばあちゃんに聞いたり助けてもらったりできた。でも、もしいま私に子どもができて、子育てで困ったときにどうするかというと、たぶんGoogle検索をすると思うんです(笑)。

 

新居 確かに。私たちの世代の両親って、30歳くらい上ですよね。でも、この30年間で子育ての仕方も夫婦の有り様も激変してしまった。新しい知識や知恵、情報を知りたいとしたら、やはり両親よりインターネットかなと私も思います。

 

 ただ、子どもという大事な存在に関する問題の解決策として、Google検索ではあまりにも心許ないんじゃないかとも思っていたんです。だから、家族留学はすごく心強いプログラムだなと。

 

新居 始めたころはそれこそ「昔の地域コミュニティーの再現みたいだね」「昭和的で懐かしいね」なんて言われました。参加される女性には、「母親が専業主婦だったので、働き続けたい自分のロールモデルにはならない」という人も多いです。

 

 「自分自身の生き方を、誰の話をもとに決めていいのかわからない」という人が多数参加されるということですね。

 

 

「いまなら何も失うものはない」と言われて

 

 ところで新居さんがmanmaを立ち上げるに至ったきっかけは何ですか。最初の一歩って、すごく勇気が要ることだと思うのですが。

 

新居 私の場合は「家族形成について情報を得る場所が欲しい」というザックリとした想いがあったんです。それで興味のありそうな友達2人と話し合って、3人それぞれがやりたいことをやるという組織をつくることにし、フェイスブックに「manmaという団体を設立しました」と書いたのが始まりです。

 

 すごい!まさかそんなに簡単に始められるとは誰も思わないですよね。うまくいかなかったら大きな負債を抱えるんじゃないかとか、似た団体にイチャモンつけられるんじゃないかとか、根拠のない不安が多くて普通はなかなか始められない。

 

新居 背中を押されたきっかけがあるんです。大学に入学して半年経ったころ、「将来は家族を幸せにするようなことに携わりたい。社会人として経験を積んだあとに起業しようと思う」とよく口にしていた。

 

するとある社会人の方に「君、大学1年生だよね?いまから始めて、3年間やってみて失敗したら、就活すればいいじゃない。30歳になってから会社を辞めて団体をつくるのはすごく大変だよ」と言われたんです。「30歳になったときは、給料もあるし、子どもがいるかもしれない。そうしたら絶対チャレンジできない。でもいまなら何も失うことはないからやりなさい」と。確かにおっしゃるとおりだと思って、始めました。

 

 

新居日南恵(におり・ひなえ)
manma代表取締役社長。1994年、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科在学。2014年に、任意団体manma(マンマ)を設立。15年1月より学生が子育て家庭の日常生活に1日同行し、生き方のロールモデルと出会う体験プログラム「家族留学」を開始。「家族をひろげ、一人一人を幸せに。」をコンセプトに、家族を取り巻くより良い環境づくりに取り組む。内閣府が進める「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取り組みに関する検討会」構成員、文部科学省「Society5.0に向けた人材育成に係る大臣懇談会」構成員、日本国政府主催WAW!(国際女性会議)アドバイザーを務める。

 

(文/堀 香織)

仮面女子・桜雪の「ニッポン幸福戦略」

桜 雪(さくら・ゆき)

アイドルグループ・仮面女子/アリス十番所属。1992年三重県生まれ。東京大学文学部卒業。高校3年生の夏、受験生アイドルとしてブログを開設し、アメブロ受験カテゴリーで1位を獲得するなど一躍人気ブロガーに。現役時代はE判定のまま東大受験に失敗するも、1年で学力を大幅アップさせ東大文科三類に合格。学業と芸能活動を両立させ、卒業後は東大出身アイドルとしてメディア出演多数。目標はエンターテインメントで国際貢献すること。著書に『地下アイドルが1年で東大生になれた! 合格する技術』(辰巳出版)がある。
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