先進国とは言えないニッポン【仮面女子・ニッポン幸福戦略 第五回】
仮面女子・桜雪の「ニッポン幸福戦略」

東大出身の地下アイドル、桜 雪(仮面女子)が、起業家や研究者、企業の社長たちに「10年後幸せになるヒント」を聞いてみた!

 

対談集『ニッポン幸福戦略』発売を記念して、対談の一部を紹介します。4人目のゲストは経済産業研究所上席研究員 岩本晃一さん。AIは本当に人間の雇用を奪うのか、日本の経済はこれからどうなるのか、社会科学分野の第一人者であられる岩本さんに疑問をぶつけてみました。

 

 

減る職業はあるが、増える職業もある

 

 岩本さんは現在、どのような研究をされているのですか。

 

岩本 未来の雇用や人材育成、AI、IoTを使った新しいビジネスモデルなど、経済学、経営学、社会学、ビジネスマネジメント、テクノロジーマネジメント分野の研究を行っています。

 

 雇用の話が出たので最初にお尋ねしますが、AIによって人間の雇用が失われるというのは、どれくらい真実なのでしょうか。

 

2015年、オックスフォード大学のフレイ&オズボーン(カール・ベネディクト・フレイ博士とマイケル・A・オズボーン准教授)と野村総合研究所の共同研究では「10~20年後に、日本の労働人口の約49%がAIやロボット等により代替できるようになるリスクが高い」と発表されました。

 

一方、同じ年のボストンコンサルティンググループのレポートでは、「ドイツの23業種、40職種に関して、2025年までに35万人の雇用増、2030年までに580万から770万の従業員不足に陥る」という、真逆の発表がされています。

 

岩本 フレイ&オズボーンによる最初の論文「未来の雇用─いかに仕事はコンピューター化されていくのか?」が出たのは2013年で、それをきっかけに、世界中で雇用の将来予測に関する研究ブームが巻き起こり、数百本の論文によってかなりの分析がなされ、「減る職業もあるけれども、それとほぼ同じだけの増える職業もある」という結論が出ています。

 

ところが日本では、マスコミがフレイ&オズボーンによる最初の論文を「人工知能が半分の職を奪う」と省略して言い続け、「AIは怖いものであり、将来の雇用を奪うもの」として日本の若者たちに不安を抱かせる、という固有の現象が起きています。

 

 そうなんですね。では岩本さんは、AIが日本社会に与える影響について、どのようにお考えですか?

 

岩本 「ルーティン業務の事務職」は、人間が訓練するには難しくても、その作業にはロジックがあり、容易にプログラム化できるので、AIに簡単に置き換わっていくでしょう。

 

 

日本がAIを使いこなせない理由

 

 今回お話を聞く前に、岩本さんの論文を拝読しました。まずAIを使ったり扱ったりする高スキルの職は増え、中スキルのルーティンワークはAIやロボットが代替するようになり、低スキルではAIに人間が使われる職業が増えていく。それが国別の傾向のグラフになっていて、アメリカの変化は大、欧州の変化は中、そして日本の変化は小とあった。

 

それがとてもショックで。日本はすごく出遅れているというか、AIを使いこなせていないんだなと、不安になってしまいました。

 

岩本 そのとおりです。日本は、新しい技術が出現して仕事が効率化される状況になったとしても、一部の人間の雇用を守るために先端技術を生かさず、依然として人間を充てて非効率な仕事をさせている国なのです。

 

ですが、そうした状況が成り立つためには、新しい技術を導入するよりも労働コストのほうが安くなければ意味がありません。日本には人件費の安い非正規という労働力が大量に存在していたことが、企業の生産性を低いままに温存してきた背景といえます。

 

それに比べて、米国には雇用を守るという慣行がないので、新しい技術が出れば、それを使いこなせない人の首をどんどん切り、使いこなせる人をどんどん採用していく。雇用を守らない分、企業の競争力はものすごく上がっていきます。そして、日本市場に攻め込んできているのです。

 

その結果、日本人が持っている情報機器の多くは米国製になりました。一方、日本の電機メーカーでは大量リストラが発生しています。一部の雇用を守るために効率化を犠牲にしてきた日本企業と、その逆を選択した米国企業と、どちらの選択が正しかったと思いますか?

 

 言わずもがなですね……。論文には「日本経済は長期停滞病を発症している」とも書かれていたのですが、長期停滞病の原因も、ずっと技術を使いこなせなかったことにありますか。

 

岩本 それよりも、長期デフレの中で日本の企業経営者が、いわゆるデフレマインドと呼ばれますが、あまりリスクを取って投資をしない、という原因のほうが大きいと思います。日本は、人口が増加している時代には市場が拡大し、商品が売れ、企業は成長してきました。しかし、総人口や労働人口が減りはじめ、市場全体が縮小しはじめても、これまでと同じやり方を続けている。そのため企業が成長しないのだと思います。

 

AIは、過去のさまざまな経験や実績を学習して、過去の延長で判断することが最も得意です。将棋などはまさに過去の対局を大量に学び、過去の実績から勝ち手を判断するわけで、一気に人間より強くなってしまいました。そういう分野では、AIがあらゆる面で人間を簡単に超えていくでしょう。同様に、「自分の若いころはこのやり方で成功したんだ」などと言い、過去の経験値しか能がない経営者は、AIに簡単に超えられてしまいます。

 

 新しい経験を積まないから。

 

岩本 ええ。持っている判断材料が経験値しかないという人にとっては、AIのほうが判断能力は上になるので、AIに敵わなくなります。

 

でも本来、人間が持っている能力や才能というのは、過去の経験だけではなくて、自分の頭で考え、未来を創造することです。いろいろなデータを材料に、「過去はこうだったが、未来はこうなるだろう」と考えられる頭脳を持っているので、そういう優位性や付加価値を持つ会社は勝ち残っていけると思います。

 

日本は先進国ではない

 

 岩本さんは「職業と教育は似ている」とも言及されています。過去の経験をずっと引きずることが仕事での失敗のもとだというなら、教育についても同じようなことが言える。でも、日本はずっと変わらない教育がされていますよね。

 

一方、ドイツのミュンヘン大学にはデータエンジニアリング・アンド・アナリスティックス学科という新しい学科ができました。岩本先生ご自身も「データサイエンティストを育成するような学科を(日本の)大学につくるべきだ」とおっしゃっていますが、具体的にはどのような学科なのでしょうか。

 

岩本 デジタル技術を駆使できる人や、大量のビッグデータを解析して経営に役立つ情報を作成できる人、企業の経営者としてデジタルビジネスを牽引できるリーダーを育てる学科です。

 

アメリカはドイツよりもっと進んでいて、70前後の大学院にデータサイエンティスト学科があります。経済誌『フォーブス』で、どの大学のデータサイエンティスト学科が優れているかというランキングが発表されているぐらいです。各大学は優秀な学生を集めるため、それぞれの特徴を広報し、競っています。

 

 すごい。同じ先進国とは思えない。

 

岩本 日本は先進国ではないと私は思います。「ウインドウズ95」が発売され、「インターネット元年」といわれたのが1995年。それから約20年が過ぎましたが、その間の日本とアメリカの変化を見ると、インターネット元年のころにアメリカでベンチャーとして誕生したグーグルやフェイスブックは、巨大企業に成長しました。彼らはモノをつくらず、データを処理していただけです。データ処理の仕方を「アルゴリズム」と呼びますが、それが優れていたのです。

 

一方の日本はというと、苦境に立たされている有名な電機メーカーが多くあります。東京にいるとあまりわからないかもしれませんが、電機メーカーの地方工場はどんどん閉鎖されています。完全にアメリカの圧勝、日本の完敗なんです。

 

 

岩本晃一(いわもと・こういち)
経済産業研究所上席研究員。1958年、香川県生まれ。京都大学卒業、京都大学大学院(電子工学)修了後、通商産業省に入省。在上海日本国総領事館領事、産業技術総合研究所つくばセンター次長、内閣官房内閣参事官などを経て、現職。2016年に「IoTによる中堅・中小企業の競争力強化に関する研究会」を立ち上げ、IoT導入支援を行っている。主な研究に「洋上風力」「ドイツの『隠れたチャンピオン』および地域経済」「ドイツのインダストリー4.0」「人工知能が雇用に与える影響や人材育成・働き方改革」「AIとジェンダー問題」など。著書に『洋上風力発電』『インダストリー4.0 ドイツ第4次産業革命が与えるインパクト』、共著に『ビジネスパーソンのための人工知能』『中小企業がIoTをやってみた』など。

 

(文/堀 香織)

仮面女子・桜雪の「ニッポン幸福戦略」

桜 雪(さくら・ゆき)

アイドルグループ・仮面女子/アリス十番所属。1992年三重県生まれ。東京大学文学部卒業。高校3年生の夏、受験生アイドルとしてブログを開設し、アメブロ受験カテゴリーで1位を獲得するなど一躍人気ブロガーに。現役時代はE判定のまま東大受験に失敗するも、1年で学力を大幅アップさせ東大文科三類に合格。学業と芸能活動を両立させ、卒業後は東大出身アイドルとしてメディア出演多数。目標はエンターテインメントで国際貢献すること。著書に『地下アイドルが1年で東大生になれた! 合格する技術』(辰巳出版)がある。
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