第二十六回 高田渡「個人的理由」
関取花の 一冊読んでく?

BW_machida

2022/08/05

暑い。さすがに暑過ぎる。夏が暑いのは当たり前のことですが、こんなに暑かったっけ? と思う今日この頃です。昨年と同じ温度設定でエアコンをつけても、今年はなんだか全然涼しくならない気がします。とにかく暑い。何度でも言います。マジで暑い。

 

ですが、なんとなくエアコンって喉に悪そうなイメージがあり(私が寝る時お口ポカーンなのがいけないんですが)、最初の方はなんとか頑張ってエアコンをつけずに寝ていました。でもそうすると今度は寝苦し過ぎて何度も起きてしまい、これでは睡眠不足の方で体調を崩すぞと思い、最近はさすがにエアコンをつけて寝ています。風が身体にあまり当たらない設定にして、温度も下げ過ぎず、夏用の布団もきちんと準備して、空気清浄機もONにして、きちんと湿度も確認しながら、私なりに万全の体制で。そしたらまあ快適なこと! おかげさまでバッチリ元気です。

 

でもそう簡単に何もかもが上手くはいかないのがこの私です。「いいじゃんいいじゃん」と思っていると、どこか気が抜けたタイミングで、必ずうっかりミスをしてしまうのです。それはまさに昨夜起こりました。

 

いつも通りの設定でエアコンをつけ、間もなく眠りについた私。少し疲れていたこともあり、普段は寝付きの悪い私ですが昨日は割とすぐに寝ることができました。しかし、しばらくすると妙な不快感に襲われました。……暑い。いつもと同じようにしているはずなのに、どうも暑過ぎるのです。布団をはぎ、近くにいたちいかわのぬいぐるみたちも遠くに離し、寝巻きのTシャツの胸元をパタパタしました。そういえば今週は特に暑くなるらしいと今日マネージャーさんと話したっけなあ、などとぼんやり思いながら、それでも眠気には勝てず、私は気を取り直して再度寝ることにしました。

 

それからまた10分が経ちました。やっぱり暑い。これはおかしい。思わず天井付近を見上げ、エアコンの運転中ランプを確認しました。すると、黄緑色の小さなランプはたしかに点灯しています。じゃあエアコンのつけ忘れということではないのか。やや混乱しながら額に手をやると、自分でもびっくりするくらい汗でびっしょりでした。なんならもうこめかみのあたりからは汗のしずくがタラタラこぼれ落ちていました。

 

熱でもあるのだろうか? いや、これは熱の感じではない。いずれにしても原因を突き止めないとさすがにこのまま寝続けることは不可能だと判断した私は、部屋の電気をつけました。そしてキッチンに直行、水を飲まないと大変になりそうなくらい汗をかいていたので、まずは水分補給です。一息つきTシャツを着替え、一旦もろもろ確認しようと眼鏡をかけました。そしてふとエアコンのリモコンに目をやると、画面の隅に驚きの文字が映っていました。

 

「暖房」

 

そう、暖房です。29度の設定で、まさかのまさか、暖房が入っていたのです。寝ぼけてスイッチを押し間違えたのでしょう、それにしてもこのとんでもなく暑い夏の夜に、29度の暖房の中で眠っていたなんて。想像したら自分でも怖くなってしまいました。あともう一歩起きるのが遅かったら、お酒でも飲んで気絶するように眠っていたら、熱中症でどうにかなっていたかもしれません。いやあ、本当に危ないところでした。気づいてよかった。みなさんも気をつけてくださいね。

 

そんな思わず頭もボーッとしてしまうほど暑い今年の夏。少しでも涼しい気分になりたいぞ、ということで、先月はこんな質問をさせていただきました。

 

今月の質問:「好きなアイスの味は何ですか?」

 

アイスの味って、スタンダードなものから変わり種まで本当にいろいろありますよね。氷系のアイスも含めたらその数はもはや無限大です。しかも毎年新しい味が必ず出ます。たくさんのご回答をいただいたのですが、今回はその中でもちょっと気になる内容のものがあったので、そちらをピックアップ。

 

お名前:ビヨ
回答:私の好きなアイスの味は黒ゴマです。初めての出会いは小学生の頃、中野のソフトクリーム屋さんで確か10段ソフトクリームが売っているお店でした。どこでも売っているわけではないけど、メニューにあると必ず選んでしまいます。
最近セブンイレブンで見かけてつい買ってしまったごまたまごアイス(お土産ごまたまごがアイスになった商品)も絶品でした!

 

まさかの黒ゴマ派がここにいましたか。私もめちゃくちゃ好きです。正直、「好きなアイスの味何?」と聞かれたらいつも答えに困っていたのですが、ビヨさんの回答を読んで、「それがあったか!」と思いました。特に学生時代、学食でアイスを選ぶ際、私は決まって黒ゴマ味を選んで食べていました。なんですかね、あのこってりとあっさりがちょうどよく共存している感じ。甘いのになぜか塩味がその奥からほのかに顔を出す感じ。アイスクリームって基本的に“洋”なイメージなのに、黒ゴマアイスなら“和”も味わえちゃうお得な感じ。最高ですよね。そして中野のお店もごまたまごアイスもめちゃくちゃ気になります。そもそも私、お土産のごまたまごが大好きなんですよ。昔友人にもらったことがあって、その美味しさに感動した記憶があります。この原稿が書き終わったら、セブンイレブンに直行間違いなしです。

 

そういえば「アイス」、とりわけ「アイスクリーム」と聞くと、真っ先に思い出す歌があります。ということで今回は、フォークシンガー・高田渡さんの『個人的理由』という詩集をご紹介したいと思います。

 

『個人的理由』文遊社(2012年)
高田渡/著

 

私が高田渡さんを知ったのは大学に入学して間もなく、軽音サークルに入り、まさに部室の前でアイスを食べていた時のことです。同じサークルの友人がギターを爪弾きながら突然こんな歌を歌い始めたのです。

 

アイスクリーム あたしの恋人よ
アイスクリーム あたしの恋人よ
あんまりながく ほっておくと
お行儀がわるくなる

 

気になって「それは誰の歌?」と聞いてみると、「高田渡というフォークシンガーの歌だよ」とのことでした。そこから私は高田渡さんの楽曲をいろいろと聴くようになり、その朴訥とした歌い方や声はもちろん、人柄にも興味を持つようになりました。そこで少し調べてみたところ、「アイスクリーム」をはじめ、高田渡さんの楽曲は、ほかの方が書かれた詩に歌をのせていることも多いことを知りました。(もちろんご自身の詩での楽曲もあります)そんなある日、若い頃にご高田渡さんが書いた詩だけをまとめた詩集があると、「アイスクリーム」を歌っていた友人が教えてくれました。それがこの『個人的理由』という詩集です。この詩集は、高田さんが18歳〜20歳頃までの間に作った詩をまとめたものだそうで、いわゆるミュージシャンの書くような、ある種自覚的で綺麗に整備された「歌詞」とはまた別の、もっと無自覚で日記に綴られるような言葉たちが印象的です。

 

ボクの詩は
ボクの詩でありまして
ボク以外の誰のモノでもないのです

 

これは、本書の最初に収録されている「ボクの詩」という詩の冒頭部分です。そこから続くほかの詩たちも、どれも私たちを諭してくるでもなく、自身に酔いしれることもなく、混じりっけのないシンプルな言葉たちがポツポツとそこには並んでいます。

 

「七月」

七月
それは 雨
雨の季節
いやーな 雨の季節

 

ボクの心に黴を植えつける
ボクの心に河をつくる

 

それは 七月
いやーな 雨の季節

 

押し入れから
水色のシャツを出し
ボクはそれを着て
街に出る……

 

短い詩でありながら、夏のじっとりとした空気感、ふとした瞬間の心細さ、青く繊細な心、そして次々と溢れてくる不安や葛藤……そういったものたちが、最低限の言葉で小細工なしの裸の状態で伝わってくるようです。こんな詩もあります。

 

「ランチ」

お昼に食べるのが
ランチというもので
夜に食べるのが
夜食というもの

 

ボクんとこの朝は
昼すぎにやってくるのです。

 

この詩には、わかるなあ、私もそうだなあと思わず頷いてしまいました。でもこうやって普段からなんとなく思っているだけのことって、「歌詞を書こう」とか「詩を書こう」と力んでいざペンをとると、逆に浮かんでこないものだったりするんですよね。

 

この本では、日々の生活や恋人への想い、時代の風景……そういったものが、大人になりきる一歩手前、自分が何者であるか、あるいは何者になっていくのか、様々な思いが交錯する18歳〜20歳という時期だからこその言葉たちで綴られています。しかし、難しい言葉などは使われていない一方で、日本語の詩集には珍しい全編横書きのレイアウトであったり、文字の並びや大きさの遊びで詩にさらなる表現の幅を持たせるなど、独特のユーモアと感性は随所から溢れ出しています。詩の中からはもちろん、どういったものに影響を受けながら彼がその時期を過ごしていたのかなどは、あとがきや解説でも知ることができるので、詩集としてのみならず、とても読み応えのある一冊です。

 

暑くて眠れない、あるいはなんだか力んでいろいろ考えちゃいそうな夜がもしあったりしたら、ぜひ頭をからっぽにしてこの本を読んでみてください。ちなみにビヨさんの思い出のアイスを食べた場所でもある、中野の駅も詩に出てきますよ!

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さて、次の更新は9月。夏の残り香と最後の暑さに包まれながら、夜には少し涼しい風が吹いている、そんな時期でしょうか。そういう時期の夜って、なんだか妙に不思議な気配を感じたり、ゾワっとしたり、胸がザワザワしたりしませんか? ということで、今月の質問はこちら。たくさんのご回答、お待ちしております!

 

 

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