第九回「コレットのにげたインコ」 
関取花の 一冊読んでく?

私事ですが、先日3月3日にフルアルバム「新しい花」をリリースしました。連載の中では音楽の話はあまりしていませんが、そうなんです、私の本業はミュージシャンです。アルバム発売の時期になると、その作品のプロモーション活動でたくさんのラジオ番組に出演させていただきます。北は北海道から南は九州まで、生出演もあれば収録、コメントのみ送らせていただくこともあります。いずれにしても番組側から台本を事前にいただき、印刷したものを手元に置きながらお話をするわけですが、あとから見返したらどの紙にも決まって同じイラストが描いてありました。ほんの少しの空き時間があれば、もうほとんど無意識で描いてしまっているんです、どすこいちゃんを。

 

この連載でも毎回イラストを載せているのですが、そこに登場するなんだか丸っこい女の子のキャラクターがどすこいちゃんです。ホームページ、グッズ、S N Sのアイコンなど、関取花の居るところにはどすこいちゃん在りというくらい、常に私のそばにいます。いわば私の分身みたいなものです。

 

私がどすこいちゃんを描き始めたのは学生時代、音楽を始める前のことです。授業でノートをとる際、私は隙間さえあればどすこいちゃんを描きまくっていました。手癖みたいなもので、気付いたら描いているという感じでした。そんなある日、とある授業で抜き打ちでノート提出を求められたのです。こんなノートを提出したら絶対にふざけていると思われる、さぞかし怒られるんだろうなあと思いながら、私はそのノートを提出しました。しかし、返却の時に先生からいただいたのはなんとお褒めの言葉。「楽しいノートですね、ユーモアがあっていい」と。

 

私はどすこいちゃんの落書きの横に吹き出しを描いて、そこに授業内容をメモしていました。語尾も話し言葉に変えて、さもどすこいちゃんが喋っているかのように。先生的には、むしろそれが自分なりの言語・解釈で授業を受けてくれている感じがして嬉しかったそうです。言われてみれば、たしかにその通りだなあと思いました。どすこいちゃんがそこにいるだけで、なんだか肩の力が抜けるというか、いい意味で「よし勉強するぞ」モードじゃなくなるんですよね。

 

あれからもう10年以上が経ちますが、相変わらず私はどすこいちゃんを描き続けています。ラジオの時は台本に、レコーディングの時は譜面に。とにかく気付けばそこら中にどすこいちゃんがいます。私にとってどすこいちゃんは、自然体で物事に取り組むために必要不可欠な相棒といった感じです。授業や仕事の最中に落書きをするのは決して正しいこととは言えないかもしれませんが、大切な作業なんです。私が私らしくいたいと思う限り、どすこいちゃんはそこにいるのでしょう。どすこいちゃんを描くことは、これからもやめられないことの一つです。

 

さて、先月はみなさんにこんな質問をしました。

 

「あなたの“これだけはやめられない”ものは何ですか?」

 

あれもこれもと思うがままに手を出していた10代や20代と比べて、私自身大人になるにつれて“やること“をある程度ふるいにかけるようになりました。それでもやめられないことやものって、逆を言えばそれだけ自分にとって重要だったり大切だったり、何か意味があることだと思うんですよね。そんなわけで、みなさんの“やめられないもの“も気になったので質問をさせていただきました。たくさんの回答の中から、なんだかいいなと思ったメッセージを紹介しようと思います。

 

お名前:いのっち
ルームメイトとの深夜のお菓子パーティー。今日の出来事を語り合いながら始まっちゃう。特にポテチはふたりとも大好きでやめられない(笑)

 

いのっちさん、ご回答ありがとうございます! 文面からだけでも楽しい雰囲気が伝わってきますね。深夜に食べるお菓子ってなんであんなに美味しいんですかね。しかも誰かと話しながら食べるとより美味しい。こんな時間に食べると太るしとか、明日ニキビできちゃうかもしれないとか、一人でいたらそういうネガティブなことも考えちゃったりするけど、それ以上にハッピーな時間と空間が深夜のお菓子パーティーにはあるのでしょう。今が楽しければいいじゃんと、決して投げやりな意味ではなく純粋な意味で思えるんだろうなあ。いいないいな、私も混ざりたい(笑)

 

深夜のお菓子パーティーをやめずに続けているからこそ深まった二人の絆だってあると思います。やめられなくて続けたからこそ、新しい何かが生まれることってありますよね。今回私がご紹介するのは、まさにそんなお話。「コレットのにげたインコ」という絵本です。

 

「コレットのにげたインコ」
イサベル・アルスノー(作)、ふしみみさを(訳)
2019年、偕成社刊(1,400円+税)

 

とある街に引っ越してきた、ちょっと人見知りな少女コレット。まだ友達もいないし、インコが飼いたいとお母さんにお願いしますが、ダメだと言われてしまいます。いじけて家を飛び出したコレット。すると、その街に住む子供たちが声をかけてきました。「なにしてんの?」と聞かれ、思わずペットのインコが逃げちゃったから探しているとウソをつきます。「どんな色してるの?」「なんて名前?」「どんな声で鳴くの?」子供たちに次々と聞かれるたび、コレットはウソをつくのがやめられなくなっていきました。インコと一緒に砂漠に行ったとか、ジャングルではガラガラヘビを食べたとか、二人で世界中を旅したんだとか、どんどんコレットのウソは大きくなるばかり。

 

しかし、そんなコレットの話を聞いて街の子供たちは、変に疑うどころか「もっと聞かせて!」「明日も遊ぼう!」と目を輝かせました。コレットの話を信じたのもあるとは思いますが、それ以上に、コレットの話が本当に面白くて、この子ともっと仲良くなりたい、この子のことをもっと知りたいと思ったからです。インコがいるかいないかより、コレットという一人の少女にみんな興味を持ったんです。たしかにウソをつくのはいけないことだけれど、ウソをついたその理由は、みんなと友達になりたかったから。だから少しでも気を引くために、あることないこと喋って頑張ってしまったんです。でもその結果、コレットはちゃんとみんなとお友達になれた。コレットにとっても街の子供たちにとっても、きっと必要なウソだったんだと思います。

 

やめられないことって、何かしらの意味でその人にとって必要なことなんですよ、やっぱり。「深夜にポテチを食べる」と聞くと、たしかにやめた方がいいと思うかもしれないけれど、じゃあなんのためにそれをするのか、なんでやめられないのか。事実以上に、本当はその理由が大事なんじゃないでしょうか。いのっちさんの場合は、きっとルームメイトの方とのその時間が、日々のストレスを和らげてくれたり、ありのままでいられたり、安心できたり、そういう理由があるからやめられないのだと思います。私がどすこいちゃんの落書きをやめられないのは、それで肩の力が抜けて私らしくいられるから。コレットがウソをやめられなかったのは、みんなと早く仲良くなりたかったから。そう思うと、やめられないってなんだか愛しい感情ですよね。やめなきゃと思い過ぎず、これからも気楽に楽しんでいきましょう!

 

 

この連載の感想や私への質問は、

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皆さんからのメッセージやエピソード、お待ちしております。

 

関取花

関取花

1990年生まれ 神奈川県横浜市出身。
愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。
NHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等の多くの夏フェスへの出演、ホールワンマンライブの成功を経て、2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。ちなみに歌っている時以外は、寝るか食べるか飲んでるか、らしい。
ラジオと本をこよなく愛する。
神奈川新聞と、いきものがかり水野良樹さんのウェブマガジン「HIROBA」にてエッセイも執筆中。 2020年11月、初の著書となるエッセイ集『どすこいな日々』(晶文社)を上梓。
2021年 3月、 メジャー1stフルアルバム「新しい花」発売。

関取花ホームページ https://www.sekitorihana.com/
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