akane
2018/06/08
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2018/06/08
スター声優たちの肉声から声優の歴史に迫る「創声記」インタビュー・羽佐間道夫さんに聞く第4回。羽佐間道夫さんの語る、吹き替え最初期のエピソードは思わぬ苦労に満ちています。聞き手は脚本家・映画研究家の大野裕之さんです。
ーー最初の生放送で吹き替えていた時は、羽佐間さんはやってらっしゃったんですか。
羽佐間 僕はギリギリやってない。まぁ「半生」はありましたけどね。
ーー「半生」って何ですか。
羽佐間 放送が流れていく中で、部分的に生でナレーションみたいものをやることがありましたね。でも、最初から生で全部っていうのは、僕はあんまり経験ないですね。熊倉一雄さんまでじゃないかな。
ーー収録だとしても、今のように取り直しはできませんね。
羽佐間 そう。1ロール28分間を一発録音です。だから、前の日に徹底してリハーサルをした。今みたいにDVDがないから、リハーサルも全部フィルムで回しているんですよ。
ーーで、翌日は一発録り。
羽佐間 それで困ったことがあって、「コンバット」の収録の時前夜にものすごい台風になっちゃってね。スタジオに、ザーッと水が流れ込んできて、引かないんだよ。朝、「おはようございます」ってスタジオに行ったら、最初に係の人に長靴を配られて「これ履いて収録してください」とか言われて。で、マイクが一本しかないわけだからさ、そこに寄っていく時に、ジャブジャブと水の音がするんだ。よりによって、その回のサブタイトルが「砂漠の鬼軍曹」っていう(笑)。砂漠なのにジャブジャブ音がしてる。翌日オンエアだからそのまま出すしかない。
ーーロールが走ったら、28分間一発録りなんですね。
羽佐間 「よーい、どん」ってやったら、28分は、ずーっとやってないとシンクロできない。ある時に若い子が28分目の最後の台詞を当てられて、じっと28分待っていたの。
ーーどんな台詞ですか?
羽佐間 警察署長の役で、「シット・ダウン!」という英語を吹き替えて「座りたまえ」って言うんだよ。ところが、緊張しちゃって、最後の最後に「シット・ダウン!」ってそのまま英語で言って(笑)、全部取り直しになった。
ーー2回目はうまくいったんですか?
羽佐間 そいつがまたもっと緊張しちゃって、二回目は「うっ」としか言えなかった。で、また取り直し(笑)。
ーーそこだけ取り直せないんですね。
羽佐間 できない、当時は。
ーー今は、数本のマイクで収録すると思いますが、当時はどうでしたか?
羽佐間 「コンバット」の時は、一本しかありませんでしたね。映画のブームマイクと同じで、上から垂れ下がってるの。それで、小さな細い線の片耳のイヤホンが机の上に並べてあるだけなんだよ。自分の出番になると、パッとマイクの前に行って、パッとイヤホンを耳に入れて、喋るんです。「コンバット」なんて、人がたくさん出るから、押し合いへし合いして。
ーーまず、そのイヤホンが少ないんですね。
羽佐間 そう。だから、人に取られないうちに、早く取っちゃう(笑)。それで思い出したんだけど、ある時、きれいな女性が声優として来たんです。プロデューサーかなんかの彼女なんですね。だから、イタズラしようということになって、先にイヤホンをみんなで取ったわけ。そうしたら、「あの、私のイヤホンがないんですけど」ってその子が言うから、「え?みんなこれ、自分たちで買ってきてるんだよ」って嘘を教えたんです。「受付行くと売ってるよ。『コンバット』っていう番組で来たんですけど、売ってください』って言ってごらん」なんてね。笑)。それで、彼女慌てて買いに行くわけ。で、半べそかきながら、「売ってくれませんでした」って帰ってきた。そういうエピソードはいっぱいありましたよ。
ーーそういうのって、いつくらいまで続いたんですか?
羽佐間 細切れに取り直しができるようになったのは、スタンウェイという収録機材が出てきた1960年代後半のことかな。十年はそんな状態でしたね。でも、取り直しはすごくお金がかかるから、原則的には28分一発録りでした。
スタンウェイの時代にもハプニングはありました。音声のリールと16ミリのフィルムのリールとをオンエアのときに同時に回すんですよ。シンクロする機械なんかないから、オペレーターがボタンを手動で押して。でも、映像と音声の機材の電圧が違ったりして、ちょっとずつ喋る声がずれてしまうときもあったんです。
『真昼の決闘』で、ゲーリー・クーパーが拳銃を撃って、その後グレース・ケリーと抱き合うシーンで、音が遅れてしまって、二人がキスするところで「バーン」と拳銃の音がなった(笑)。その後、少し早送りにして追いかけなきゃいけないから、ゲーリー・クーパーの「これから結婚しよう」とかいうラブシーンの台詞が高音で早口のコントみたいになって、すると早送りしすぎて今度は反対にゆっくりテープを廻すから、グレースケリーの声が象みたいな野太い「ゴワ、ゴワ、ゴワ」と低音って(笑)。
だいたい今は10分くらいずつ取って、繋いじゃいますからね。トチったら、「すぐ戻しましょう」ってなる。後ろで被ってる声も別録りできる。だから、昔みたいな不思議なことはないよね。
ーー「俺がハマーだ!」の時代はどうだったんですか。
羽佐間 「ハマー」の時代は、十分か十五分くらいはみんなで集まって一気に取りましたね。せっかくいいアドリブをやったのに、後ろのやつがトチったりなんかすると、同じアドリブがもう笑えないよね。だから、そういう苦労はありましたよね。
ーーそれは、別の苦労かと思いますが(笑)。
(第5回につづきます)
羽佐間道夫(はざま・みちお)
1933年生。舞台芸術学院卒。劇団中芸を経て、『ホパロング・キャシディ』で声優デビュー。以来、声優の草分けの一人として数多くの名演を披露。代表作に、シルヴェスター・スタローンを吹き替えた『ロッキー』シリーズほか、チャールズ・チャップリンの『ライムライト』、ディーン・マーティン、ポール・ニューマン、ピーター・セラーズ、アル・パチーノの吹き替えなど多数。2008年、第2回声優アワード功労賞受賞。
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