レジェンド声優が互いを語る! 野沢雅子と羽佐間道夫(#3)著:大野裕之
大野裕之『創声記-日本を話芸で支える声優たち-』

脚本家・映画研究家の大野裕之さんと声優・羽佐間道夫さんが、スターたちの肉声から「声優」の歴史に迫っていく「創声記」インタビュー。野沢雅子さんに聞く第3回は、声優草創期から活躍するお二人が互いについて語り合います! 初めての共演、長い共同生活での思わぬエピソード、敬意と信頼……必見の第3回。

 

 

初めての共演は……

 

――お二人が声優の世界で初めてご共演なさったというのは、いつ頃なんでしょうか。

 

羽佐間 外国映画はちょっとよくわかんないんだけど、アニメではずっと後期ですね。僕は「鉄腕アトム」ももちろん出てるけど、すれ違ってるし。

 

野沢 その頃のアニメは二人とも全部出てるんだけど、一緒にやったのは…

 

羽佐間 「ど根性ガエル」か何かで一緒になったというのは記憶がありますけどね。「巨人の星」には出てた?

 

野沢 「巨人の星」は飛雄馬の幼少の頃。

 

羽佐間 やっぱり少年なんだ(笑)。速水とは対決してないんだ(編集注:速水=速水譲次、「巨人の星」で羽佐間さんが演じたキャラクター)。

 

実写映画での夫婦生活

 

――他に共演なさったのは?

 

羽佐間 実写映画で一緒になったことがあります。夫婦役で。福島で長いことロケに行ったね。

 

野沢 そうそうそう。

 

羽佐間 全国農村映画協会っていうところの、ある作品で、営林署(現在の森林管理署)の役人の夫婦役で。福島の春夏秋冬の風景をバックにしながら、話が進んでいく。だから何回も汽車で通ったんだよね。
営林署員だからオートバイで山を回るんです。で、カミさん役のマコを後ろへ乗せて回ってる時に、砂利道で滑って転んだんです。えらいことになってしまったと思って、「マコ大丈夫か?」っていったら、この人ほんとは、重傷を負っていたと思うんだけど、「大丈夫よ」って。スタッフに負担をかけないように撮影を続行した。その時にすごい人だなあと思いました。その思いが、未だに残ってます。

 

――大丈夫だったんですか?

 

野沢 今だから言えますけど、全部痣になってました、ダーって、すりむけて。心配かけちゃいけないからね、やっぱりお仕事だから。

 

羽佐間 そういうことで一年間春夏秋冬通って撮影してたんですよ。それが彼女との本当の意味での初共演というかな。

 

――その時に印象的なことは?

 

野沢 山の中でキノコ採ったりしてね。帰って来て、旅館で料理してもらうんです。でもね、毒キノコもあったみたい(笑)。

 

羽佐間 それをね、俺に食わせようとして。

 

野沢 してないよ(笑)。

 

――全然映画の撮影エピソードとかじゃなくて。

 

羽佐間 生活になっちゃってる。

 

野沢 そう。

 

羽佐間 あれって、何歳ぐらいだっけ。僕が30ぐらいかな。

 

野沢 もうちょっと若かった。

 

羽佐間 マコの年に合わせるよ(笑)。

 

野沢 いくつだったか忘れたけど、若かった(笑)。

 

羽佐間 声優では、まだお互いに地位があったわけじゃなかったけど、でもお互い知ってたね。

 

野沢 うん、知ってた。外国映画か何かで一緒にやってたんだね。

 

 

羽佐間道夫が語る野沢雅子、野沢雅子が語る羽佐間道夫

 

羽佐間 夫婦役もやったことあるんだけど、マコの声ジーッと聞いてると、ものすごく女っぽいんだよね。それがすごいセクシーな声で。なんでこの人を女優に使ってないのかな。
チャップリンの声優口演でも、ヒロインのエドナを彼女にやってもらってる。ヒッチコックの無声映画のヒロインなんかもやればいいだろうね。色っぽいんだけど、実は殺人鬼だとかさ。だから小津安二郎監督の『淑女と髭』を声優口演でやったときに、小津さんの一家が見に来てくれて喜んでくれたでしょ。昔の日本女性の役も本当にうまい(編集注:声優口演=羽佐間さんが企画・総合プロデュースを務めるサイレント映画にライブでアテレコするイベント)。

 

野沢 私、声優口演で女の役をできるのが嬉しい。ディレクターの中で、サコンジョウさんだけが、マコーレー・カルキン君をのぞいて、いつでも女性で使ってくれました。

 

――今羽佐間さんが野沢さん論を展開してくださいましたけれども、野沢さんから見た羽佐間さんは、どういう声優さんでしょうか。

 

野沢 ほんとにね、お世辞みたいに聞こえるから、言わなかったんですけど、ミッキーは台詞が本当に自然なんです。普通声優さんは、原音の台詞に合わせるために、時間を調整しながらアテる。合わせるために不自然に伸ばしたりする。でも、ミッキーは絶対自然なんですよ。そこが私好きだったんです、最初から。

 

羽佐間 それしかできない。

 

野沢 そんなことない。素晴らしいんです。原音も向こうの人間がやってるんですから、吹き替えも自然じゃなきゃいけない。

 

――自然体でいることは、ものすごく難しいことですよね。

 

野沢 そうです、ほんとに! 役者だから、どうしたって何か演技をやりたくなっちゃうんですよ。もちろんミッキーも芝居はなさってるんですよ。だけどそれが自然だから、芝居してるふうには見えない。そこが私、昔から大好きなんです。今日初めて言いました。

 

羽佐間 うちに帰って絵日記つけなきゃ。

 

―― (笑)

 

「声優口演」の夢

 

羽佐間 でも僕の自然体とマコちゃんの女優を続けるのは、今は声優口演という場がある。

 

――声優口演は、はじめお二人でなさったんですね。

 

羽佐間 そうそう二人で、長野県でね。

 

野沢 ミカン箱に乗ってね。

 

羽佐間 善光寺のすぐそばで。観客がたくさん来るんだろうなと思って二人で行ったら、客は五人ぐらいでさ。ストトン節やったんだけど、誰も笑ってくれなくて。二人で結局善光寺の薬味買って帰って来た。
でも、やっぱり僕は無声映画をとにかく立体化したいので、マコと山寺とで続けてきた(編集注:山寺=山寺宏一)。

 

野沢 声優口演では自分ではない誰かになれるので嬉しいですね。そのうち、叔母が演じている役に声をつけることができれば。

 

――実現すると素晴らしいですね。日本の無声映画は、弁士が声をつけることを前提として作られることが多かったので、叔母様の映画が野沢さんの声を得て完成するということになります。

 

羽佐間 最近は、僕もマコちゃんもね、外国映画の吹き替えでは高くて使えないって言われるの。

 

野沢 そう言われますよね。

 

羽佐間 全部スケジュール押さえられてもバラしになる。理由を聞くと、計算したら経費がとても合いません。代わりに新人を十人使いますから、と。経済との関係だからやむを得ないけど、それで作品が良くなるかかというと疑問がある。こないだ昔吹き替えた「ミッドナイト・ラン」をまた収録したんです。昔、テレビ放映されたときは25分ぐらいカットされていたから、今度完全版の放送にあわせて収録しなおしたんです。すると、スタジオに昔の連中ばっかり集まってきた。柴田はいるし、富田はいるし、池田勝、宝亀、二又一成がいて、そういうのがズラズラ並んで、近年珍しいスタジオでしたよ(編集注:柴田=柴田秀勝、富田=富田耕生、宝亀=宝亀克寿)。

 

(第4回に続きます!)

 

野沢雅子(のざわ・まさこ)
1936年生まれ。主な出演作品に『ドラゴンボール』シリーズの孫悟空、悟飯、悟天、『ど根性ガエル』のひろし、『ゲゲゲの鬼太郎』の鬼太郎、『銀河鉄道999』の星野鉄郎がある。

創声記_野沢雅子編

著:大野裕之 監修:羽佐間道夫

【大野裕之】

脚本家・日本チャップリン協会会長

チャップリン家の信頼もあつく、国内外のチャップリン公式版Blu-rayを監修。羽佐間道夫氏発案の「声優口演ライブ」の台本を担当する。著書『チャップリンとヒトラー』(岩波書店)で2015年第37回サントリー学芸賞受賞。映画脚本家としては、2014年『太秦ライムライト』で第18回ファンタジア国際映画祭最優秀作品賞受賞。


【羽佐間道夫】

1933年生。舞台芸術学院卒。劇団中芸を経て、『ホパロング・キャシディ』で声優デビュー。以来、声優の草分けの一人として数多くの名演を披露。代表作に、シルヴェスター・スタローンを吹き替えた『ロッキー』シリーズほか、チャールズ・チャップリンの『ライムライト』、ディーン・マーティン、ポール・ニューマン、ピーター・セラーズ、アル・パチーノの吹き替えなど多数。2008年、第2回声優アワード功労賞受賞。


写真= 髙橋智英/光文社

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