3割うまい! 餃子飲み
酒場ライター・パリッコのつつまし酒

 

謎のキャッチフレーズ

 

「3割うまい!」この言葉を聞いてピンときた方は、「満洲っ子」に違いないでしょう。

 

「ぎょうざの満洲」。埼玉県や東京の西側に多く、僕の住む西武池袋線沿線はかなりの充実エリア。全国的に餃子チェーンというと、メジャーなのは「餃子の王将」ということになるんでしょうが、僕は生粋の満洲っ子であります。そのキャッチフレーズが「3割うまい!」。

 

ラーメンやチャーハン、各種定食などが揃う、いわゆる王道の中華食堂なのですが、昼飲みにも最適。家族で行って、子供たちは安くお腹いっぱいになって大満足。お父さんはゆるりと昼酒。なんて使い方にぴったりで、実際休日の昼下がりなど、そういう家族づれが多く見受けられます。

 

 

まずは「オリジナル中華奴」から

 

酒飲みにとってかなりポイントが高いのが「ザーサイ」「メンマ」「キムチ」「冷奴」「味玉」、5種のおつまみの存在。味玉は1個80円。それ以外はすべて150円で、さらに80円でハーフサイズを頼めるというきめ細かさ。ということはですよ? まずハーフサイズの冷奴を頼み、プラス、ザーサイかメンマかキムチ、いずれかのハーフも気分で頼み、冷奴の上に乗せてラー油と醤油を回しかけ、「オリジナル中華奴」しめて160円! にして食べないほうが大マヌケ野郎じゃないですか。

 

実は昨日も行ったんですけどね、満洲。その時は、メンマを選びましたよ。メンマ、ほぼ大衆中華料理屋でしか出会うことのない、いわば「柔らかい木」。ふにゃふにゃとコリコリが同居した不思議な食感。魂に直接「酒を飲め」と訴えかけてくるような独特の芳香。まずは2~3本、そのままコリコリとつまみ、ぐいっと飲む。

 

おっと、頼んだお酒のことをまだお伝えしてなかったですね。中華屋といえば何はなくとも瓶ビール、と思いきや、僕は満洲では一杯目から「スーパーチューハイ」です。ビッグサイズのジョッキに氷とレモンがひと切れ入り、透明で甘酸っぱいチューハイ、というか、一般的にはレモンサワーと呼ばれるような液体かな、それで満たされている。何がスーパーなんだかわからないし、そもそも僕、基本的には「チューハイに甘みは不要」派なのですが、ここではなんだか頼んでしまう。だって「スーパーチューハイ」という小学生が考えたようなメニュー名の響きが最高じゃないですか。また、これが脂っこい中華料理とよく合うんだ。それを、ぐいっと飲むと。

 

で、こんどは掘削した豆腐とメンマを合わせて口に放り込む。冷奴には、刻んだネギとショウガも乗ってますからね? そこにさっき、ラー油と醤油もかけたでしょう。メンマにはコショウも効かせてある。もはやぐちゃぐちゃ、味の過剰供給状態。しかしながらこの渾然一体がまた、スーパーチューハイの爽やかさとマッチするんですねぇ。

 

さて、僕は満洲には、お酒を飲む目的で行くことが多いので、続くおつまみの注文もおよそ決まっています。「焼餃子」(6個220円)と、単品料理をなにか1皿。単品のチョイスは「野菜炒め」(350円)率高し。たまに「レバニラ炒め」や「塩唐揚げ」のときはあれど、「ホイコーロ」や「マーボ豆腐」は頼んだことはないかも。なんだか急に冒険心のない自分が恥ずかしく、また、頼んだことのないメニューを食べてみたくなってきましたが、とにかく昨日は、なんのひねりもない野菜炒めを選んでしまいました。
ただね、この野菜炒めがうまい! モヤシにキャベツにニンジン玉ネギ。高火力の中華鍋で一気にジャッと炒めた、香ばしい中華屋ならではの味わい。すべて野菜がキラキラと油をまとってシャキシャキと小気味よく、絶妙にうましょっぱい。もちろん、なくてはならない豚肉もちゃ~んと入ってますし、キクラゲのブリンブリンとしたアクセントまで加わってしまうんですから、完璧です。

 

 

満洲餃子の愛おしさ

 

そうこうしていると、いよいよ主役の餃子も到着しました。僕、満洲の餃子がたまらなく好きなんですよね。
底面はカリッと香ばしく、全体的にはむっちりモチモチとした皮がまず絶品。餡はどちらかというとあっさり清純派で、野菜の甘みや肉の旨みをすごく素直に伝えにきてくれるようなイメージ。パンチの強い他店の餃子と比べると若干控えめにも思えるけれども、だからこそ小麦の味までしっかりと感じられるような、どこかつつましい餃子。酢、醤油、ラー油を調合したタレは、いわば化粧。ちょんと付けただけで、え? この間まで田舎娘だと思っていたのに、こんなに都会的な女性に!? ……自分が一体何を言ってるんだかわからなくなってきましたが、とにかくそんな満洲の餃子が、僕は大好きなんです!

 

あ、スーパーチューハイはとっくになくなり、お酒は「紹興酒」に移行中。紹興酒はロックか冷やして飲むのが好き。専用のグラスから受け皿にこぼれるほどたっぷりと注いでもらって、グラス一杯260円。安い。
あの独特の香りと甘み。僕って野郎は本当に安上がりで、紹興酒を飲みながらだと、どんな大衆的なメニューでも高級中華料理に思えてくるんですよね。で、目の前には潤沢な料理たち。気分は完全に貴族ですよ。あぁ、最高、満洲飲み。

 

 

ちなみに、最初からずっと気になっていた方もいらっしゃるかもしれませんが、いつもお店に置いてある「満洲通信」という冊子に「3割うまい!」というキャッチフレーズの由来が書かれています。曰く「『うまい、安い、元気』を表し、ぎょうざの満洲の経営理念です」とのこと。説明されてもなんとなく釈然としないような気がしなくないですが、そのよくわからない感じもまた、満洲の魅力なのです(断言)。

酒場ライター・パリッコのつつまし酒

パリッコ

DJ・トラックメイカー/漫画家・イラストレーター/居酒屋ライター/他
1978年東京生まれ。1990年代後半より音楽活動を開始。酒好きが高じ、現在はお酒と酒場関連の文章を多数執筆。「若手飲酒シーンの旗手」として、2018年に『酒の穴』(シカク出版)、『晩酌百景』(シンコーミュージック)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)と3冊の飲酒関連書籍をドロップ!
Twitter @paricco
最新情報 → http://urx.blue/Bk1g
 
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