酒飲み話をただ文字起こししただけ……でも面白い本『酒の穴―酒をみつめる対話集』

内田るん 詩人・イベントオーガナイザー

『酒の穴―酒をみつめる対話集』シカク出版
スズキ ナオ、パリッコ / 共著

 

外でお酒を飲むのが楽しい季節になってまいりました。
皆さんは外飲みしますか?

 

店じゃなくて路上とか公園とか駅前とかでコンビニ酒をダラダラ飲むやつ。楽しいですよね。私は友だちと一晩中、歩きながらお酒片手におしゃべりしたりするのが大好きです。

 

特に東京の中心あたり、後楽園あたりを適当に歩いて神楽坂に向かったりして、夜が明けて始発動く時間になったら適当な最寄りの駅で解散、みたいな。
街灯の明るい道がずっと続くし、駅から駅の区間もそんなに長くないからあんまり閑散としたとこもなくて、わりと安全。あんまり寒い時期だとキツイんで、5~7月くらいまでかなぁ。

 

お酒を女性が外で飲むなんつー、昔ならだいぶお行儀のよろしくないことだったことが、今は風情あるロマンチックな行為にまで出世して、助かりますが、これらも先人らの積み上げてきた努力と戦いと工夫の積み重ねありきなわけですよ!

 

遡れば100年前、平塚らいてうたちが「青鞜」で「五色の酒事件」のスキャンダルを逆手にとって「新しい女は酒も飲む」と謳ってみたりとかさ!ありがたい!
そして現代でも酒飲みの地位は日々向上したり、下がったり、一進一退なわけですよ。
酒飲んで運転? ありえなーい!未成年の飲酒? ダメ、ゼッタイ!!
……私が10代の頃はどっちもまだ全然ゆるゆるだったな。

 

もちろん、それが良いとは思わないけど、アルコールの立場はいつも不安定。嗜好品だし、中毒性も依存性も高く、飲みすぎりゃ身体にも害があるし、てか結構トラブルの元だよね。
「酒の上でのことだし」って言うけど、実際許さないじゃん? 酷いことされたら。酔ったらクソ野郎ってのはクソ野郎なんだよね、結局。
でも、そういう本性を暴いてしまうお酒、化けの皮を剥がしてくれるお酒、私たち人類はそれとずっと付かず離れずで過ごしてきた……。

 

お酒を外で飲んでる年配のおじさんを見ると、みじめったらしい、やさぐれた人たちのイメージが以前はあったけど、今は「お、やってますね!楽しんでますね!」という目で見れることが増えた(飲んでる人の様子によるけど)。
これは自分が路上で飲むようになってから、「路上は公共の場で、それは私たちのための空間でもあるということ、路上は常に解放されているはず」というアナキズム的な思想に触れてから、路上は「用事がない人」が「ただそこに居てもいい」場所なんだと気づいてからだ。
これは社会と自分との関係性をそのまま表している。社会は「用がある/役に立つ人」だけのためのものではなく、役立たずでも何もしなくても「ただ居るだけ」でもOKなのだ本来。
それらの居場所を確保することこそが社会が社会である意義とも言える。

 

この「酒の穴」という対談本は、特に何の内容もない、酒飲み2人が酒飲みながら、ただお酒を飲んでる時に心に移りゆく由無しことを延々とタラタラしゃべってるのを、わざわざ文字起こししただけという、稀有なほど無益な本である。
しかし、酒を飲むことを、かつてここまで朗らかな行為として扱えた人たちがいただろうか!? 多分わりといる。全然、先人いますね。

 

まあでもそれでもパリッコさんとナオさん(この本の著者というか対談してる酒飲みミュージシャン2人)は、それらを若い世代に継承する尊い活動を(結果的に)しているわけなんですよ!
大衆酒場のどこがたまんないとか、敷居高い個人経営の居酒屋デビューの心理とか、酒離れが進んでた21世紀の若者ってか、今の30代飲酒あるあるを軽やかに語ってくれて、そして人生にパイセンこと、かつては惨めったらしく見えていた呑んだくれのジジババさま方が、いかにお酒と共に人生をサバイブ&サーフしてきたかという、あの背中を見てみろ! カラオケスナックでチークする老人たちの姿を! 人生は美しい!!……と示してくれたわけです。私にとっては。ちょっと興奮しちゃったな。

 

他にもパリッコさんとナオさんは「チェアリング」や「缶ベキュー」など、低コストな新しい飲酒アウトドア・レジャーを発明してたり、とにかく酒との新しい付き合い方を常に考えている!

 

お酒を飲むのは「逃げ」ではない、お酒は適度な距離を保てば、一生の友だち……。目を逸らさないで!お酒と向き合って!いつかは入る、墓の穴。今はまだまだ、酒の穴。

 

『酒の穴―酒をみつめる対話集』シカク出版
スズキ ナオ、パリッコ / 共著

この記事を書いた人

内田るん

-uchida-run-

詩人・イベントオーガナイザー

1982年 東京生まれ神戸育ち。イベントオーガナイザー、詩人、フェミニスト、ミュージシャンなどいろんな肩書きのある無職。20代を無力無善寺、素人の乱、など高円寺の磁場の強い店での修行(バイト)に費やし、今は草取り・断捨離・遺品整理業を個人で請け負っている。文筆の仕事も。


・Twitter:@lovelove_kikaku

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