月に“宝の洞窟”が!? 無限の可能性を秘めた地下に続く「スカイライト(天窓)」
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ryomiyagi

2021/01/27

人類初の人工衛星、宇宙飛行に月面着陸……20世紀は人類が宇宙への進出を始め、冷戦により宇宙開発競争が活発に行われた時代でした。そして21世紀の現在、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の春山純一助教は、この世紀が「人類が再び宇宙を目指した時代」として歴史に刻まれるだろうと言います。中国、インド、アメリカ、イスラエル、韓国、そして日本など各国が月を目指した宇宙開発を進める今、私たちはどのような宇宙の世紀を創り出していくことになるのか。『人類はふたたび月を目指す』では、春山助教が今までの宇宙開発を振り返りながらその展望を語ります。 

 

月の謎の地下空洞「溶岩チューブ」

 

月に地下空洞がある。そんな仮説が前盛期から唱えられてきました。

 

「溶岩チューブ」と呼ばれるその地下空洞は、火山活動によって地下にできる洞窟のような空間です。日本では富士山のふもとに、お隣の韓国では世界最大級の溶岩チューブ「万丈窟」があります。

 

韓国の万丈窟は大規模な溶岩チューブ(白尾元理氏撮影)

 

火山噴火で流れ出た熱い溶岩は、外気に触れると表面が冷え固まります。けれども内側の溶岩は冷やされず溶けたまま流れ続けるのです。すると、最終的には中身が抜けて空洞となったパイプのようなものが出来上がります。これが、「溶岩チューブ」です。

 

そうした空洞が地球にあるのだから、月にもあるはずだと予想されていました。地下は降りしきる放射線や隕石、昼は灼熱、夜は極寒の急激な温度変化など月の過酷な環境から人と機械を守ってくれます。月に基地を作るなら溶岩チューブの中だ。そう期待されてきたものの、今世紀に入るまではその存在の確かな証拠はなく、月の地下空洞については謎に包まれていました。

 

しかし、そんな状況を一変させるものを、本書の著者・春山純一助教が日本の月探査計画「セレーネ計画」で発見します。

 

そんな溶岩チューブが実際に月にあることを期待させるものが今世紀になって「セレーネ」によって発見されました。「縦孔」です。これこそ地下空洞の上に開いた「天窓」であり、そして月の地下世界への入り口に違いありません。
その地下空洞は、さらに科学的にも魅力あふれる所です。今、国内外でも月の地下を目指す計画が立てられ始めています。日本では、それを「UZUME計画」と呼び、多くの研究者が検討に参加しています。

 

ついに見つけた!月の地下へと続く「天窓」

 

春山助教は、自ら開発した地形カメラで溶岩チューブを発見することを試みました。溶岩チューブは地下にあり直接は見ることができませんが、溶岩チューブが崩落している所に横穴があれば、そこを撮ることができます。

 

「セレーネ」は無事に打ちあがり、月まで行き、月の周りから手塩にかけて作った地形カメラが素晴らしいデータを送ってきてくれました。私は、溶岩チューブの候補と言われている所を丹念に見ていきました。
しかしなかったのです――。

 

春山助教たちの高解像度カメラをもってして撮った画像データを何度見ても、いくら探し続けても、崩落したような形跡も、横穴も見いだすことができませんでした。

 

「なんで、ないんだ!」と、私はついに一人で怒鳴りだしてしましました。

 

「溶岩チューブは、存在しないのか――」春山助教がそうあきらめかけた時、あるものが発見されます。

 

ある日、データの一次チェックをしていた原さんから内線がかかってきました。……(中略)電話の向こうから「何か見つけたみたいです」とのこと。さっそく原さんがいる、「セレーネ」データ解析室に行ってみると、見慣れた月面の中に、ポッカリと黒い円盤状のものがモニターに映し出されていました。

 

CAPマリウス丘の縦孔(写真中央の黒点)。直系50メートル。この画像を取得した時の太陽高度は45度付近であること、他のクレーターと違って底が見えないことから、これは50メートルより深い「縦孔」であると推測された (C)JAXA/SELENE

 

「ここに“居た”のか!」春山助教は思わず声を上げました。
画像中の他のクレーターは全て底が見えるのに対し、この黒い点は底が見えないことから直径以上の深さを持つものです。

 

そのようなものは、地面の下に何か空洞があって、その天井に隕石が落ちるなどして開いたとしか考えられません。それまで横穴の断面を探していましたが、予想に反して縦孔という、たぶん溶岩チューブに開いた「天窓(スカイライト)」を私たちは見つけたのです。

 

「宝の洞窟」?!溶岩チューブの持つ無限の可能性

 

溶岩チューブへの足掛かりとなる縦孔は、その後他に2つ見つかりました。
このような縦孔から溶岩チューブ内部を探査できれば、多くの科学的課題を解決する糸口になるだろうと春山助教は言います。そもそも、縦孔の奥底に本当に溶岩チューブがあるのか、それが分かるだけでも明らかになる事があるのだそう。

 

溶岩チューブがあることが確実になれば、レーダデータによる溶岩チューブの分布と、その場所の溶岩の年代とを合わせて、いつどのような「溶岩の噴出があったのか、という歴史を解明できるでしょう。
もし、縦孔の地下に人がる空洞が溶岩チューブでなかったら、それはそれですごい発見になります。例えば、マグマが上昇し、その後、溶岩噴出をせずに地下へ後退したようなケースです。こうした構造は、ガス成分が多いケースで起きると言われています。となると、月は、もしかしたら水などのガス成分が多かったということになります。

 

つまり、月に水があるかどうか、という長年月探査の目的になっていた謎も溶岩チューブの探査によって判明するかもしれないのです。
また、縦孔の壁、すなわち地層を研究することも月の過去の様子を明らかにするうえで大いに貢献します。他にも、縦孔の溶岩を調べることによっては月の磁場がどのように変化していったのかということが分かり、これは天体の進化、さらには生命の誕生の謎解明につながる発見になるだろうと春山助教は予想しています。

 

まだまだ他にも、多くの科学的知見が月の縦孔・溶岩チューブの探査で期待されます。月の縦孔・溶岩チューブは、科学における「宝の洞窟」なのです。

 

未来の月面活動想像図。放射線や隕石から守られる地下(右下)には、軽い構造物で住居や活動のための施設を造ることが容易である (C)JAXA

 

月の地下空洞は、シェルター的に活用できることから基地や人類の新たな生存の場として全盛期から期待されてきました。しかしそれだけでなく、未解明の科学的事実をひも解くためのヒントに満ちた場所なのです。宇宙の中で今最もロマンがある場所は、月の溶岩チューブの中なのかもしれません。

 

文/藤沢緑彩

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春山純一

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