うどんを打つ
酒場ライター・パリッコのつつまし酒

 

足踏みなし! 寝かせなし!

 

手打ちうどんを家で作ったことのある人ってどのくらいいるもんでしょう。それって手打ちそばと合わせて、2大「人生に余暇ができたおじさんがのめりこむ趣味」じゃないの? とお思いでしょうか。いえ、そんなことはありません。そばはともかく、手打ちうどんのハードルはかなり低い。もちろんいつものように、本格的なものではありません。プロや本気で趣味にしている方に言わせれば、「それはうどんじゃなくて、単なる『練り小麦の細切り』でしょ」と笑われてしまうかもしれません。けれども、見た目は完全にうどんだし、ズズズとすすれて、ちゃんと美味しい。そしてあまりにも簡単に、短時間にできてしまう。そんな、僕なりの手打ちうどんの楽しみについて、語らせてもらえたらと思います。

 

一般に、手打ちうどんに対してまずイメージするハードルは「足踏み」と「寝かせ」じゃないでしょうか。小麦粉を頑丈な袋に詰め、体重をかけて足で踏む。たたんでは踏み、踏んではたたみ、汗だくになりながらくりかえして、うどんならではのコシを出す。また、その生地をよ~く寝かせる。じっくりゆっくり寝てもらう。それにより、なめらなかでもっちりとした食感が生まれる。僕も詳しくないのですが、そういうものな感じがしますよね。手打ちうどんって。

 

だからこそ、思い切ってそれらのハードルを取っぱらっちゃいましょう。つまり、足踏みなし! 寝かせなし! それでも、それなりに満足できるうどんなら、ちゃ~んとできるんです。

 

手打ちうどんの作りかた

 

重ねて言っておきますが、これは世にあふれるさまざまなうどん打ち情報をもとに自分なりに試作をくりかえし、面倒だと感じる工程を削ぎ落としてたどり着いた、自分なりの現在進行形のレシピでしかありません。達人から言わせたら「そこ、逆効果だよ」という箇所もあるかもしれません。が、聞く耳は持ちません。いや、高圧的でなく「あの、そこはこうしたほうがいいかもしれませんよ」という態度でアドバイスをしてくれるなら、持ちます。むしろぜひ教えてください。が、「違う違う! そうじゃないんだよ!」みたいな厳しいのは、こわいので勘弁ください。

 

さて作業に入っていきましょう。分量は僕がちょうどいいと感じる1人前です。

 

まず、大きめのボウルに薄力粉100グラム、水45グラム、塩5グラムを入れます。デジタル表示のはかりがあると便利ですね。うどんには中力粉と相場が決まっているそうですが、一般家庭にもっともよく常備されているのは薄力粉だと思いますし、それでも形になるので、薄力粉でいきます。一瞬、「塩、こんなに入れるの!?」とビビるかもしれませんが、塩分はうどんをゆでるときお湯の中に大部分溶けていってしまうそうなのでご心配なく。

 

次にそれを、菜箸などでぐるぐるぐるぐるかき混ぜます。面倒ならば指一本でもけっこう。粉と水でしかなかったボウルの中身は、すぐにポロポロとまとまりだします。そしたらそれを、ひとつの生地にまとめるべく手でこねます。たたんでは体重をかけ、たたんでは体重をかけと2~30回もやればもう、そこにあるのは誰が見たってうどん生地。慣れればここまで、本気で3分かかりません。

 

そしたらそのボウルにラップをかけて、15分ほど放置します。気持ちの問題かもしれませんが、そのくらい寝かせたほうが生地がもっちりとする。「あ、今寝かせたじゃないか! 寝かせないって言ったのに!」と思った読者のみなさま、何も一晩とか三日三晩寝かせるわけじゃありません。たったの15分なので、仮眠ということでご了承ください。その間、大きめの鍋でうどんをゆでるためのお湯を沸かしておくのも良いでしょう。

 

15分経ったら、うどんを平たく延ばして細切りにしていきます。このとき誰しも、モチっと心地よい生地をふたたび体重をかけてよ~くこねたくなることでしょう。が、僕の経験則として、ここでこねればこねるほど、うどんの仕上がりはガチガチになる。そこでちょっと平たく延ばしたら1回折りたたむ。それをもう1回くりかえす。この「2回折り」くらいがちょうどいい塩梅のような気がしています。

 

あとはもう、大きめのまな板に打ち粉として薄力粉を多めに振り、綿棒を使って生地を延ばしてゆく。厚さが2~3ミリになったら、上面にもたっぷりと打ち粉をして折りたたむ。それを、なるべく細く切っていく。どんなに意識しても、僕のような素人がやれば、ゆであがりは極太うどんになってしまうので、とにかくなるべく細く細くを心がけ。そしたらうどんをほぐす。雑にやるとくっついてしまうので、面倒でも1本1本ばらしていくのが良いでしょう。

 

お湯、沸きました? ならばそこへできたうどんを投入し、くっつかないように一度、菜箸などでかき回してください。ゆで時間は8~10分くらいかな。水で締めるとぎゅっと引き締まるので、気持ち長めのほうがいいです。

 

麦×麦の極楽

 

さぁうどんがゆであがった。これをそのままつゆにつけて食べる釜揚げもいいし、麺を丼に移して生卵とダシ醤油をぶっかけてわーっとかき混ぜて食べる釜玉もいい。ですが、夏場ならやっぱり冷やして食べたいところですね。

 

うどんをザルにあけ、熱が冷めるまでよ~く流水で洗う。可能であれば氷水で冷やす。水を切ったら丼にあけ、かけつゆの濃度に希釈しためんつゆと、あればゴマか揚げ玉。青ネギなんかあったら上等すぎ。揚げたての天ぷらなんて贅沢は言いません。

 

特に予定のない夏の昼下がり、クーラーの効いた部屋で豪快にズゾゾと自作の手打ちうどんをすする。モクモクモク。うん、冷凍うどんにはない力強い噛み応えと、濃い小麦の香り。しかも自分で打ったから、3割増しでうまい。飲みこんだらおもむろに、キンキンの缶ビールを缶から直接ゴクゴクー! ……プハーッ! あぁ、夏はこれに限るなぁ。

 

個人的に、うどんには他のどのお酒よりもビールが合う気がするんですよね。なぜか昔から。今、これを書いていて気づきました。もしかして、麦×麦だから?

酒場ライター・パリッコのつつまし酒

パリッコ

DJ・トラックメイカー/漫画家・イラストレーター/居酒屋ライター/他
1978年東京生まれ。1990年代後半より音楽活動を開始。酒好きが高じ、現在はお酒と酒場関連の文章を多数執筆。「若手飲酒シーンの旗手」として、2018年に『酒の穴』(シカク出版)、『晩酌百景』(シンコーミュージック)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)と3冊の飲酒関連書籍をドロップ!
Twitter @paricco
最新情報 → http://urx.blue/Bk1g
 
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