今、あえて向き合う「サイゼ飲み」
酒場ライター・パリッコのつつまし酒

一億総サイゼ好き社会

 

以前この連載で「いまさらファミレス飲みにハマる」という原稿を書かせてもらいました。その時の舞台は「ガスト」であり、いまだによく利用させてもらっています。が、ファミレスでもカジュアルにお酒を飲んでいいんだということを業界に先立って世に知らしめたのって、おそらく「サイゼリヤ」じゃないでしょうか。大看板メニュー「ミラノ風ドリア」の299円をはじめとした、圧倒的なお手頃価格。今やファミレス界では珍しくなくなった、グラスワインが100円で飲めてしまうという衝撃も、サイゼリヤが開拓していった道という印象があります。

 

サイゼリヤの創業は1968年、千葉県本八幡の小さなお店でした。そこから10年で3店、20年で21店と、徐々にチェーン展開を広げていき、現在はご存知の通り、数え切れないほどの店舗が全国各地に存在しています。それだけ、手頃で美味しいイタリアンチェーンとしての実力と革新性を兼ね備えていたということでしょう。
なので、いまさらこのような原稿を書いたとて、「サイゼ飲み? 誰でもやってるっしょ」という声が出ることは、容易に想像できます。また、「違う違う、それじゃないって! 本当にお得なのはこっち! はいやり直し」と、サイゼ通各位からお叱りを受けるであろうことも重々承知しております。が、サイゼリヤの懐はそんなに狭いだろうか? 人の数だけ楽しみかたがあって、お互いにそれを尊重しあうことこそが「サイゼ道」なんじゃないだろうか? そんな気持ちがムクムクと湧き上がり、あと、単純にこないだ久しぶりに飲んだらめちゃくちゃ良かったというのもあって、今あえて、正面から、自分なりの「サイゼ飲み」と向きあってみようと思った次第です。
サイゼ飲みに一言あるという方は非常に多い。実際、僕の友人知人の発言を思い返しても、「小エビのサラダはマスト」「エスカルゴのソースをフォカッチオでぬぐうのこそ至高」「削りたてペコリーノチーズにオリーブオイルをかければ100円で最高のおつまみができる」「+99円でピザのチーズが倍になる『Wチーズ』こそサイゼリヤの真骨頂」「プロシュートがとても399円とは思えないクオリティ」「サイゼリヤのペペロンチーノは、本場のイタリアンシェフすら認める逸品」「お得だからとマグナムボトルを頼んで翌日絶対後悔する」などなど、こだわりと思い入れのオンパレードです。なので、そういった意見は今回、一切無視していきたい。ただただ自分の好きなようにやらせてもらいたい。そういった方向でひとつ、よろしくお願いします。

 

 

ディアボラ風の新事実

 

ある夏の夕方、取材仕事を終え、軽く飲みたいな~と街を徘徊していると、サイゼリヤを発見。うんうん、なんだか今日の気分だぞ、と入店します。まず、何はなくとも生ビール。ジョッキで399円。それと、メニューはノールックで「柔らか青豆の温サラダ」(199円)も注文します。これ、かつて頼まなかったことがないんじゃないかというくらい、僕の中では定番メニュー。
すぐに生ビールが到着。サイゼのグラス類、しばらく前に、ガラス製じゃなくなりましたよね。SNSなんかで、あれに文句を言ってる人をたまに見かけることがありますが、僕はあの、ガラスとプラスチックとゴムの中間のようななんとも言えない口あたりと、それでもけなげにビールジョッキ模しているフォルムが意外と好き。今調べてみたところ、石川県加賀市の「石川樹脂工業」という会社が製造する、新世代樹脂「トライタン」を使った食器だそうです。トライタン、かっこいい。そう思うとよけいにありがたく思えてきます。家にも一式ほしいな、トライタン晩酌セット。

 

青豆到着。決して中央の温玉は崩さぬよう、豆だけをちびちびとつまんでいきます。この、なんというか、「ファミレス」というイメージとは程遠い、ぼんやりとした存在感。申し訳程度のベーコン以外は、素朴な豆の味がするのみ。好ましいなぁ。と堪能した後、しかしながら、ビールのおつまみにしたいわけですから、ずっとぼんやりしていてもらっても困ります。もうちょっとシャキッとしてもらわないと。まずはオリジナル「唐辛子フレーク」をふって少し味わう。満足したら、粉チーズを追加。それも満足したら、最終的にタバスコドボドボ。もはや素朴な頃の面影もありませんが、そうやって味変しながら食べることによって、生ビールなど一瞬で空いてしまう強力なおつまみに変身するわけです。あ、くれぐれも、まだ中央の温玉は崩さないよう!

 

ビールと豆を味わいつつ、メインのおつまみを決定しました。やっぱりこれを頼んでしまうんだよなぁ。「若鶏のディアボラ風」(499円)。パリッと焼き上げたチキンの上に、サイゼリアでしか見たことのない、オリジナルの“ディアボラ風”ソース。これが超~うまいのよね。なんて思いつつ、念のため今、「ディアボラ風」とは何かを調べてみました。そしたら衝撃の事実が判明。「ディアボラ」とはイタリア語で「悪魔の」という意味であり、鶏肉をパリッと香ばしく焼き上げた料理のことなんだそう。「悪魔的に美味しい」みたいなニュアンスでしょうか。ということはですよ? ディアボラ風とは「パリッ」のことであって、あのソースは単なる「サイゼリヤオリジナル野菜ソース」だということらしいんです! びっくり。今回は勉強になることが多いですね。

 

 

かけあわせオリジナルメニューの楽しみ

 

若鶏のディアボラ風到着。合わせて頼んだ「フレッシュワイン 白 デカンタ(250ml)」(200円)は先に到着済み。500mlのデカンタも飲めなくはなさそうなんですが、そっちは399円で、250mlを2回頼んでも1円しか違わないので、サイゼでは刻んでいくことにしています。

 

さて、あらためて現状、目の前にあるラインナップをおさらいすると、生ビールがなくなり、白ワインが潤沢。青豆がなくなり、小皿には手つかずの温玉がポツリ。そしてディアボラ風。チキンの上にたっぷりの野菜ソース。ポテトとコーンもたっぷり。あと、どの肉料理にもついてくるステーキやハンバーグ用のソースも、ココット皿に入ってプレートに乗っています。さぁここからが本番。

 

一口目、フォークとナイフで野菜ソースの乗っていない部分、素のチキンをカットし、パクリ。カリッ、じゅわ~と、最高の焼き上がりです。できることならシェフを呼びたい。白ワインごくり。うん、幸せ。
二口目、こんどは野菜ソースとチキンのハーモニーを味わいます。シャキシャキとした玉ねぎのピリリとした辛味がたまらないアクセント。またまた白ワインゴクリ。以下省略。
ここでいよいよ、僕なりのこだわりポイントですよ。チキンの上の野菜ソースの中央を若干へこませ、そこに残しておいた青豆サラダの温玉を、ドスンと投下! 上からステーキソースもバシャー! ナイフでプツンと切れ目を入れれば、とろりとした黄身がゆっくりと全体を覆ってゆき、いってみれば、「ディアボラ風親子丼のアタマ」が完成するわけです。完成したら無心にカットし、食らう! 飲む! 食らう! 野菜ソースとステーキソースと半熟卵が絡み合い、それらがコーティングされたぷりぷりの鶏肉は、この上ないワインの加速装置と化しています。
合間にリズムを刻むように、魅惑のソースをポテトに絡めて食べる。コーンにも絡めて食べる。さぁワインがなくなった。自分は今、あとどのくらいの酒を欲しているか? おつまみの残も加味してよ~く検討。250mlをプラスするか? いや、ここは100円のグラスワインだろう。我ながら刻むな~。

 

ってな具合に楽しみつくし、以上で合計、脅威の1397円。やっぱり何度来ても、サイゼリヤはおそるべしなのでした。

酒場ライター・パリッコのつつまし酒

パリッコ

DJ・トラックメイカー/漫画家・イラストレーター/居酒屋ライター/他
1978年東京生まれ。1990年代後半より音楽活動を開始。酒好きが高じ、現在はお酒と酒場関連の文章を多数執筆。「若手飲酒シーンの旗手」として、2018年に『酒の穴』(シカク出版)、『晩酌百景』(シンコーミュージック)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)と3冊の飲酒関連書籍をドロップ!
Twitter @paricco
最新情報 → http://urx.blue/Bk1g
 
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