秋の屋上うどん飲み
酒場ライター・パリッコのつつまし酒

 

よし、ランチ飲みだ!

 

池袋で会社員をしていた時代、お昼ご飯は基本的に、立ち食いの「小諸そば」か「はなまるうどん」でした。そこにたまに、僕の中では牛丼屋ではなくてカレーやであるところの「松屋」が挟まる。もう、そればっかり。しかしながら、夏が過ぎて秋口になり、無性に寂しいんだけれども最高に気持ちのよい天気の日々がやってくると、つい足を運んでしまうお店がありました。それが、西武池袋本店の屋上にある「かるかや」といううどん屋さん。
いわゆるフードコートタイプのお店で、デパート内にある製麺所で、機械を使わずすべて手作業でうどんを作っている。それを屋上のお店で出している。屋上にはたくさんテーブルやベンチが用意されていて、この開放的な空の下で食べるうどんがものすご~く好きだったんですね。

 

先日、平日の昼間に急遽パソコンの外付けハードディスクが必要になる事態におちいり、池袋のビックカメラまで買い物に出ました。さっさと用事は済んで帰り道、歩いているだけで気持ちいい気候の中、抜けるような青空に浮かぶ雲を見ていたら、「あ、かるかやだ」と思ったわけです。
久しぶりのかるかやチャンスにあたり、自分が以前とは違うポイントがひとつだけある。それは、会社員ではなくフリーランスであるということ。つまり、自己責任においていつどこで酒を飲もうが、誰にも注意はされないということ。よし、ランチ飲みだ! 秋の屋上うどん飲みだ!

 

昼下がりのプチ贅沢

 

となると、僕がよく食べていた「きつねうどん」や「たぬきうどん」あたりをつるっとすすって帰るだけではおもしろくありません。そこであるアイデアを思いつき、まずはデパ地下へ。あったあった。天ぷら屋。その名も「ハゲ天」。変わった名前ですが、銀座の老舗です。ここで天ぷらをひとつふたつ買い、豪華天ぷらうどんをつまみに飲んでしまおうというわけですね。
ハゲ天の店頭で天ぷらを物色する。めちゃくちゃ美味しそうな小柱のかき揚げや、そこにぷりっぷりのエビなども加わった三種のかき揚げあたりが、最高級品で400円くらい。やばい。かるかやのうどんくらいする。食べたいけれども、平日の昼間にはちょっと贅沢すぎか。というわけで、インゲンの天ぷらとイカ天のふたつをチョイス。それぞれ130円と160円。それから、同じフロアにある簡易コンビニで、「セブンプレミアム ストロングチューハイ はじける爽快ドライ」という缶チューハイの500mlを1本購入。エレベーターで屋上へ。

 

久々の再会

 

ここの屋上、2015年にめちゃくちゃスタイリッシュにリニューアルされ、話題の飲食店なども多数出店するようになったのですが、それでも昭和43年から営業を続ける人気店「かるかや」を残してくれていたのを見たときは、本気でスタンディングオベーションしたくなりました。2015年某日、屋上でひとり、かるかやに向かって拍手をしていた男を目撃したという方がいるなら、それは私です。
久しぶりのかるかや前に到着。秋の入り口とはいえ、まだ暖かいうどんを食べる気分ではない。天ぷらもあるからうどんはシンプルでいい。「つけうどん」(500円)だな。

 

受け取ったうどんをしげしげと眺めてみる。まずね、麺のツラがまえがいいんですよ。真っ白ではなくてほんのり茶色っぽく、いかにも手打ちといった不揃いの麺。黒っぽいつゆに生卵がひとつと、刻んだネギと、ガリガリとした揚げ玉がたっぷり。このつゆもいい。ネギと揚げ玉を箸でつまみ、まずはそれだけ食べてみる。あ~、そうだそうだ! この、ちょっと甘みがあって味の濃い、独特のつゆ! これがかるかやの味なんだよな。すかさずチューハイをごくり。空を見上げる。最高の気分。
さて、麺をすすります。よ~くつゆに浸して、豪快にズズズッと。あ~、なんていうんだろうな、この麺は。さぬきうどんのように洒脱でもなく、武蔵野うどんのように無骨でもなく、伊勢うどんのように柔和でもない。コシ強すぎず、やわすぎず、もはや「かるかやうどん」としか表現しようのないうどん。これがたまらなくうまい。チューハイごくり。
インゲン天いってみます。つゆに浸して一口むしゃり。うわ、びっくりするくらい甘くて美味しいぞ! さすが銀座。チューハイ。もう一口インゲン。うどん。チューハイ。
続いてイカ天。つゆに浸してもぐもぐ。っく~……イカ、うますぎ。チューハイ。もう一口イカ。うどん。チューハイ。
うどん、天ぷら、チューハイ、すべてが1/3ほどになったところで生卵を突き崩し、すべてをつゆの中に入れてしまう。さっとかきまぜ渾然一体となったところを、ズズズッとかっこむ。いや~、はは……こんなにうまかったっけ? かるかやのうどん。
至福の昼飲みタイムでした。

酒場ライター・パリッコのつつまし酒

パリッコ

DJ・トラックメイカー/漫画家・イラストレーター/居酒屋ライター/他
1978年東京生まれ。1990年代後半より音楽活動を開始。酒好きが高じ、現在はお酒と酒場関連の文章を多数執筆。「若手飲酒シーンの旗手」として、2018年に『酒の穴』(シカク出版)、『晩酌百景』(シンコーミュージック)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)と3冊の飲酒関連書籍をドロップ!
Twitter @paricco
最新情報 → http://urx.blue/Bk1g
 
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