電冷浴飲み
酒場ライター・パリッコのつつまし酒

 

電気風呂はお好き?

 

「電気風呂」をご存知でしょうか?
銭湯の大きな浴槽の一角にたまにある、お湯の中にビリビリと電気が流れているお風呂のことです。あれ、好きな人と、こわくて入れない! って人、両極端に分かれますよね。僕は好き派。

 

昔から銭湯は大好きで、出かけた先の街で見かけると、時間の許すかぎり入るようにしています。以前まで、僕にとっての電気風呂は、ジェットだの、バイブラだの、あれこれ趣向を凝らした湯船をひととおり堪能する中のひとつというイメージでした。お湯の中に流れる電流を感じて、「わ、おもしれー」くらいの。ところが数年前、腰痛持ちになってしまってからその地位が急上昇。あのビリビリを腰のあたりに直接当ててると、「これ、効いてないほうがおかしいっしょ」っていう気持ちになってくるんですよね。
そういえば腰痛がひどくて整骨院へ行ったとき、腰のあたりに電気治療の機械を直接当てて、ピリピリ電気を流してもらったことがあります。要するに電気風呂は、あれのお風呂版。入浴の気持ち良さまでセットになってくるんだから、お得感はなはだしいです。

 

 

今日は5でなく3で

 

知人に、けんちんさんという方がいて、いろいろなことに造詣の深い趣味人なのですが、電気風呂マニアとしても有名です。関西出身で、単身赴任で東京に出てきた数年間に、東京の電気風呂のある銭湯すべてに入ってしまったという筋金入り。今年の1月にはなんと、電気風呂だけをテーマに1冊の本『電気風呂御案内200』を上梓され、僕は縁あって、その発売記念トークイベントのひとつに、ゲストとして呼んでもらうことになりました。

 

そこでイベントの数日前、せっかくなので一度会って、それぞれの得意分野である電気風呂と酒場のコラボを堪能し、トークのネタにでもしようということになりました。
けんちんさんが指定してくれた銭湯は、西武池袋線、ひばりヶ丘駅近くにある「ゆパウザひばり」。僕の生活圏を考慮して西武線沿線から選んでくれる心遣い。そして、電気風呂の引き出しの多さ。できる男と言わざるをえません。

 

当日、けんちんさんより先に駅についていた僕は、とある角打ちで軽~く飲みつつ時間を潰していました。するとけんちんさん登場。「さっきこの先にちらりと銭湯が見えましたが、今日行くのはそこですか?」と聞くと、「いえいえ、あそこの電流の強さは5段階評価の5です! もうちょっと先に3の銭湯があるんで、今日はそこにしておきましょう」と。
いやいやけんちんさん、こちとら「電気風呂こわ~い♪」ってタイプではないんですよ。見くびってもらっちゃあ困る。5に行きましょう! という意向を伝えるも、どうしても折れてくれない。まぁ、ここは専門家に素直に従うことにしましょう。

 

 

「電冷浴プログラム」スタート!

 

「ゆパウザひばり」へやってきて、すみやかに体を洗い終えた我々。さて好きなようにお風呂を堪能するか~と思っていると、けんちんさんがすでに電気風呂の前で待ちかまえています。

 

「さぁパリッコさん、『電冷浴』を始めていきましょう!」

 

その時はまだ本を読めていなかったこともあり、「へ? 何それ?」ってなもんですが、けんちんさんはブレません。「パリッコさん、まずは電気風呂に1分間!」
突如トレーナーによる「電冷浴プログラム」が始まってしまいました。僕は内心「え~、風呂くらい好きなように入らせてよ」と思いつつ、ここまできたら今日はとことん従うことにします。

 

まずは強度3だという電気風呂へ。これがなかなかの強さで、体感的には5! 確かに、いきなり5の電気風呂に入っていたらどうなっていたかわからないぞ……。なんてことを考えていると、「はいパリッコさん、次は水風呂です!」の声。

 

近年、サウナと水風呂の組み合わせが大変「ととのう」ということで大流行ですよね。
サウナ、僕も嫌いではないんですが、こと銭湯においてはせっかちというか、なる早で風呂上がりのビールにたどり着きたいタイプなので、少々時間がかかりすぎる。なので、もちろんじっくりと時間をかけてサウナを楽しむ日もあるんですが、これまで銭湯ではもっぱら、湯船と水風呂を割とスピーディーに往復することで満足していました。そう考えると、この電冷浴はいい! 酒せっかちな自分にとても向いているように思えます。
キンキンの水風呂に、最初は勇気を出して入り、「ひーつめてー!」なんて言いながらまた1分。それをトレーナーのもと3セット繰り返すんですが、そこに未体験の世界が待っていたんですよね……。

 

 

電冷浴飲みの扉開く

 

異変に気付いたのは2回目の電気風呂へ入った瞬間で、体への電気の当たりかたが、さっきとあきらかに違う。なんていうか、電気がまろやか。
次に水風呂に向かうと、当然ながら1回目よりぜんぜん楽で、脳から快感物質がドバドバと出始めるのを感じます。続けて電気風呂→水風呂と入浴を重ねると、もはやトリップの世界。いわゆる「ととのい」体験は、電冷浴でもじゅうぶんに感じることができると知りました。しかもたったの6分間で。

 

最後の水風呂には1分といわず好きなだけ入り、それからゆっくりと休憩し、シャワーを浴びて、人生初の電冷浴体験は無事終了しました。

 

ところでこの銭湯、フロントにちょっとした規模の休憩所があり、なんと生ビールが飲めてしまうんですよね。頼まない理由など何ひとつなかったキンキンの生ビールの、「え、水?」ってくらいスルスルと全身に染み込んでいくあの感じ……。
はい、わたくし、「電冷浴飲み」に完全にハマったことをここに宣言いたします。

 

ところで、後日ひとりで行ってみた強さ5の銭湯「みどり湯」の電気風呂、マジすごかった……。漫画『ジョジョの奇妙な冒険』で、スタンド能力で直接心臓をわしづかみにして心臓マッサージするシーンがあった気がしますが、もうあんな感じ。う、うぐ~、とか言いながらもなんとか電冷浴を楽しんだんですが、一番の衝撃は、その電気風呂に5分くらいつかり続けているおじいちゃんがいたことです。

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