コンビニおでんという手があった!
酒場ライター・パリッコのつつまし酒

ちょうどいいコンビニ飲みの難しさ

 

街なかでふとお酒を飲みたくなったときにとても便利な、コンビニ。いや、世の中そこまで日常的に、ふとお酒を飲みたくなるような人が多いわけではないという話も聞いてはいるんですが、僕はわりとそういうことが多いんです。

 

で、コンビニ飲みで何を選ぶか? 選択肢は幅広いですよね。真っ先に思い浮かぶのが、レジ前にあるホットスナック。フライドチキンやホットドッグ、からあげにフライドポテト。しかしながらこれらは、ちょっと1杯サクッと飲みたいときには重すぎます。肉まん系もしかり。
おつまみコーナーに売ってる乾き物類や、大好きな「さけるチーズ」。もしくはカニカマ。このあたりも悪くはないんですが、最近めっきり秋めいてきたこともあって、できればあったかいものが食べたい。
じゃあ近頃はどこのコンビニにも売っている焼鳥を1、2本というのはどうか? これまた悪くない。しかしながら、どうしても焼きたてというわけにはいかず、若干フニャフニャとしたコンビニの焼鳥を食べていると、これもうまいけど、それはそれとして、焼鳥屋行きたいな……って気分になってきてしまう。つまり、あくまで僕の場合ですが、今自分が行なっているコンビニ飲みに100%集中できなくなってしまう。
そろそろ自分で自分のわがままっぷりに腹が立ってきたところなんですが、そんな中、先日、生まれて初めて気がついたんですよね。「おでんという手があるんじゃないか?」と。

 

おでんの難しさ

 

おでんというもの自体が、自分にとってまず、かなり難しい存在です。嫌いではない。だけど好きなものが他にたくさんある。なので、「おでん、大好物です!」とは胸を張って言えないかもしれない。その理由は、やはりあの、どこかはっきりしないというか、淡すぎるというか、ご飯のおかずにもなるんだかならないんだか微妙なラインの、控えめな存在感にあると思われます。
また、批判が噴出することを覚悟に告白しますが、僕はいわゆる「練り物」全般にほとんど興味がない。おでんの花形といえるかもしれない、ハンペン、チクワ、さつま揚げ、そういったものを進んで食べたいと思ったことがあまりない。それと、大根もそこまでじゃない。おでんの大根の、味の沁みたうまさはわかる。しかしながら、みんなおでん屋さんにおいてのみ、大根を持ち上げすぎなんじゃないか? という気がしないでもない。「おでんといえば大根っしょ」と、必ず頼む人がけっこういるけど、僕個人としては、必ずしもなくても大丈夫。というスタンスであります。
じゃあ何が好きかっていうと、真っ先に「ちくわぶ」! はいここで関西方面の方だいぶ離れていきましたね。悲しいけれどもしかたない。僕が自分の心に正直におでんを語ると、そうなってしまう。あの表面がでろっとして、中がねちっとして、芯の部分が粉っとしてる、とても小麦粉だけからできているとは思えない多層構造。食感が楽しいし、ダシをよ~く吸っていて美味しい。それから、豆腐好きなので当然、豆腐。あとじゃがいも。このあたりがベスト3になるので、無意識に選んで頼んだりすると、皿の上全真っ白、なんてことがよくあります。そうすると、いろとりどりのあれこれをお皿に乗せて食べている人たちの中で、急に自分が恥ずかしいことをしているような気になってくる。粋じゃないにもほどがあると反省してしまう。おでんって本当、難しいんですよ。僕にとっては。

 

いざ、コンビニおでん飲み

 

とまぁ、そんなわけだから、これまでは冬が近づき、コンビニのレジ前におでんが並びはじめても、一度たりとも気にとめたことはありませんでした。だけどなんだろう、年齢的なものもあるのかな。今年、突然そのゾーンが気になりだした。「おでんという手があるんじゃないか?」「もしかして、いちばんちょうどいいんじゃないか?」と、無性に意識するようになった。一度意識してしまうともうダメですよね。頭から離れない。それを確かめるため、コンビニおでん飲みをしてみることにしました。

 

ファミリーマートに行ってみる。おでん、やってる。店によってはおでん鍋が常にオープンになっているところがある気がしますが、ここはフタが付いているのが好ましい。タイミングが悪かったのか仕込み中のネタが多いようですが、ある中から選んでいきます。
ちくわぶ、は、見当たらないな……。さっきさんざん悪口を言ってしまった大根、なんだか美味しそうなので、取ってみるか。それから、厚揚げ、ウインナー、これはなんだ? え、だし巻き玉子? そんなのもあるんだ。いってみっか。締めて税込、415円。
お酒は、なぜかいたずら心が働き、もっとも合わなそうにも思える、ストロング系缶チューハイ「99.99<フォーナイン>」の限定クリアキウイ味をチョイス。

 

近くの公園に移動し、いよいよ人生初のコンビニおでん飲みを開催していきましょう。
まずは茶色く染まった大根を箸で4等分し、かじってみる。おでんには上品な薄味のものも多いですが、対象的な、濃厚で攻撃的で、しかしながら、ならではの癒し感もあるつゆが、じゅわ~っと口に広がり、ホコホコとした大根の旨味も合わさって……あぁ、こりゃあもてはやされるわけだ。あらためて食うとうまいわ。
すかさずキウイ味のチューハイを飲んでみる。予想通り、合うんだか合わないんだかよくわからないけれど、これはこれで楽しい。
ソーセージをぷつり。うわ~、これまた絶品つゆが染み込んでて最高じゃないすか。
厚揚げ、がぶり。え! 何この優しい食感。今まで食べた厚揚げ史上かつてないほどにとろりとしていて、ちょっと衝撃的な美味しさです。
だし巻き卵はおでんに入っているのが不思議なほの甘さで、個人的にはやっぱり普通の玉子のほうが好みかな。けれども、キウイ味のチューハイにはこれが一番しっくりきたりして、そこがまた、コンビニおでん飲みの醍醐味のような気がしました。

酒場ライター・パリッコのつつまし酒

パリッコ

DJ・トラックメイカー/漫画家・イラストレーター/居酒屋ライター/他
1978年東京生まれ。1990年代後半より音楽活動を開始。酒好きが高じ、現在はお酒と酒場関連の文章を多数執筆。「若手飲酒シーンの旗手」として、2018年に『酒の穴』(シカク出版)、『晩酌百景』(シンコーミュージック)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)と3冊の飲酒関連書籍をドロップ!
Twitter @paricco
最新情報 → http://urx.blue/Bk1g
 
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