空気を読まずに帰るのが正解! 残業中の同僚同士の「腹の探り合い」を科学的に解明する
ピックアップ

超高齢化社会を迎え、あらゆる仕組みをアップデートする必要に迫られている日本。多様な人々の力がカギとなる中、それを拒む最大の障壁が、日本独特の働き方「残業」です。
一体なぜ、日本人は長時間労働をしているのか? 歴史、習慣、システム、働く人の思い――2万人を超える調査データを分析し、あらゆる角度から徹底的に残業の実態を解明した光文社新書『残業学』(中原淳+パーソル総合研究所著)が刊行されました。
刊行を記念して、『残業学』の一部を公開します。残業という病に対して、治療方法はあるのでしょうか?

 

 

そもそも人は「残業をしている人」に対してどのようなイメージを持っているのでしょうか。内閣府の調査結果によると、「頑張っている」「責任感がある」といったポジティブなイメージの一方、「仕事が遅い人」「残業代を稼ぎたい人」というネガティブなイメージも同じ程度あります。つまり「残業すること」についても「早く帰ること」についても、どう思われているかは一概に言えないのです。

 

 

にもかかわらず、なぜ人は「早く帰りにくい」と感じ、残業してしまうのでしょうか。

 

この現象を読み解くポイントは、「人の心の内面は、他人には絶対にわからない」ということです。

 

「残業をしている自分」は、他人からポジティブ、ネガティブどちらのイメージを持たれるのかがわかりません。「誰かが先に帰っても別に嫌ではないし、私自身ももう帰りたいな」と思っていたとしても、「私がもう帰りたいと思っているからといって、周りの同僚たちはどうだろう。もしかしたら誰かが先に帰ると嫌だと思うかも……」と考えてしまう。そして、「誰かに嫌がられることは避けたいから、残業しよう」となります。

 

職場の全員が同じように考えると、実際は全員が「帰りたい」という本音を持っていたとしても、全員が「残業する」という行動を選択してしまいます。

 

これは、社会心理学で言うところの「多元的無知」と呼ばれる現象で説明できます。

 

多元的無知とは「自分はAだと思っているが、自分以外の人は皆Bだと思っている」、と予期することで、結果的にその予期された「集団的な思い」、ここでは「B」のほうに自分の行動を合わせてしまうことです。

 

この現象が面白いのは、実際には皆がAだと思っていたとしても、「そう思っているのが自分だけだ」と「皆」が思い込むことによって結果的に「皆」がその意思とは逆の行動をとってしまうところです。人の心の内面は見えないだけに、増幅した各自の「思いこみ」こそが、内面とは全く反対の行動を選択させてしまうのです。

 

「自分は残業なんてしたくないし、同僚が先に帰っても嫌じゃない」(A)と思っていても、自分以外の人が「先に帰ることなんて許せん!」(B)と思っているんじゃないか……と考えた場合、帰りにくいですよね。職場の皆が同じように考えた場合、本当は皆「早く帰りたい」と思っているのになぜか全員がシコシコ残業に勤しむ、という悲劇が生まれます。

 

素直に自分の思う通りに行動すれば最適な結果になるにもかかわらず、集団的な「腹の探り合い=予期」が失敗することによって、誰も望んでいない結果になってしまうのです。

関連記事

この記事の書籍

残業学

残業学明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?

中原淳(なかはら・じゅん)+パーソル総合研究所

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を

この記事の書籍

残業学

残業学明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?

中原淳(なかはら・じゅん)+パーソル総合研究所