光文社古典新訳文庫編集長・中町俊伸が選ぶ「年末年始に読みたい5冊」
ピックアップ

古典を読むきっかけはいろいろとあると思いますが、今回は映画化された作品4冊(ぜひ長い休みに映像とともにお楽しみください!)と、いまもっとも大きな問題だと思う「他者とともに生きる」ことについて考えるための1冊を取り上げました。

 

『傾城の恋/封鎖』張愛玲/藤井省三訳

 

香港映画の大スター、チョウ・ユンファ主演の原作が、この張愛玲の代表作『傾城の恋』です。バツイチのお嬢様とプレーボーイの青年実業家のプライドを賭けた恋の駆け引き。お互いの思惑が絡み合う洒落た会話が最大の魅力です。『スーツ』ではありませんが、北川景子主演でテレビドラマ化されることを期待しています(笑)。

 

『モーリス』フォースター/加賀山卓朗訳

 

今年の4月に4Kデジタルで再び上演された『モーリス』。ケンブリッジ大学で知り合った二人の青年の恋愛物語です。伝統的規範と自らの性の狭間で苦悩し、愛するがゆえに深く傷つき、傷つけあうモーリスとクライヴ。内面の苦悩と対照的な映像美が印象的でした。

 

『フランケンシュタイン』シェリー/小林章夫訳

 

現在上映中の『メアリーの総て』の主人公、メアリー・シェリーが18歳で書きあげた不朽の名作が『フランケンシュタイン』です。その醜い姿ゆえ疎外され見捨てられた〈怪物〉は、やがて知性と感情を獲得し、人間の愛と理解を求めるが……。道ならぬ恋とわが子の死。波乱の人生を歩んだメアリーの人生がこの重なり合う小説です。映画を観る前に、また観た後にぜひ。

 

『カメラ・オブスクーラ』ナボコフ/貝澤哉訳

 

偶然出会った美少女マグダに夢中になり、理想の女性像を見出して倒錯的な愛情を注ぐ美術評論家のクレッチマー。マグダのしたたかさに翻弄され、裏切りにも気づかず、妻と別居し、愛娘も失ってしまう。「ロリコン」という言葉の元になった映画『ロリータ』の衝撃は今でも強烈ですが、この原型と言えるのが『カメラ・オブスクーラ』です。クレッチマーの滑稽ぶりは“パパ活”どころではありません。

 

『寛容論』ヴォルテール/斎藤悦則訳

 

プロテスタントであるという理由から実子殺しの容疑で父親が逮捕、処刑された実際の事件を題材に、ヴォルテールは、人間理性への全幅の信頼から寛容であることの意義、美徳を説きました。狂信的な信仰と人種、民族の違いからくる差別意識、意見を異にする人々への不寛容など、いまもっとも読まれるべき問題を提起している古典です。

 

 

中町俊伸(なかまち・としのぶ)
早稲田大学政治経済学部卒。光文社に入社後は、広告部、女性自身編集部、学芸編集部、バーサス編集部を経て、古典新訳文庫創刊の2006年から翻訳編集部勤務。2016年11月から編集長。

光文社古典新訳文庫

光文社古典新訳文庫

Kobunsha Classics
「いま、息をしている言葉で、もういちど古典を」
2006年9月創刊。世界中の古典作品を、気取らず、心の赴くままに、気軽に手にとって楽しんでいただけるように、新訳という光のもとに読者に届けることを使命としています。
光文社古典新訳文庫公式ウェブサイト:http://www.kotensinyaku.jp/
光文社古典新訳文庫公式Twitter:@kotensinyaku
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