ブラックホールを直接見る――宇宙はなぜブラックホールを造ったのか(19)
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理論の産物

ブラックホール――。もともとは理論的に思いつかれたものです。ニュートン力学が信じられていた時代でもブラックホールのような天体があると想像されていました。とても重い星があったら? とても密度の高い星があったら? そのような星からは光でさえ出てこられなくなるのではないか? 18世紀、英国の物理学者、ジョン・ミッチェルはそのような星を“ダーク・スター”と名づけました。

 

その後、20世紀を迎えて、アインシュタインが重力理論である一般相対性理論を完成させました。ドイツの物理学者、カール・シュバルツシルトは第一次世界大戦の戦場で、アインシュタイン方程式を解き、ブラックホールが生まれる解を見つけました。しかし、それでもブラックホールが宇宙に本当にあるとは誰も思っていませんでした。

 

間接的な証拠

20世紀中葉を過ぎると、宇宙を観測する技術が可視光だけではなく、電波からX線まで格段に進歩してきました。すると、星の放射するエネルギーでは説明できない銀河中心核や、X線で明るく輝く星などが見つかるようになってきました。

 

それらはどうも、ブラックホールの重力をうまく利用してエネルギーを出している天体であると理解されるようになったのです。特に、銀河の中心にあるブラックホールはとても重いので(太陽質量の百万倍から百億倍)、「超大質量ブラックホール」と呼ばれるようになりました。

 

しかし、現状では、間接的な証拠が集められているだけです。ブラックホールは事象の地平線(地平面)に取り囲まれた領域なので、中を覗き見することはできません。

 

では、事象の地平線は見えないのでしょうか? 

 

事象の地平線を見ることができれば、私たちはブラックホールを直接見たことになります。

 

事象の地平線を見る

じつは、事象の地平線を見る望遠鏡が完成しつつあります。その名も“Event Horizon Telescope(事象の地平線望遠鏡)”。略して「EHT」と呼ばれています。

 

使う波長帯は可視光ではなく、波長1.3ミリメートルのミリ波(周波数では230 GHz [ギガヘルツ])と呼ばれる電波です。地球規模の電波干渉系を作って、ものすごい角分解能を達成し、超大質量ブラックホールの事象の地平線を見てやろう。それがEHTの目論見です。

 

図X1 EHTの観測網。

 

(EHT)
https://eventhorizontelescope.org/science

 

では、どうやって事象の地平線を見るのでしょうか? 

 

それは超大質量ブラックホールに落ち込んでいくガスが加熱され、光り輝くので、その光を頼りにブラックホールを“影”として見るのです。その名も「ブラックホール・シャドウ」(図X2)。黒いものを影で見る。なんとも面白い観測です。

 

図X2 ブラックホール・シャドウの予想図。赤い丸が事象の地平線。青や白の構造がブラックホール周辺で輝くガスの構造。

(EHT)
https://eventhorizontelescope.org/news/planning-images-black-hole-new-image-analysis-tools-presented-aas-nova

 

では、どの超大質量ブラックホールを観測すればよいでしょうか? 

 

候補は二つあります。一つは銀河系の中心にあるもの、そしてもう一つはおとめ座銀河団の中にある楕円銀河 M87 の中心にあるものです。

 

M87は銀河系の中心に比べると遠いのですが、M87の中心にある超大質量ブラックホールはかなり重く、銀河系の中心にある超大質量ブラックホールの質量の百倍も重いのです。そのため、これら二つの超大質量ブラックホールの見かけの大きさはだいたい同じになります。そしてその大きさは数マイクロ秒角。つまり、EHTの角分解能程度になるのです。

 

ところで、M87は強烈な電波ジェットを出している楕円銀河です。このようなジェットを出す楕円銀河の中には超大質量星ブラックホールが連星のようにグルグル回っているものがあります。それらは、超大質量ブラックホールを持つ二つの銀河が合体してできたものなのでしょう。ひょっとしたら、M87の中心にも二つの超大質量星ブラックホールがあるかもしれません。EHTがそれを発見したらすごいことですね。

 

EHTはどんなブラックホールの姿を見るのでしょう。期待して、筆を擱くことにしましょう。

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宇宙はなぜブラックホールを造ったのか

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