akane
2019/04/23
akane
2019/04/23
後継者不在で、廃業する会社が増えているというニュースを見聞きしたことはありませんか?
実際のところ、廃業は増えています。どれぐらいの会社が毎年廃業しているのか、東京商工リサーチの発表によると、年間の廃業数は4万社ほどのようです。
ただ、この数字が実態に合っているかは疑問です。廃業する会社の中には、法務局や裁判所への手続きをしていないところもあるからです。会社としての箱は残っているけれど中身がない、事実上の廃業というケースです。調査機関はきっとすべてを拾い上げられないので、実際の廃業数はもっと多いでしょう。
経済産業省は、2017年に「127万社もの会社が廃業予備軍になっている」というデータを発表し、世間に衝撃を与えました。日本には約380万の中小企業があり、社長の平均年齢は66歳へと高齢化しています。「もうすぐ社長が引退を迎えるが、後継者が決まっていない会社」というフィルターをかけると、127万社が抽出されるようです。この数字は日本の会社全体の約3分の1にあたります。
これらの会社が本当に廃業となれば、その影響で失われる雇用やGDPの損失はとても大きなものになるでしょう。ひとまず、たくさんの会社が廃業の危機を迎えていて、それが日本全体にとっても大きな問題であることは、ご理解いただけると思います。
127万社が廃業するかもしれないという予想は、事業承継の現場を渡り歩いている私には「やはりそれぐらいあるか」と納得させられるものがありました。さらに言えば、消えてしまう会社の数はこんなものでは済まないかもしれないと、危惧しています。
かつての私は、今のような事業承継を主としたコンサルティングをまだしていませんでした。司法書士の資格を取った後は、借金で困った方の債務整理や過払い金の回収、個人の相続支援などを主たる業務としていました。ある程度組織が大きくなったところで経営の方向性に悩むようになり、最終的には事業を他社へ譲渡。そこからコンサルティングのスタイルを模索し、中小企業に寄り添う今のかたちにいたりました。10年近く前のことです。
そこで初めて知った中小企業の内情は、私の想像をはるかに超える悪さでした。
まず、どこの会社の社長も高齢で、会社勤めだったならばとっくに定年を迎えているはずです。60代の社長ならば若いと感じるレベルです。
「社長が会社を退いた後の経営はどうなるのだろうか」という視点で、社内を見回してみます。ところが、次代に向けた準備をしている会社なんてほぼありませんし、社長の後を担えそうな人もいません。70歳をゆうに超えた社長が、なんとか会社を回そうと、自らが現場に立ち、残された元気を振り絞って孤軍奮闘しているような姿が典型です。そう長い間持ちこたえられないことは明白です。
大手M&A仲介会社の幹部の方に話を聞いたところ、「会社を売却したいと話を持ってくる理由の9割以上が事業承継の問題だ」と言っていました。それだけ多くの社長が出口を求めています。
とはいえここまでは、経産省が言う後継者不在による廃業予想のデータが伝えている範疇です。私はここに、業績不調型の廃業も加わってくると予想しています。
これまで経営の数字を見せていただいた会社の中には、稼げていない中小企業がたくさんありました。代表的なケースは、顧客やニーズの減少に対応できていない会社です。商店街で営業している店が、人通りの減少とともに売り上げを落としてきたケースや、モノづくりの下請けをやっていた会社で、顧客が生産現場を海外に移してしまったようなケースです。
借金が重くなり、身動きが取れないケースもありました。過去の投資の失敗などで借金だけが残り、その返済で首が回らなくなっている状況です。日々借金の返済に追われ、新しいチャレンジがまったくできていません。ジリ貧になるのもうなずけます。
私の肌感覚では、今存在している会社の半数近くはこれらのような「稼げていない会社」に該当します。世の中に出回るデータでは、赤字の会社は少なく見えるかもしれません。しかし、オーナー社長が支配する小さな会社となれば、決算書はある程度操作できてしまいます。借金相手の銀行などがいる手前、赤字を回避するために、無理やり黒字にすることだってできます。たとえば、すべての経費を計上しなかったり、社長が自分の給料を大幅に減らしたりすれば、その分利益を出すことだってできます。経費を減らして利益を増やそうとする行為は税金を増やす結果になるので、税務署としても咎める必要はありません。
経営コンサルティングを始めた当初、私は会社分割を使った企業再編の企画やコーディネートを武器に、中小企業の経営に関わり始めました。会社分割という手法は、簡単に言えば会社を分けることです。それ自体は良くも悪くもありません。
ところが、相談のために会社に呼ばれて行ってみると、そこで待っているのはネガティブな場面ばかりでした。「借金が膨れすぎたから、事業と借金を分けたい」「不採算部門を切り離して整理したい」といった後ろ向きなニーズばかりだったのです。
稼げていない会社は、一般的な感覚よりも、実際はもっと多いのが現実だと思います。学者や行政機関のように客観的な調査だけをする人たちにはつかみ取りにくいものが、奥底に横たわっています。こうした会社はいずれ、たたむか、潰されるか、手放すかを迫られます。稼げていない会社とは、あなたが手に入れることもできる会社です。そこまで範囲に含めると、世の中の会社の半数以上が事業買収のターゲットになるかもしれません。世の中には「絶滅危惧社」がたくさんあります。
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