アメリカにある「実物大のノアの方舟」に行ってみた
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前回のコラムでは、創造論を信じている人たちと向き合って肉声を聞いたことで、「アメリカには進化論を否定し、創造論を信じる人がいる」という現実をしっかり実感できた話をしました。そして、その体験を通して、「もう一つのアメリカ」に触れた気持ちになったことも述べました。今回のコラムでは「実物大のノアの方舟」について記します。

 

実物大!! ノアの方舟

 

私は創造論の世界を再現した創造博物館の存在に驚かされたのですが、そこから車で約1時間走った小高い丘の上にある、さらに現実離れした風景と出会って、いっそう驚くことになりました。

 

そこには、地上の動物を大洪水から救ったという「ノアの方舟」が、聖書に基づいて「実物大」で復元されていたのです。

 

全長155メートルに及ぶ「方舟」は圧巻でした。

 

あまりにも巨大で、カメラのファインダーに全体を収めるのに苦労しました。(写真を参照)

 

全長155メートルの「実物大・ノアの方舟」。方舟の近くにいる人と大きさを比べると、その巨大さがわかる(2017年7月、ケンタッキー州ウィリアムズタウン)

 

これは、創造博物館を運営する団体が2016年7月に新たに作ったテーマパークで、創造博物館の姉妹施設です。

 

方舟のなかに入ると通路脇にはびっしりと飼育小屋が並び、方舟が運んだとされる動物の模型が展示されています。広報担当者のパトリック・カヌスキーさんは「聖書で書かれているノアの方舟を正しく再現し、伝えるのが目的だ。我々は聖書の言葉に厳密に従っている」と話しました。

 

私は、カヌスキーさんに進化論をどう思うかについて聞いてみました。

 

「私は進化論を信じない。聖書に書かれていることを信じている。自分の子どもたちにも創造論を教えている。真実を教えるべきだからだ」と答えてくれました。

 

実物大「方舟」について、別の解説員は「ここの展示を見ることで、ノアの方舟が神話ではなく、本当の歴史であったことを理解できる」と胸を張っていました。

 

「本当の歴史」であることを示すために、「ノアの方舟」に対するよくある批判への回答も紹介されていました。

 

「ノアの方舟」が大きいとはいえ、巨大な恐竜をどうやって運んだのかという批判に対しては、「小さな子どもを乗せた」などと反論していました。

 

また、180万種にも上るとされる膨大な生物種をどうやって運んだのかという批判に対しては、「すべての生物種のうち、魚や植物、バクテリアなど方舟が運ぶ必要がない生物が全体の98%以上を占める。方舟は、陸に住む動物の祖先となる生き物を運べば十分で、運ぶ動物は1398種類になる」と答えていました。1398種類の動物を数ペアで運ぶために、動物の数は6744になったといいます。

 

ちなみに魚や植物、バクテリアなどは方舟が運ばなくても、洪水を生き延びることができるから、運んでいなかったそうです。

 

たしかに、魚は泳げますし、植物の種は洪水が終われば芽を出すことができます。バクテリアも、なんとか生き延びることができたのでしょう。

 

首の短いキリンが登場

 

施設は3階建てになっていて、大きな動物を飼育する小屋から小さな鳥小屋まで、整然と並んでいました。展示の説明によりますと、大型の飼育小屋186個、中型の飼育小屋は293個、鳥小屋は308個あるそうです。ほかに、両生類専用のケージや、超大型の飼育小屋などもありました。

 

大きめの飼育小屋には、「首の短いキリン」の模型が展示されていました。(写真を参照)

 

現代のキリンの祖先とされる、首の短いキリンの模型

 

現在のキリンの祖先なのだそうです。

 

彼らの説明では、同じキリンのグループのなかで、首の長さが変わるような進化は認められているようでした。

 

動物たちの餌の保管場所なども展示されていました。(写真を参照)

 

写真中央のケージには動物の模型が入れられ、右側には、動物の餌を入れたとされる袋が積みあげられていた

 

船内を照らす火をともすためのオリーブオイルや、動物たちの飲み水を保管するツボもたくさん並んでいました。動物たちのために必要な餌や水の量などのデータを示し、それらを保管できるように設計されていることも、細かく説明されていました。

 

私はここで、「これらは空想ではなく、現実に起きたことだ」というリアリティーを示そうとする強い意志を感じました。そして、「おつかれさまでした」と言葉をかけたい気分になりました。

 

約1億ドル(約110億円)の資金、100万人の来訪者

 

「ノアの方舟」は約1億ドル(約110億円)の資金を投じて建設され、開館から1年で約100万人が訪れたといいます。

 

大人の入場料は2019年3月の時点で、「ノアの方舟」が48ドル(約5280円)、「創造博物館」が35ドル(約3850円)と、それなりの金額です。子どもはそれぞれ15ドル(約1650円)でした。両施設を合わせたチケットは割安で、大人が75ドル(約8250円)、子どもは25ドル(約2750円)でした。

 

4人家族で2つの施設を訪れると、入場料だけで200ドル(約2万2000円)にもなってしまいます。

 

創造論こそ真実だ――「方舟」を訪れた人たちに話を聞いてみた

 

「方舟」を訪れた人たちに話を聞いてみました。

 

中西部アイオワ州から車で8時間かけて孫を連れて来たというビル・ナイトさんは、「聖書で読んではいたが、実物を見ると大きさに圧倒される」と感激していました。また、「進化論はただの理論であり、事実ではない。創造論こそが真実だ」と話しました。さらに「交配で品種を改良したり、生きている間に環境に適応したりすることは、見ればわかるが、生物が異なる種に進化することはない」と、進化論の問題点を指摘していました。

 

ナイトさんは10年前に「創造博物館」を訪れ、今回は新たにできた「方舟」を見るために孫を連れてきたのだそうです。熱心なリピーターなのです。

 

中西部ミシガン州から車で4時間かけて来たという50歳代のサニー・ジョージさんも「方舟が実際にどんなものだったのか。それを見たくて来たんだ。聖書に基づき、こんな規模のものを作るなんてまったく想像できなかったし、信じられないよ。来る価値は十分にあった」と満足そうでした。そして、ジョージさんは次のように強調しました。

 

「子どものころから事実に基づいて判断するように心がけてきた私にとって、進化論を正しいと考えることは難しいよ。とても小さな生き物や大きな生き物、私たち人類はどこから生まれたのか。宇宙にある数百万の星や銀河はどこから生まれたのか。創造主がいると考えないと、つじつまが合わない。学校では進化論と創造論の両方を教え、子どもたちにどちらが正しいかを選ばせるべきだ。政府や学校が、進化論が正しいと押し付けるのは間違いだ」

 

「創造博物館」でも「ノアの方舟」でも、来ている人にインタビューをお願いすると、みんな親切に話をしてくれました。「マスコミのインタビューなんて面倒くさい」とか「どうせ偏見を持って見ているんでしょ」といった身がまえた雰囲気はなく、「自分の思いをわかってほしい」といった感じで、熱く、そして丁寧に語ってくれたのが印象的でした。

 

※本稿は、三井誠『ルポ 人は科学が苦手』(光文社新書)の内容の一部を再編集したものです。

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ルポ 人は科学が苦手アメリカ「科学不信」の現場から

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