そのポジショニングは意味がない? 絶対に忘れてはいけないマーケティングの細分化3原則
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あなたは、経営戦略の勉強を、「経営手法やフレームワークを覚えること」で終わらせていませんか? 昨今の日本では、毎年のように新しいビジネス用語やフレームワークが海外から輸入され、関連する書籍の出版やセミナーが盛んに行われている。しかし、それらには限界があり、一見客観的に見える手法に実は作成者の意図が潜り込んでいるといった数々の“落とし穴”が潜む。こうしたフレームワークの「正しさ」と「危うさ」を解説した光文社新書『ビジネス・フレームワークの落とし穴』が発売されました。
本書から(1)経営戦略 (2)マーケティング (3)組織・人事 (4)財務・M&A (5)その他 の5つの場面におけるフレームワークとその“落とし穴”を抜粋し、全4回に分けてご紹介します。
今回は、マーケティングにおいてよく用いられる「STP+4P」と「ポジショニング」の“落とし穴”を見ていきます。

 

 

■STP+4P(Segmentation, Targeting, Positioning + Product, Price, Place, Promotion)

「手順は有名だが、現実はProduct から?」

 

企業がマーケティング戦略を立案する際の手順として、世界中で定着している概念がSTP+4Pである。

 

まず市場を細分化(Segmentation)し、その中で自社がターゲットとする市場を定め(Targeting)、次に競合との違い(Positioning)を確認する。それらに基づいて、製品(Product)、価格(Price)、チャネル(Place)、販売促進(Promotion)のマーケティング・ミックス(4P)を決定していく。この流れを、頭文字をとって、STP+4Pと呼んでいる。

 

……………………………………

 

確かにSTP+4Pは、教科書的には正しい。しかし実際に企業では、このような手順を踏んで、マーケティング戦略を立てているだろうか。

 

現実には、企業がマーケティング戦略を立てる場合、製品(Product)がおおよそできあがってから、残りのSTP+3Pを考えることが多い。

 

できてしまった製品に関して、どのようなターゲットが買ってくれそうか。

 

今さらながら、競合製品、自社の既存製品とどこが違うか(どこが評価されそうか)を見える化し、そして、価格、チャネル、販売促進を決めていく。

 

古い事例ではあるが、ソニーがヘッドフォン・ステレオ「ウォークマン」を開発したのは、若いエンジニアが小型の録音機「プレスマン」を遊びで改造して、音楽を楽しんでいるのを見たトップが注目し、開発の号令をかけたのが始まりであった(1)。

 

試作品ができた後、「ウォークマン」という商標や、ヘッドフォンをしたモデルにローラースケートを履かせて原宿を走らせるなどのマーケティング・ミックスが決定したのである。

 

逆に言えば、ソニーの開発部門で、再生専用ヘッドフォン・ステレオのコンセプトが練られ、ターゲットを若者に設定し、商品が開発されてきたわけではないのである。

 

このようなプロセスでSTP+4Pが決まっていくことが多いので、製品は小手先の修正しかできないことが多い。

 

逆に、製品が見えない状態でポジショニングすることは、かなり難しい作業と言える。

 

注1 黒木靖夫(1987)『ウォークマン流企画術』筑摩書房

 

■ポジショニング(Positioning)

 

「競合相手のいない空間に新製品を位置づける作業」

 

競合する製品・事業と比べて、自社の製品・事業にどのような特長があるかを、通常2つの軸上に位置づけることを指す。

 

マーケティングにおいては、市場に製品を出す前に必ず行う作業でもあり、多くの場合、自社の製品・事業は、他社があまりいない象限に位置づけられる。

 

……………………………………

 

しかし企業で使われたポジショニングの図を見ると、時々おかしな図が見られる。例えば、図表29を見てみよう。

 

 

図表29を見ると、第1象限と第3象限にしか製品が位置づけられていない。第1象限と第3象限のみ、あるいは第2象限と第4象限のみにしか製品が登場しないポジショニングは、2軸で位置づける価値のないポジショニングである。

 

なぜなら、一般に高機能な製品ほど高い値づけがされているはずであり(高機能な物を安く売ったら、企業は損してしまう)、実は、この2軸は独立した軸(相互に無関係)になっていない。

 

実際に公表された例として、図表30がある。

 

 

香味の良いコーヒーは、一般に価格は高い。

 

ポジショニングのためには、2つの軸は独立である必要がある。

 

第2に、図表31もおかしいところがある。

 

 

図表31は、過去よく見られたビールのポジショニングであるが、コクとキレは、はたして両極であろうか。

 

昔はコクを高めればキレは落ち、キレを高めればコクは落ちるというのがビール業界の“常識”であった。

 

しかし「コクもあるしキレもある」ビールが開発され、それ以来この図は使えなくなった。

 

すなわちポジショニングの軸の両端は、対極の概念でないとまずいのである。

 

第3に、図表32も二重の意味でおかしい。

 

 

図表30と違って、タテ軸とヨコ軸は独立の軸である。また図表31と違って、軸の両端は対極に近い。

 

しかし問題はヨコ軸にある。

 

男と女は両極であるから、良いかも知れないが、はたして原点(ゼロ)は何を指すのだろうか。男と女は連続量ではなく離散量(イチかゼロ)なので、ヨコ軸上の位置は、意味がないことになる。

 

すなわち、ポジショニングの軸は、連続量でなくてはならないのである

 

さらに言うと、図表32はポジショニングの図ではなく、セグメンテーション(市場細分化)の図になっている可能性がある。

 

自社の製品・サービスを位置づけているのではなく、この製品・サービスを買ってくれそうな顧客を位置づけている可能性があるのだ。

 

ポジショニングの図とセグメンテーションの図は、しばしば混同されがちである。

 

以上3つの原則、

 

(1)2軸は独立 (2)軸の両端は両極 (3)軸は連続量

 

は、ポジショニングをする時に、忘れてはならないポイントである。

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