akane
2019/05/27
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2019/05/27
SWOT分析は、自社の強み(Strength)と弱み(Weakness)、環境の機会(Opportunity)と脅威(Threat)を分析して、戦略を導き出す方法である。その4つの頭文字をとって、SWOT分析と呼ばれる。
起源としては、1960年代にハーバード・ビジネス・スクールの経営政策グループによって開発されたとする説や、スタンフォード・リサーチ・インスティテュート(SRI)のアルバート・ハンフリーが確立したという説もあり、定かではない。
おそらく日本企業で最も使われているビジネス・フレームワークの1つであるが、戦略系の経営コンサルタントは、ほとんど使わないフレームワークでもある(その理由の1つとして、彼らは、課題を絞りこまないで、ただ分析から入るというやり方をとらない)。
SWOT分析に関して、公開された例を2つ紹介しよう。正しく使われているのは、どちらであろうか?
どちらも正しい気もするが、残念ながら2つとも、使えるSWOT分析とは言いにくい。
これらのどこが間違っている、もしくは使えないのであろうか?
以下では、SWOT分析の落とし穴を2つの点から見ていこう。
経営戦略のテキストを読むと、「SWOT分析から戦略が導かれる」と書かれているが、実際には、やりたい戦略が先にあって、上司やトップ・マネジメントを説得するために作られるのがSWOT分析である。
何故そうなるかと言うと、「主語のないSWOT分析は作れない」からである。
言い換えれば、「ソニーのSWOT分析をしろ」という課題は、回答不能である。
例えば、ソニーがゲーム機のプレイステーションを開発しようとした時と、現在はスピンアウトしているが、パソコン「VAIO」を開発しようとした時に、はたして同じSWOT分析が行われたであろうか?
プレイステーションを開発する時に、SWOT分析を行ったとすれば、「機会」として、ゲーム機市場の伸び、顧客層の拡大などがあげられ、「脅威」として、ゲーム機市場は任天堂にほぼとられていたことがあげられるだろう。一方、経営資源としては、ソニーは当時レコード店という販売チャネルを持つ「強み」があったが、ゲームソフトの開発の経験や販売ルートは持っていなかった(弱み)。
一方、「VAIO」を開発する時にSWOT分析を行ったとすれば、「機会」として、パソコン市場の伸びがあげられ、「脅威」としては、当時パソコン市場はNEC、富士通、IBM等にすでにおさえられていたことがあげられる。
かたや、経営資源としては、ソニーはMSX、AXという8ビット、16ビットのパソコンを開発・販売した経験を持つが(強み)、IT業界でのプレゼンスは相対的に低かった(弱み)。
以上のように、ゲーム機の時とパソコンの時では、全く異なるSWOT分析が行われるのであり、主語のない「ソニーのSWOT分析」というものは、存在しないのである。
例えば、「営業マンが3000人いる」という事実は、競争相手によって、強みにも弱みにもなる。
それ故、やりたい戦略が見えてから行うのがSWOT分析であり、社内説得用のフレームワークとして、今日でも多用されているのである。
電器メーカーのSWOT分析(図表4)の機会の欄に、「介護保険対象層の拡大」という記述があったが、これなどは、後に介護事業への進出という戦略の提示がない限り、普通の電器メーカーのSWOT分析として書かれるのは、極めて唐突であり、奇妙である。
すなわち、作成者が介護事業の提案を念頭に置いて作成したものと言える。
また、図表5、三越伊勢丹のSWOT分析に関しては、主語が三越伊勢丹に限定されておらず、「老舗百貨店」を主語にした程度の分析しかなされていない。この分析を競合の髙島屋に持っていっても、松坂屋に持っていっても通用する。
すなわち、三越伊勢丹の経営資源の特徴が反映されておらず、これをいくら分析しても、使える戦略は出てこないであろう。
SWOT分析では、強みと弱み、機会と脅威を抽出しなくてはならない。しかしこの作業は、思ったほど簡単ではない。
まず強みと弱みに関しては、例えばNTTにとって、基地局、各種通信設備・装置を持っていることは、将来の事業展開にとって強みと考えやすい。
しかし、ハードウエアを「持っている」ということは、大きな環境変化に対しては、「資産」ではなく、逆に「負債」になってしまう可能性もある。
NTTがIoT通信事業に参入しようと思えば、すでに持っているハードウエアがそのまま利用できる。
しかしIoTを利用したいベンチャー企業が、NTTのような大手通信キャリアのシステムを利用するには、初期費用もかかり、料金も定額制が多く、停止や変更の手間も多い。
こうした中、アマゾンのクラウドと似たサービスをIoT分野で提供しようと、ソラコムが創業された。
NTTがハードウエアで実現する機能を、ソラコムはすべてソフトウエアで実装し、低コストとシステムの柔軟性を実現した。ユーザーが初期費用として払うのは、SIMカードが1枚954円だけで、基本料金は1日10円、データ通信料は従量制で驚異的に安い。
さらに、ユーザーが自分のコンピュータでサービスの利用開始・変更・休止を操作でき、拡張も縮小も自由自在である。
このように、ベンチャー企業向けのIoTシステムを展開するには、NTTが持っているハードウエアは、「強み」ではなく「弱み」になってしまう可能性もある。
またセブン銀行のATM網は、現在は強みであるが、もし日本のキャッシュレス化がスウェーデンや韓国並みに進めば、現金を引き出す機械としては、持つことが弱みになってしまうかも知れない(そのためセブン銀行では、ATMが“負債”にならないように、すでに次の戦略を考えているが……)。
このように、企業の強みは弱みにもなりうるのである。
また、「機会」と「脅威」をどう峻別するかも難しい問題である。
日本の銀行にとって、フィンテックの到来は、一般には脅威ととらえられている。IT系のベンチャー企業が、決済の周辺業務などに参入してきており、銀行の既存事業が侵されているからである。
しかしながら、フィンテックを契機に、銀行が今までリーチしにくかった顧客層にアプローチできるようにもなってきた。スマホを使ったネット・バンキングなどがその例である。
そうしたスキルと意欲を持つ銀行にとっては、フィンテックは、またとない新規顧客開拓の機会と言うこともできる。
このように、機会と脅威、強みと弱みは裏腹の関係にあり、絶対的なモノサシはないのである。
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