峰不二子、ボンドガール、そして紅子!?『紅子』北原真理
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ryomiyagi

2019/10/31

オフィスのドアを突き破って美女が殴り込みをかけてきたらどうなるか。それがこの物語のテーマである。

 

丸の内だろうが北京だろうが、会議中だろうがコピーをとっていようが、みんな結構、困るだろう。

 

黄尚炎(ホアンシヤンイエン)は困った。

 

おしかけてきた超ド級の美女・吉永紅子(よしながべにこ)、競合他社もとい敵国日本のお偉いさんの娘だったからである。それが仲間にしろと居座った。

 

一緒にいるだけで国際紛争及び漢奸問題必至。何故なら時は一九四四年。日中戦争真只中。所は満州東南部。そして尚炎は民衆を匪賊や外敵から守る由緒正しき黄威(ホアンウエイ)の攬把(ボス)である。

 

祖国を深く愛する中国人としては、如何(いか)に魅(ひ)かれる相手でも敵国日本の女性にはお引き取り願いたい。おまけにこの紅子、素手で熊を倒し狼狗(オオカミ)の群れを蹴散らす。結局、尚炎は紅子と闘った。ついでに関東軍の黒磯少佐も巻き込まれて闘った。

 

紅子は言う。私はもう、世の中に阿らないし、自分が正しいと思ったことだけをやるって決めたのよ。

 

紅子は命を懸けて信義を通す。財産もプライドも捨て、さらわれた中国人の子供達を助け出そうと驀進(ばくしん)する。

 

初めて書いた小説の主人公が実はこの紅子の原点である。どん底の惨めだった自分を励ますために、少しでも人生の明るい面を見るために、私は清く明るく美しい主人公に夢を託した。

 

我欲に走らぬ他者への愛は、いつかは報われ味方が現れる。浅薄なポピュリズムの極致とまた嗤われるだろうか。でも今も昔もそういうことが私にとっては大切だ。

 

執筆にあたっては、当時の経済事情や中国語の発音、ヴァイオリンの演奏法など、沢山の方達に教えていただいた。本当に、感謝の念で一杯である。

 

太感谢你了! 多亏了你。

 

P.S 紅子は峰不二子やボンドガールよりも×××です!

 

 


『紅子』
北原真理/著

 

【あらすじ】1944年満州。黄尚炎は馬賊の谷に女ひとりで飛び込んできた吉永紅子に呆れる。関東軍の黒磯国芳少佐は、甘粕正彦に可愛がられ、やりたい放題する紅子がとにかく憎い。トラブルメーカー紅子に翻弄される馬賊と軍人。そのうえ、金塊を狙う輩たちに追われることに。

 

PROFILE
きたはら・まり 神奈川県生まれ。東京都在住。2018年『沸点桜 ボイルドフラワー』にて第21回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し、デビュー。『紅子』が受賞後第一作となる。

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