逆転の警察小説『サンズイ』笹本稜平
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ryomiyagi

2019/11/05

いわゆる警察小説は、刑事が犯人を追うのがほぼ定番で、私の小説もこれまでその例外ではなかった。それをひっくり返したものをなぜか書きたくなった。

 

主人公が警察に追われるストーリーはかつてもあったと思うが、その主人公が刑事だというのはそんなにないと思う。警察を敵に回した一人の刑事の孤独な戦い。これは面白い——。そう勝手に決めつけて、その勢いで書いてしまったのがこの作品である。

 

タイトルの「サンズイ」は警察の符丁で「汚職」のこと。主人公の園崎(そのざき)は警視庁捜査二課所属の刑事。二課で汚職を扱うのは第四知能犯から第六知能犯までの三つのグループで、「ナンバー知能」あるいは略して「ナンバー」とも呼ばれ、二課では花形部署だ。

 

ある国会議員が絡む汚職事件の捜査中、園崎の妻と息子が轢(ひ)き逃げされた。妻は意識不明の重体で、息子は怪我は軽かったが、PTSDの症状があり、後遺症が残りそうだという。

 

犯人の行方はわからない。事件現場を管轄する千葉県警では、交通捜査課が轢き逃げ事件として捜査を開始したが、突然園崎に県警の捜査一課が事情聴取の呼び出しをかけてきた。容疑は殺人未遂——。

 

法を武器にして犯罪を追及するはずの刑事が、その武器を奪われ、法の埒外(らちがい)から、警察とその背後で蠢(うごめ)く闇に反撃を開始する。

 

これなら面白いに決まっている——。と書いた本人は思っているのだが、自画自賛というか手前味噌というか、こういう場合、いちばん信用できないのが本人の言で、私は普通そういう話は信用しない。

 

しかし本作に関しては自信がある。騙(だま)されたと思ってぜひ手に取っていただきたい(ただし返品はお受けできません)。

 


『サンズイ』

 

【あらすじ】サンズイ事案担当の警視庁捜査二課刑事・園崎省吾は、ある政治家の捜査でかかわった公設秘書の大久保に待ち合わせをすっぽかされ、同時刻に妻と息子を何者かに轢き逃げされてしまう。園崎は大久保の関与を疑うが、逆に自らが重要参考人として呼び出され……。

 

PROFILE
ささもと・りょうへい 1951年千葉県生まれ。2001年、『時の渚』でサントリーミステリー大賞と読者賞をダブル受賞。2004年『太平洋の薔薇』で大藪春彦賞。近著は『K2 復活のソロ』。

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