ryomiyagi
2019/12/27
ryomiyagi
2019/12/27
トレーナーとして試合に帯同するときは、結弦から《何月何日の飛行機××便で来て下さい》というメールをもらい、大会の数日前、カナダからやってくる結弦とほぼ同時に現地入りします。
試合が終われば、結弦はトロントに帰って練習に戻る。僕は仙台に帰り、接骨院で通常の仕事をするという感じでした。
選手とトレーナーは、必ずしもつねに一緒にいる必要はありません。たまに会うからこそ、微妙な変化に気づくこともあるのです。
そんな微妙な違いを見極めることも、専属トレーナーの僕にとって重要な仕事でした。
僕は、いつも試合会場に向かう前に、ホテルの結弦の部屋でテーピングを巻きます。ただ巻くだけではダメなんです。
テーピングをきつく巻きすぎると足の可動部分が狭くなり、演技に影響を及ぼします。反対に緩すぎると、今度は、足首の安定を欠いてしまうのです。
まずは部屋に入って「おはよう」と挨拶したときから、彼の様子を見ていきます。
いつもなら「おはようございます、先生、いつもありがとうございます」と笑顔を見せますが、ときどき同じ言葉でも、少しトーンが低いときがあるんです。
「何かあったのかな」などと思いながらテーピングをしていきますが、そんなときほど「もう少し強く巻いてください」と注文が多くなるんです。
「もう少し上にお願いします」
と言うことも。でも、「上」といってもたった1ミリ、2ミリぐらいの違いですよ。研ぎ澄まされた感覚を持っていますよね。
結弦の感覚の鋭さは、日々進化していきます。彼が口では説明しにくい理想の感覚にどれだけ近づけられるか──。
それが僕に求められていることでした。
ウオーミングアップも練りに練りました。
欠かせないのは、技を成功させるだけでなく、人を魅了させる流れる動きができる体に仕上げることです。
結弦の表情、会話、しぐさ、呼吸などから、その日の体調や感覚の情報を仕入れて、ウオーミングアップを微妙に変更していました。
結弦の場合、秒単位の調整が必要でした。僕はウオーミングアップ中は、いつもストップウォッチとにらめっこです。
一度、結弦に話したことがあるんです。
「お前のトレーナーをやっていたら秒単位だ」と。
あの子は笑っていましたけどね。
それは、フィギュアスケーターに限ったことではありません。
結弦が国民栄誉賞を受賞した2週間後、僕は「全日本一輪車競技大会」に出場する岩手県遠野町の「遠野一輪車クラブ」に帯同していました。
オリンピックだろうが、全国大会だろうが、地方大会だろうが関係ありません。がんばって練習している子たちを、全力で応援していきたいのです。
【日常での実践メソッド】
“目力アップ”セルフ・エクササイズ
過剰な緊張状態に陥った選手には錘をつけた紐を使って眼球を動かすトレーニングをして、ガチガチになった心と体を整えることがあります。
眼球を動かさないと、人は悩みがちになることがわかっています。「目が死んでいる」と言いますが、悩みや不安があるときは眼球が固定されたように動かなくなります。
そんなときは、眼球を強制的に動かすトレーニングが効果的です。それだけでも悩みや不安が消え去ることもあるのです。
以上、『強く美しく鍛える30のメソッド』(光文社)から一部抜粋しました。
イラスト/株式会社ウエイド
菊地晃(きくち・あきら)
1956年宮城県生まれ。’90年、「寺岡接骨院きくち」を開業。さまざまな不調や怪我を抱える数多くのアスリートや患者を診てきた。接骨院での施術の傍ら、毎週日曜に体幹トレーニング教室を開催し、多くの小中学生を指導している。2020年東京パラリンピックに向け、パラアスリートのサポートも行う。
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